30 / 93
7-4
しおりを挟む「アデル、味見、お願いできますか?」
「任せてちょうだい。毒見でも何でもしてあげるわ」
軽口を叩きつつフォークを手に取る。
そっと一口すくい、チーズの糸を引きながら口に運ぶと、トマトの酸味とチーズのコクが絶妙に絡み合い、思いのほか美味しい。
「あら、美味しいじゃない。正直驚いたわ」
「本当? よかった……」
レオンが胸をなで下ろす。
「ちょっとピリ辛だけど、スパイスのせいかしら?」
「こないだ市場で買ったやつを少しだけ入れてみたんです。辛すぎないように加減したんですけど、いけましたか?」
「いけるわよ。私、こういうスパイシーなのは好き」
そう言うと、周囲で見守っていた使用人たちが「おおー」と感嘆の声を上げる。
「すごいじゃないか、レオン様!」
「初めてにしては大したものだな」
賞賛の言葉が飛び交い、レオンは照れ臭そうに笑う。
それを見ていると、私まで何だか誇らしい気分になる。
「じゃあ、皆も遠慮なくたくさん食べてちょうだい。お腹を壊さない程度にね」
「あ、あんまりハードル上げないでくださいよ」
そんな他愛ないやりとりのあと、使用人たちはいっせいに料理に箸をつける(もちろんフォークやスプーンも使うが)。
ささやかなパーティの始まりだ。
ほどなくして、まるで庶民の酒場か何かのように賑やかな笑い声で包まれる。
使用人たちがテーブルを囲み、ビールやワインを少しずつ飲みながら談笑している。
私もギルバートとレオン、メイド長やコック長の近くでグラスを傾ける。
「アデル様、最近はいろいろと噂が絶えませんが……私たちは応援してますよ」
メイド長が真面目な顔で言うので、思わず私は苦笑する。
「嬉しいけど、あんまり人前で“応援”とか言わないでね。悪役令嬢らしくないから」
「悪役令嬢なんて呼び方こそ、実態とはかけ離れてますよ。アデル様がどれだけ皆のことを考えてくださってるか、私たちは知ってますから」
「……ありがとう」
少し胸が熱くなる。
私はいつだって自分が報われない立場だと思っていたし、周囲の誤解も仕方ないとあきらめていた。
けれど、こうして支えてくれる人がいるだけで、私はまだまだ頑張れる。
「そうそう、アデル様には俺たちがついてますから!」
コック長がジョッキを高く掲げる。
「おお、そうだ!」「乾杯だ、乾杯!」と、使用人たちの声が重なる。
ギルバートが苦笑しながら私に耳打ちする。
「このノリ、貴族の宴会じゃまず見られない光景ですね。まあ、アデルにとっては気楽でいいでしょう?」
「ええ、こういう雰囲気、嫌いじゃないわ」
レオンは周囲に囲まれて、いつの間にか“初めての料理”についてあれこれ質問攻めに遭っている。
「レオン坊ちゃん、次はスイーツも作ってみたら?」「あ、いいですね、プリンとか」とか、みんな勝手なことを言っているが、レオンもなんだか楽しそう。
私も自然と笑みがこぼれる。
巷では“悪役令嬢”として扱われる私が、本当はこんなに温かい人たちに囲まれているのだ——って、外の人たちが知ったら驚くかもしれない。
すると、賑やかな声が少し引いて、誰かが「あれっ?」と口にする。
「オルガ様はいらっしゃらないんですか?」
「そういえば、お祖母さま、最近は夜になると自室に閉じこもっていることが多いのよね」
祖母、オルガ・フォン・ヴァイゼル——伯爵家の支柱とも言うべき存在でありながら、最近は少し体調が優れないと言って、夜のイベントはほとんど顔を出さなくなっている。
「大丈夫かなあ……一応声だけかけてこようかしら」
私が席を立とうとすると、メイドたちが口々に「ここは私たちが行きます」と言い出す。
「アデル様はゆっくりお楽しみください」
「そうよ。あなたがこの場を仕切ってくれてるだけで、私たちも気合が入るんだから」
ありがたい申し出ではあるが、祖母のことを考えると少しだけ申し訳ない気もする。
しかし、祖母も「パーティくらい好きに楽しめ」と言っていたから、ここは素直に甘えることにした。
「わかったわ。悪いけどお願いする」
「はい、承知いたしました」
使用人たちが慌ただしく部屋を出て行く。
残された人たちは引き続きパーティを楽しむモードになり、「さあ、次はどの料理に手をつけようか」とわいわい盛り上がっている。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします
紫
恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。
王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい?
つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!?
そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。
報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。
王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。
2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……)
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる