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そして迎えた式典当日。
王城の外は、招待客の馬車がひっきりなしに到着し、まるで大市のように賑わっている。
私は黒と深紅を基調にしたドレスを纏い、レオンとギルバートを引き連れて城門をくぐる。
もちろんレオンは、できるだけ地味な装いを意識してはいるものの、その容姿が醸し出す雰囲気はどうしても上品というか貴公子然としていて、隠しきれないものがある。
「うわあ、すごい人だね」
レオンが思わず感嘆の声をあげる。
華やかな衣装に身を包んだ貴族や王宮の関係者が、大広間へ向かって流れていくのだ。
その波に乗り遅れないよう、私たちも足を進める。
「それにしても、やはり居心地悪いわね。私を見る人たちの目が、好奇と嫌悪と興味と……いろいろ混じっていてめんどくさい」
私は苦笑しながら、周囲の囁きを聞き流す。
「あれが噂の悪役令嬢か」
「王族の男を誘惑してるんですって?」
「捨て猫だかなんだか知らないけど、本当かしら」
どれも耳にしたところで害はない。
気にしていたらキリがないのだ。
「さあ、堂々と歩きましょう。噂なんて慣れたものよ」
私がそう言うと、レオンは「はいはい」と苦笑し、ギルバートは小声で「相変わらず強気ですね」と呟く。
やがて、大広間の扉が見えてきた。
広大なホールは、煌びやかな装飾と照明に包まれ、絨毯の上を数多くの貴族が行き来している。
中央のスペースでは音楽隊が演奏を始めていて、まるで社交ダンスの競演会のようでもあった。
「わあ、すごい……」
レオンはやはり驚いた様子を隠せない。
王城で暮らしていたことがあるはずとはいえ、こうした盛大な場は記憶の隅に追いやられているのだろう。
あるいは、昔からこんな場に堂々と参加できる立場ではなかったのかもしれない。
「アデル・フォン・ヴァイゼル伯爵令嬢、ただ今ご到着です!」
扉口で宣言が響くと、ざわりと人々の視線が私たちに集まる。
私は背筋を伸ばして、嫌でも目立つ立ち振る舞いをするしかない。
「ほらレオン、負けないで胸を張りなさい。。ギルバート、あまり離れないでよ」
「はいはい、承知しました」
堂々とホールへ進んでいくと、ちらほらと私に挨拶をしてくる貴族もいる。
表向きは「伯爵令嬢としての礼儀」を守ろうとしているのだろう。
私は適度に返礼しつつ、フロアの奥へ向かう。
すると、案の定の人物が視界に入ってくる。
――フローラ・ロイエンタール。
彼女は淡い水色のドレスに身を包み、まるで清楚な令嬢のように振る舞っていたが、私を見つけると薄く微笑んで近づいてきた。
「まあ、アデル様。来ていらしたのですね」
「ええ、伯爵家代表としてね。あなたも今日も素敵なドレスじゃない?」
私が素っ気なく返すと、フローラはクスリと笑みを深める。
「ありがとうございますわ。アルト様がお似合いだと言ってくださって。それに、悪役令嬢の黒と赤のドレスとは対照的ですものね」
チクチクと棘が含まれた言い回しは相変わらずだ。
「そうね、あなたは“可憐なプリンセス”を演出するのがお得意だもの。私のような悪役とは真逆ですわね」
「うふふ、本当にそう思います。
ところで、そちらの方が噂の捨て猫さんですの?
前にも拝見したけれど、王城にまでお連れになるとは、あなたも大胆ね」
フローラがレオンを見てにっこりと微笑む。
レオンは少し緊張しているのか、硬い笑みを返す。
「別に大胆でもなんでもないわ。彼は私の客人です。変な想像をしているならお門違いよ」
私がはっきり言うと、フローラはしらじらしく首をかしげてみせる。
「想像だなんて。ただ、アルト様も心配されているみたいですわ。“アデルが危険な男に利用されていないか”って」
その瞬間、レオンが少しだけ眉をひそめるのを私は見逃さなかった。
危険な男扱いされるのは、さすがに気分が悪いだろう。
彼が何か言う前に、私は先に口を開く。
「ご心配なく。私が危険にさらされているかどうか、アルトには関係ないことですわ。むしろ、あなたたちこそ私にちょっかいを出して来ないでね。余計なお世話よ」
「まあまあ、そう突っ張らないで。
私たちを敵に回すと何かと大変ですわよ」
にこり、と意味深な笑みを浮かべるフローラ。
“私たち”という言い方が妙にひっかかるが、追及しても拉致があかないだろう。
私は肩をすくめるだけにとどめる。
王城の外は、招待客の馬車がひっきりなしに到着し、まるで大市のように賑わっている。
私は黒と深紅を基調にしたドレスを纏い、レオンとギルバートを引き連れて城門をくぐる。
もちろんレオンは、できるだけ地味な装いを意識してはいるものの、その容姿が醸し出す雰囲気はどうしても上品というか貴公子然としていて、隠しきれないものがある。
「うわあ、すごい人だね」
レオンが思わず感嘆の声をあげる。
華やかな衣装に身を包んだ貴族や王宮の関係者が、大広間へ向かって流れていくのだ。
その波に乗り遅れないよう、私たちも足を進める。
「それにしても、やはり居心地悪いわね。私を見る人たちの目が、好奇と嫌悪と興味と……いろいろ混じっていてめんどくさい」
私は苦笑しながら、周囲の囁きを聞き流す。
「あれが噂の悪役令嬢か」
「王族の男を誘惑してるんですって?」
「捨て猫だかなんだか知らないけど、本当かしら」
どれも耳にしたところで害はない。
気にしていたらキリがないのだ。
「さあ、堂々と歩きましょう。噂なんて慣れたものよ」
私がそう言うと、レオンは「はいはい」と苦笑し、ギルバートは小声で「相変わらず強気ですね」と呟く。
やがて、大広間の扉が見えてきた。
広大なホールは、煌びやかな装飾と照明に包まれ、絨毯の上を数多くの貴族が行き来している。
中央のスペースでは音楽隊が演奏を始めていて、まるで社交ダンスの競演会のようでもあった。
「わあ、すごい……」
レオンはやはり驚いた様子を隠せない。
王城で暮らしていたことがあるはずとはいえ、こうした盛大な場は記憶の隅に追いやられているのだろう。
あるいは、昔からこんな場に堂々と参加できる立場ではなかったのかもしれない。
「アデル・フォン・ヴァイゼル伯爵令嬢、ただ今ご到着です!」
扉口で宣言が響くと、ざわりと人々の視線が私たちに集まる。
私は背筋を伸ばして、嫌でも目立つ立ち振る舞いをするしかない。
「ほらレオン、負けないで胸を張りなさい。。ギルバート、あまり離れないでよ」
「はいはい、承知しました」
堂々とホールへ進んでいくと、ちらほらと私に挨拶をしてくる貴族もいる。
表向きは「伯爵令嬢としての礼儀」を守ろうとしているのだろう。
私は適度に返礼しつつ、フロアの奥へ向かう。
すると、案の定の人物が視界に入ってくる。
――フローラ・ロイエンタール。
彼女は淡い水色のドレスに身を包み、まるで清楚な令嬢のように振る舞っていたが、私を見つけると薄く微笑んで近づいてきた。
「まあ、アデル様。来ていらしたのですね」
「ええ、伯爵家代表としてね。あなたも今日も素敵なドレスじゃない?」
私が素っ気なく返すと、フローラはクスリと笑みを深める。
「ありがとうございますわ。アルト様がお似合いだと言ってくださって。それに、悪役令嬢の黒と赤のドレスとは対照的ですものね」
チクチクと棘が含まれた言い回しは相変わらずだ。
「そうね、あなたは“可憐なプリンセス”を演出するのがお得意だもの。私のような悪役とは真逆ですわね」
「うふふ、本当にそう思います。
ところで、そちらの方が噂の捨て猫さんですの?
前にも拝見したけれど、王城にまでお連れになるとは、あなたも大胆ね」
フローラがレオンを見てにっこりと微笑む。
レオンは少し緊張しているのか、硬い笑みを返す。
「別に大胆でもなんでもないわ。彼は私の客人です。変な想像をしているならお門違いよ」
私がはっきり言うと、フローラはしらじらしく首をかしげてみせる。
「想像だなんて。ただ、アルト様も心配されているみたいですわ。“アデルが危険な男に利用されていないか”って」
その瞬間、レオンが少しだけ眉をひそめるのを私は見逃さなかった。
危険な男扱いされるのは、さすがに気分が悪いだろう。
彼が何か言う前に、私は先に口を開く。
「ご心配なく。私が危険にさらされているかどうか、アルトには関係ないことですわ。むしろ、あなたたちこそ私にちょっかいを出して来ないでね。余計なお世話よ」
「まあまあ、そう突っ張らないで。
私たちを敵に回すと何かと大変ですわよ」
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