負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

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「さて。あなたの本当の素性、気になるけれど」

朝の光が差し込む応接間で、私はレオンをソファに座らせて向かい合う。

昨夜はやつれた姿だった彼も、今は使用人が用意した服を身につけ、ひとまず落ち着いた様子だ。

背筋を伸ばして座る姿は、どことなく品があるようにも見える。

「正直に言うと、僕も自分の出自がはっきりしていません」

レオンは眉を下げて困惑気味に答える。
「それでも昔、少しだけ王宮で生活していたことがあるんです」

「王宮?」

私は思わず聞き返す。

「どうして王宮に?」

「父の実家が、王家の遠縁に当たるらしいんですが、詳しいことは教えてもらえませんでした。幼いうちに家を出されたような記憶しかなくて」

「ふうん」

それだけ聞くと、なかなか複雑な背景がありそうだけれど、レオン本人の曖昧な様子から察するに、あまり幸福な環境ではなかったのだろう。

「もし本当に王家の血筋なら、いつか連れ戻される可能性もあるんじゃない?」

そう尋ねると、レオンは小さくかぶりを振った。

「僕には価値なんてないと思います。向こうも僕を厄介者扱いしていたみたいですし」

「そうなの?」

「はい。だから、今はただ一人で生きていけたらと」

彼の口調には諦めにも似た孤独感が漂っている。

だからこそ、昨夜道端に倒れていたのかもしれない。

妙に納得していると、部屋のドアが開いてギルバートが顔を出した。

「失礼します。アデル、少しお話が」

「なに?」

私が振り向くと、ギルバートはレオンにちらりと視線を向けてから言う。

「そこに居合わせていただいても構いません。ただ、レオンさんの素性が本当なら、あまり軽率な行動はできないと思いまして」

レオンは少し緊張した表情になり、私も「そうね」とうなずく。

ギルバートは書類の束を取り出すと、淡々と説明を始めた。

「今朝の街の噂は、あなたがパーティ会場でアルト様と婚約解消したこと。そして、謎の男を連れ帰ったこと。それが一気に広がっています」

「なんだか早いわね」

「社交界は噂の伝播が速いですから。しかもあなたは元々“悪役令嬢”として注目されていました。興味本位で話を広める人が多いんです」

「あー、うるさい世間ですこと」

肩をすくめる私に、ギルバートはさらに続ける。

「それだけではありません。噂の一部に“王家の者かもしれない男を囲った”という話まで出ています」

「はあ?」

驚いてレオンを見ると、彼は「そんなはずないですよ…」とおろおろする。

「誰かが見たのか、あるいはあなたの屋敷が王家に縁のある男性を匿っているとでも勝手に誤解したのかもしれませんね」

ギルバートがそう言い終えるのと同時に、私は軽く息をつく。

まさかこんなに早く「レオンが王家関係かもしれない」という噂まで立つとは。

「いえね、私が王族だなんて」とレオンは苦笑している。

「でも、王家の遠縁だというのは本当なんでしょう? 隠してもいつかバレる可能性はあるのよ?」

私が問いかけると、彼は申し訳なさそうにうなずいた。

「そうですね。だけど本当に呼び戻されることなんてないと思います」

「まあ、呼び戻されたらそれはそれで。あなたは捨て猫じゃなくなってしまうわね」

茶化すように言うと、レオンはちょっと困ったように笑う。

「できれば捨て猫のままでいたいかもしれません」

「おやおや」

「アデル、あなたも冗談ばかり言ってないで。もう少し警戒心を持ってください」

ギルバートがまじめな口調で私をたしなめる。

「わかってますわ。私が余計なことを言わなければいいのね」

私はひらひらと手を振る。

さすがにここまで大きな噂になっているとなれば、軽々しく振る舞えば周囲の目がさらに厳しくなるだろう。
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