負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

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そうこうしているうちに、サロンの扉がノックされる。

ヴィクトリアが「どうぞ」と答えると、王宮の衛兵らしき男が一人、箱を抱えて入ってきた。

「こちらが先日の事件現場で回収した道具です。簡易的にまとめられておりますが、どうぞご確認ください」

衛兵は箱をテーブルの上に載せ、中身をそっと取り出す。そこには金属製の小さなパーツや、糸のようなものが絡まった部品が何点か見える。どうやら破損してバラバラになった状態らしい。

「これが被害者のドレスに仕込まれていた……」

ギルバートが眉をひそめる。私も興味深く見つめるが、正直素人目にはよくわからない。

「なかなか複雑そうね。どこかで特注したようにも見えるし、量産品のようにも見えるし……」

つまんでは回してみるが、よくわからない金属パーツが多い。

レオンが身を乗り出すように覗き込み、小さく息を呑む。

「これ……どこかで見たことがある気がする」

「え、どこで?」

私たちが一斉にレオンに注目する。レオンは申し訳なさそうに頭をかく。

「うーん、はっきり覚えてないんだけど、子供の頃に見た王宮の器具に似てる気がする。護身具とか、罠を仕掛けるための訓練道具……そういった類を少し見せられた記憶があって」

王家の訓練道具……? そんなものが何の目的で?

私が顔をしかめると、ヴィクトリアも興味深そうにパーツを指先で転がしている。

「王宮で使用されている“秘匿された器具”があるのは事実でしょう。帝王学や護身術の教育の一環で、“侵入者を捕縛するためのトラップ”を研究している部門もあると聞いたことがあります」

「なるほど。つまり、これは王家内部で作られた道具かもしれない……?」

ギルバートがそうまとめると、ヴィクトリアは眉をひそめた。

「もしそれが本当なら、王家の誰かが関わっている可能性は高い。もしくは、王宮から何らかの経路で流出したか……。いずれにしても、普通の貴族が簡単に手に入れられる代物ではないでしょう」

王宮内部の器具であれば、フローラの仕業とは限らない。むしろ“王家の派閥争い”が背景にあるかもしれないし、“王族に近い人物”が意図的に仕掛けた可能性だってある。

私がため息をつくと、レオンが顔を上げる。

「これ、もしかすると僕の父方の家が関係しているのかな……。子供の頃に習った帝王学の中で、こういう道具の管理方法みたいなのを学んだ記憶がうっすらあるんだ」

「あなたの父方って、王家の遠縁なんだっけ。かなり複雑な立場だとは聞いてるけど……」

王家の血筋を引きながら、レオンは実家でほぼ放置されていた。それでも幼少期に帝王学を習ったというのは何とも不思議だが、もしその課程でこんな道具に触れる機会があったなら、今の話と無関係ではないかもしれない。

「でも、どうしてフローラの取り巻きが狙われたのかしら。王家の派閥争いなら、もっと要人を狙うんじゃない?」

私が率直な疑問を述べる。ヴィクトリアもうなずく。

「ええ、そこが謎です。もしかしたら、フローラ自身を狙ったのが手違いで取り巻きに命中したとか、あるいはフローラ周辺の者を使って、事件を起こそうとした……いろいろ考えられますね」

話が進むほど、謎は深まるばかり。少なくとも、今回の道具が“王家にまつわる専門器具”の可能性が高いことはわかった。それだけでも大きな収穫だ。

「フローラ令嬢がこの道具を入手したと断定するのは早いでしょうが、もし彼女が誰かと繋がっているなら、それは王家の一部かもしれない……?」

ギルバートが推測を口にする。ヴィクトリアは扇子で口元を隠しながら、わずかに目を伏せた。

「フローラ令嬢が“王家に取り込まれたい”と願っていることは、周知の事実。アルト様を支えて、将来有力な地位を得ようとしているとか……。裏では別の王族と手を結んでいる可能性も考えられますね」

なるほど、フローラが狙っているのは“王家の権力に食い込む”こと。彼女はアルトとの関係を深めて王宮でも地位を得ようとしている、と噂されていた。でも、まさかこれほどの危険な手段に関わっているのだとしたら……。

「ともかく、事件の裏には王宮の闇がありそうね……。私たちだけで解決できる問題じゃないのかも」

私が小さくぼやくと、レオンが不安げに言葉を継ぐ。

「じゃあどうすれば……? 僕たちが王家の中で味方を探して、何とかしないといけないのかな……。でも、僕にはそんな人脈ないし」

「いや、レオン自身が“仮登録”という形で王家との繋がりを残す手段を持っているでしょう? 以前ヴィクトリアが提案してくれたやつ。あれを使えば、堂々と王宮で動けるかもしれない」

私がそう言うと、レオンは苦い顔をする。
「確かに仮登録すれば、王宮にも出入りしやすくなるかもしれない。でも、それって王家に足を踏み入れることになるんだよね。巻き込まれて大変なことにならない?」

「そりゃ大変でしょうね。でも、フローラが背後に誰と繋がっているか探るには、それくらいの覚悟が必要かもしれないわ」

ギルバートがレオンの肩に手を置く。

「もちろん、すぐに結論を出す必要はありません。僕たちもできる限り協力しますし、フローラをうまく抑えるために何がベストなのか、一緒に考えましょう」

ヴィクトリアは微笑みながらレオンを見つめる。

「レオン殿、王家の中であなたの存在を望む声があるのも事実です。嫌な争いに巻き込まれたくない気持ちはわかりますが、どのみちフローラや王家が動き出せば、あなたも逃げられないかもしれない。ならば、こちらから動いて先手を取るのも一つの手だと思いますよ」

レオンは唇を噛み、視線を落とす。悩むのも無理はない。でも、確かに逃げるだけでは状況が悪化する可能性が高い。私はレオンの隣で軽く息を吐く。

「まずは事件の核心部分を探りましょう。フローラがこの道具をどう手に入れたのか――あるいは、誰かがフローラの周辺を利用しようとしているのか。その辺りを掘り下げれば、私が濡れ衣を着せられる事態は防げるかもしれない」

「アデル様のおっしゃるとおりですね。私もこの道具の出所を調べてみます。王家の工房や関連部署に心当たりがありますので」
ヴィクトリアが頼もしい言葉を口にする。

「助かるわ。私たちもできる範囲で情報収集するわね。何か進展があったら連絡を交換しましょう」
私はそう結論づけると、レオンも少し顔を上げて笑みを作る。

「ありがとう、ヴィクトリアさん。僕のことを気遣ってくれて……。こんな僕でも、協力する価値があると思ってくれてるんだね」

「ええ、あなたの立場を最大限に活かすなら、誰かが手を貸さないと上手くいかないのは当然です。それが私でいいなら喜んで」

こうして話し合いは一旦まとまり、あとは進展を待つ形となる。もうしばらく別邸に滞在し、道具の検分を続けて何かないか調べることにした。

ヴィクトリアは手早く侍女を呼び、必要な書類や調査用のメモを用意させている。まるで手慣れたものだ。
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