負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

文字の大きさ
10 / 93

3-1

しおりを挟む
朝の光が差し込む食堂で、私はスプーンを手にぼんやりしていた。

婚約破棄やら捨て猫青年やら、連日の騒ぎでさすがに疲れているのだ。

目の前には焼きたてパンにスープ、そしてサラダが並んでいる。

いつもなら美味しくいただくのに、今朝は食欲がいまひとつわかない。

「アデル、顔色が悪いですよ」

向かいに座ったギルバートが心配そうに言う。

「大丈夫よ。たぶん寝不足なだけ」

そうは言いながらも、私は重いまぶたをこすりながらスプーンを動かす。

「レオンは?」

テーブルを見回しても、彼の姿がない。
メイドが申し訳なさそうに告げる。

「実は、早朝から屋敷の図書室にこもっておられます」

「図書室?」

私は首をかしげる。
レオンが本を読むイメージはあまりないのだけれど。

「アデル、ちょっと様子を見に行きましょうか」

ギルバートも気になるらしく、私たちはまだ温かい食事をテーブルに置いたまま廊下へ向かった。


屋敷の奥にある広めの図書室は、先祖代々の蔵書が並んでいる。
敷き詰められた赤い絨毯を踏みしめて入ると、窓辺でレオンが背伸びをしながら分厚い本を読んでいた。

「おはよう」
私が挨拶すると、レオンは顔を上げてにっこりする。

「おはようございます」

「何を読んでるの?」

「うん、昔習った帝王学の復習みたいなことをしてて」

帝王学――

私とギルバートは思わず顔を見合わせる。
彼は驚いた口調で問いかける。

「帝王学って、王や皇族が学ぶ政治や統治のための教えですよね?」

「そうそう。僕は途中で家を出されたから、あまり詳しくはやっていないけど、ちょっとした基礎は習ったはずなんだ」

さらりと言うわりに、内容は相当高度なはず。
レオンは本のページをめくりながら、当たり前のように続ける。

「ほら、国の仕組みとか、貴族間のパワーバランスの話とか。いろいろ面白いですよ」
「いやいや、面白いどころじゃないでしょ」

ギルバートが目を丸くする。
私も半信半疑のまま彼の手元を覗き込む。
文字がびっしり詰まった難しそうな本。
貴族でもなかなか手を出さない分野だ。

「あなた、そんなに頭がいいの?」

少し失礼な言い方になってしまうが、興味本位で尋ねる。
レオンは肩をすくめるように笑う。

「どうだろうね。昔、王宮の人たちに無理やり詰め込まれたんだけど、案外身体に染み付いてるみたい」

「じゃあ、結構すごいんじゃない?」

ギルバートがまじまじとレオンを見つめる。

王家の遠縁という噂は本当なのだろうけれど、こんなに自然体で“捨て猫”然としているのが不思議。

普通ならもっと気取るとか、プライドを持つとかありそうなもの。

「僕にしてみれば、別にすごくもなんともないよ」

レオンは照れ隠しのように笑う。
しかしその表情からは、どこか達観したような雰囲気が伝わる。

「まあ、あなたが何をしようと自由だけれど、とりあえず朝食は食べたの?」

「まだです。先に本を読みたくなっちゃって」

「ごはんを優先しなさいな。倒れたらどうするのよ」

私が呆れ気味に言うと、レオンは「あはは」と声をあげる。

「昨日まではあなたに拾われた“捨て猫”だったのに、今は本にかじりつく“読書猫”みたいですね」

「うまいこと言わなくていいわ」

クスリと笑っていると、メイドが食堂までご案内しますと急かしに来た。

レオンを連れて食堂へ戻ると、私のスープはすっかり冷めてしまっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...