負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

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馬車に乗り込んで帰路につく。

車内でギルバートが椅子に深く腰掛けながら、ぼそっとこぼした。

「レオンさんはさっき、昔住んでいた場所を思い出していたと言っていましたが」
「王宮で暮らしていたんじゃなかったの?」
私が首をかしげると、ギルバートは苦笑いをする。

「王宮に入る前後でいろいろあったのでしょうね。孤児院や下町を転々としていたかもしれません」

「うん、そんな雰囲気あるよね」

レオンはこくりとうなずく。

「ごめんなさい、二人に心配をかけて。屋敷で待っていてもらえればよかったのに」
「あなたが行方不明になるほうが面倒ですもの」

そう口をとがらせると、レオンは申し訳なさそうに頭を下げる。

「ありがとう、アデル」

「別に。私に礼など言わなくてよろしいです」

「うーん、照れてるんですね」

「照れてません!」

ギルバートが小さく吹き出すのを横目に、私はわざと窓の外に目を向ける。
私のどこが照れていると言うのだ。
まったく腹立たしい。


屋敷に戻ると、祖母オルガが玄関先で腕組みをして待っていた。

「まったく、騒がしいねえ」

顔には笑みが浮かんでいるので、そう怒っているわけではないらしい。

「レオンとやら、今日の昼間に王宮関係者が来ていたとか? うちの使用人が話していたよ」

「ええ、少しゴタゴタしましたが、大丈夫です」

レオンが下手に出て答えると、祖母は彼を上から下まで眺め回す。

そして、ぽんぽんとレオンの肩を叩いた。

「まあ、あんたも大変だろうけど、せいぜいアデルに迷惑をかけないようにね」

「は、はい」

「アデルは昔から悪ぶってるけど、根はお人好しだからさ。あんたを捨てるなんてできないんだよ」

祖母がそう言うものだから、私は思わずむせそうになる。

「お祖母さま、余計なこと言わなくていいのよ!」

「ふん、事実じゃないか」

これだからこの祖母は手に負えない。

自室に戻った頃には、さすがに疲れが押し寄せてきた。

ドレスを脱いで部屋着に着替えながら、ぼんやりと鏡を見つめる。

「私は…どうしたいんだろう」

婚約破棄されて、落ち着く間もなく捨て猫のような青年を拾って、王家の関係者にちょっかいを出されて。

騒動続きなのに、不思議と嫌じゃない。
むしろ、かつて感じたことのない充実感のようなものすらある。

「もしかして、私は意外とこういうのが性に合っているのかしら」

クスリと笑ってしまう。

これから先、さらに面倒なことが起きるかもしれないけれど、レオンがそばにいてくれたら案外乗り越えられる気がする。

そして、負け犬だの悪役だのと言われても、私は私のやり方で生きていくしかない。


夜が深まり、寝室に移動すると、窓の外にぼんやりと月が浮かんでいた。
あの月は、かつて私が悲しみに暮れていたときも、夜空にいた。

「今は少しだけ、気が晴れたかもしれない」
誰にともなくつぶやいて、ベッドに横たわる。
負け犬の遠吠えはもうしばらくお預け。だって、捨て猫と一緒に堂々と生きていくつもりだから。

そう考えると、胸の奥がほんの少しだけ温かくなった。
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