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しおりを挟む「その後、どうしている?」
「どうもしていませんわ。おかげさまで私の生活は平穏です」
「嘘だろ。噂では、訳のわからん男を屋敷に住まわせているとか」
「訳のわからん男って…あなた、失礼ですわね」
さすがにカチンと来る。
レオンをバカにされたようで腹立たしい。
アルトが少し顔を曇らせる。
「だってそうだろう。身元不明で、王家の関係者だという話もある。危険じゃないのか?」
「危険かどうか、私が決めること。あなたに口出しされる筋合いはありません」
その冷たい返しに、アルトは言葉を失う。
目の端にフローラの姿が見えたけれど、今は相手にしている余裕がない。
アルトは小さく息を吐き、声を落として続ける。
「一応、元婚約者として気になるんだ。お前が危ない目に遭っていないか」
「もう他人なのだから、そんな無駄な気遣いは不要です」
そう言った瞬間、胸がちくりとした。
やはり長年の関係を断ち切った相手にこういう言葉を返すのは、それなりに痛みを伴う。
でも、もう仕方ない。
「…そうか」
アルトは寂しそうな顔をするが、それ以上は何も言わず踵を返した。
見送る私に、ギルバートがそっとささやく。
「ちょっと気の毒かも」
「私だって気の毒ですわよ。でも、もう終わった話」
「ですね」
そこにレオンがいつの間にか近寄ってきて、小声で私に耳打ちする。
「アルト様、悲しそうでしたね」
「あなた、見てたの?」
「うん、あの辺に隠れて。なんだか気まずそうだったから出にくかった」
レオンは苦笑いしている。
私は何とも言えない感情を抱えながら、言葉を選ぶ。
「悲しそうだろうと何だろうと、もう関係ない。私にはあなたがいてくれるし、ギルだっている」
「うん、そうですね」
レオンの言葉に救われるような気がして、胸が少しだけ軽くなる。
けれど同時に、アルトの姿を思い出すと心がもやもやする。
そんな私の背後から、ドレスの裾をつまむ気配。
「ごきげんよう、アデル様。珍しく感傷に浸っていらっしゃる?」
今度はフローラが戻ってきたらしい。
彼女はイタズラを仕掛ける猫のように笑っている。
「うちのアルト様があなたの様子を気にしておられたので、わたくしが偵察に来ましたの」
「人を偵察対象扱いですか?」
「あなたも婚約破棄されて傷ついてるのかしらと思って。気の毒に」
嫌味が止まらない。
でも、私は短く言うだけにしておく。
「お心遣いどうも」
「あらあら、そちらの方は…」
フローラの視線がレオンに注がれる。
まずい。
できるだけ気づかれないように離れていたのに。
「なかなか素敵な男性じゃない。見たことないお顔だけど」
「私の知人よ。よけいなことは気になさらずに」
「まさか、噂の身元不明の男ってこの方?」
フローラが興味深そうに身を乗り出す。
レオンは困ったように目を伏せてしまう。
ギルバートが「失礼ですが、あなたには関係のないことですよ」と制止するが、フローラは引き下がらない。
「ふふ、アルト様には報告しませんけど、いずれバレるんじゃなくて? 王城でこんなところにいるなんて、何か後ろ暗いことでも?」
「あなたには関係ありません」
私が冷たく言うと、フローラは上機嫌そうに軽く頭を振る。
「ふふ、そうでしたわね。ところで、もうすぐ王家の方々がご挨拶にいらっしゃるそうで。アルト様がそちらにご案内しなくちゃと言ってましたわ」
「勝手にやってください。私には関係ない」
「そちらの“捨て猫”さんも、隠れきれるかしら」
フローラは意味ありげに笑うと、また踵を返して立ち去っていく。
どこまでも腹立たしい令嬢だ。
「アデル、どうしましょう。あまり長居するとレオンさんの存在が露見してしまうかも」
ギルバートが心配そうに提案する。
「そうね。今日のところは顔見せしたし、もう帰る準備をしましょう」
「うん。僕も変な緊張してきた」
レオンが苦笑している。
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