負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

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「温め直しますわね」

メイドが申し訳なさそうにそう言って、器を下げていく。

「ところでアデル。今日、伯爵家の領地経営について会議があるんじゃないですか?」

ギルバートが思い出したように言う。
私も「あ、そうだった」と頭を抱えた。

「面倒だわ。最近、私が“悪役令嬢”として有名になったせいで、出資者にも色々言われちゃうのよね」

「まあ、あなたの素行とは関係ない領地経営だからこそ、誠実に対応したほうがいいと思いますよ」

「わかってるわよ」

周囲からは「婚約破棄されたのに伯爵家の当主代理なんて務まるの?」なんて声もある。

けれど祖母が健在とはいえ、高齢で細かい事務仕事を嫌うため、私が多くを担う必要があるのだ。

「ギルも一緒に来てくれる?」

「もちろん。あなたが変にすっ飛んでいかないように監視役です」

「失礼ね。そんなに信用ないの?」

私たちが言い合いをしていると、レオンが急に口を挟んだ。

「アデル、よかったら僕もついて行っていい?」

「え? どうして?」

「何か役に立つかもしれないし、領地経営にも興味があるから」

レオンの目は真剣そうだ。
私は少し考えてからギルバートを見ると、彼は「まあ構わないんじゃないですか」とあっさり同意する。

「ありがとうございます」

「ありがとうと言われるほどのことじゃないけれど。あなた、大丈夫なの?」
「うん、外の世界も見たいし」

そんな会話をしている間に、メイドが温め直したスープを運んでくる。

結局、レオンも一緒に領地の会議に同行することになり、私は朝食を急いで胃袋に収める羽目に。



数時間後。
私とギルバート、そしてレオンは領地管理の役人や出資者が集まる会場に到着した。

といっても、伯爵家関連のミーティングは私の屋敷ではなく、王都の貸し会場を利用して開かれることが多い。
なぜなら大勢が出入りするため、うちの屋敷だと手狭なのだ。

「アデル様、本日はお忙しい中ありがとうございます」

出資者を代表する老紳士が深々と頭を下げる。

「いえ、こちらこそ急な召集で申し訳ありませんわ」
私は社交辞令で微笑む。
横に控えるギルバートが気を遣ってくれ、レオンは遠慮がちに一歩後ろに立っている。

会場には長いテーブルが二列に配置され、椅子がずらりと並んでいる。
その一番奥の席に、私とギルバート、レオンが腰かける形だ。

「えーと、まずは収穫量の話がありまして」
役人が淡々と書類を読み上げる。
私も手元の資料をめくりながら、適宜口を挟む。

「ここの税率を少し見直せば、現地農民の負担が減るはずです」

「しかし、それだと伯爵家の収益が下がりますが」

「単純に収益だけを追えば、あとで苦労するのは自分たち。長期的に見て持続可能な方法を取らないと」

実はこうした分野になると、私はそこそこ実績がある。
悪役令嬢だと周囲には思われているけれど、伯爵家の次期当主として経営感覚は磨いてきたのだ。

「うーん」
出資者たちが難しい顔をしていると、すかさずレオンが柔らかな口調で割り込む。

「アデルの言うとおり、税率を下げれば消費が回復して結局は利益につながると思います」

「あ、レオン?」

私は驚いて振り向く。
会議に口を出すとは予想していなかったのだ。

レオンはすっと資料に視線を落としながら、穏やかに続ける。
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