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しおりを挟む最初に、式典で起きた事件の経緯が読み上げられる。
取り巻き令嬢がドレスに仕掛けをされ、怪我をしたこと。
使用された道具がどうも王家の工房製に類似していること。
それらの情報が淡々と整理され、関係者の呼び出し理由としては、「アデル・フォン・ヴァイゼル様、レオン・クラヴィス殿が道具を入手した可能性がある」などと説明されている。
「……これが公の場で言われるなんて、腹立たしいわ」
私は小声でこぼす。
ギルバートが「落ち着いてくださいね」と耳打ちする。
レオンは唇を噛んで耐えているのがわかる。
一方、フローラがしれっとした顔で座っているのが見える。
取り巻き令嬢は隣にいるが、まだ包帯のようなものを巻いている。
「よくそんな傷を押して出てくるわね……」
苦々しく思う。
やがて、“証人”としてまずフローラ側が話し始める番になる。
フローラは優雅に立ち上がり、まるで悲劇の被害者を演じるように口を開く。
「皆さま、ご存知かもしれませんが、私の大切な友人が先日の式典で被害に遭いました。その際に使われた道具が、どうも王家の工房製らしく……私は大変ショックを受けています。そして、その事件にアデル・フォン・ヴァイゼル様が関わっているとの噂を耳にし、正直戸惑いを隠せません」
周囲がざわざわする。
“関わっているとの噂を耳にし”などと、いかにも私が犯人かのように匂わせているわけだ。フローラは続ける。
「なぜなら、アデル様は最近“捨て猫”と呼ばれる身元不明の男性を屋敷に囲っており、その男性が王家に関係する知識を持っているとの話も……」
ここでレオンをちらっと見る。会場から数名が「おや……」などとざわめくのがわかる。私の握りこぶしに力が入り、思わず声を上げそうになるが、ギルバートが止めてくれる。
「私はアデル様を悪役呼ばわりするつもりはございません。ただ、もし本当に王家の道具を手に入れていたのなら、大問題になりますわよね?ですから本日、こうして真実を明らかにする場が設けられたことに安堵しております」
フローラはしらじらしく微笑み、深々と頭を下げる。傍観する王族たちの中には頷いている者もいるが、一方で微妙な表情をしている者もいる。
「何も知らないわよ、アデルが事件を起こしたはずがない」と呟く声がどこかから聞こえた気がする。それでも、フローラの物腰の柔らかさに押されてしまう人もいるだろう。
「それでは、アデル・フォン・ヴァイゼル様とレオン・クラヴィス殿、何か反論があればお聞かせいただきたい」
王族代表が淡々と促す。ついに私の番だ。
私は軽く息を整え、フローラの演技じみた態度に負けない声で口を開く。
「フローラ・ロイエンタール様のお話、拝聴しました。ですが、私もレオンも“王家の道具を盗んだ”などという事実はまったくありません。そもそも“捨て猫”と呼ばれる彼は、身元不明ではなく王家の血筋を引いている可能性が高いのです。隠すつもりもありませんし、それを盗む理由などありません」
この場でレオンの血筋を明かすことに多少の抵抗はあったが、初めから正面突破すると決めていた。会場がどよめく。
「王家の血筋……?
レオン・クラヴィス殿は本当に?」
「そんな話が……」
少し混乱が広がる中、私は続ける。
「しかも、その道具が“王家の工房製”らしいという事実も最近わかりました。
つまり、私たちが外部から盗み出すのは困難でしょう?むしろ、“王家に近い誰か”が流出させた可能性が高いはず」
“王家に近い誰か”という言葉に、フローラの目がかすかに揺れた。これを見逃さず、私は視線をそちらへ投げる。
「王家に近い……つまり、フローラ様の背後にいる方かもしれませんよね?あなたは以前から“王宮に取り入る”ために動いていると聞きましたが、それが本当なら、道具を入手する経路があっても不思議ではありませんわ」
ズバリ切り込むと、会場がさらにざわつく。フローラは「なっ……!」と動揺した顔をするが、すぐに表情を整える。
「言いがかりですわ、アデル様。私にはそんなコネクションなどありません。第一、私が自分の取り巻きを傷つけるなどありえないでしょう?」
「知らないわよ。その“取り巻き”こそ、あなたにとっては捨て駒かもしれないじゃない?」
言葉を選ばず挑発してやると、フローラは悔しそうに睨んでくる。
会場からは「これじゃあ言い分が真っ向から対立してる」という囁きが聞こえる。
王族代表が落ち着いた声で割って入り、
「では、道具が王家工房製だという根拠はあるのですかな?」
と問う。
ここが勝負所。
私はヴィクトリアから得た書簡と、工房の調査報告書のコピーを取り出す。ギルバートがそれを会場のテーブルへ運び、王族側に渡す。
「こちらに記されているとおり、特殊合金の配合や細工技術が王家工房のものと一致していると、一部の識者が鑑定しております。疑うなら、改めて王宮で正式鑑定していただいても構いませんわ」
証拠を突きつけられ、審問官のような王族たちが書類を覗き込む。フローラは明らかに青ざめた表情を一瞬浮かべるが、すぐに声を張り上げる。
「こ、こんな書類、どこの誰が書いたかもわからないではありませんか!偽造の可能性だって……」
「大丈夫よ。王宮の分家であるヴィクトリア・グランフィート様がご協力くださったのだから。その信頼度はあなたの捏造話より高いと思うけど?」
「ぐっ……!」
フローラは言葉に詰まる。
会場の空気がアデル擁護に傾きかけているのを感じる。
「フローラ・ロイエンタール様、そちらが反証を出さない限り、この書類は有力な手がかりとみなされることになりますが……」
王族代表が冷静な口調で確認する。
するとフローラは困ったように目を泳がせ、取り巻き令嬢に視線を送る。
だが、取り巻きも何も言えない様子。
私は心の中でほくそ笑む。
やはり何も用意していないのか……と思ったそのとき、フローラは思い切った様子で声を張り上げた。
「待ってください!そこにいるレオン・クラヴィス殿、あなたは本当に“王家の血筋”なのですか?証拠はあるのかしら?
まさか口先だけじゃないでしょうね!」
鋭い視線がレオンに突き刺さる。
会場も、「そういえば本人が何も証明していないが?」という空気になる。
レオンはたじろぐが、深呼吸して一歩前に出る。
「……証拠?具体的な血統証明を持ってるわけじゃないけど、仮という形で王宮が認めてくれる手はずになりつつあるんだ。
少なくとも、僕は嘘なんかついていない」
フローラが鼻で笑う。
「仮、ですって?
そんな曖昧な段階で“大事な情報”だと主張なさるの?ああ、なんてお粗末なんでしょう……」
厳かな場とはいえ、フローラの言葉には明らかに嘲笑が混じっている。
しかし、私は冷静に返す。
「曖昧で結構。少なくとも、あなたが言う“王家の道具を盗んだ捨て猫”という根拠は崩れますよね。レオンが自由に工房に出入りできる立場ではないんですから」
「むしろ、あなたの背後にいる誰かが工房に手を回したのかもしれない。
どうなのかしら?」
フローラが再び押し黙る。
会場の王族たちの視線がフローラに注がれ、明らかに疑念が生まれはじめている。
アルトが静かに立ち上がる。「フローラ、これ以上アデルを犯人だと断じるなら、それ相応の証拠を示してくれ。そうでなければ、いい加減な噂を流すのはやめるべきだろう」
フローラは驚いた顔でアルトを見る。
「アルト様、私を見捨てるんですか?」
「見捨てるわけじゃない。だが、何も証拠がない以上、アデルを追及するのは不当だ。俺は公爵家の当主代理として、これ以上の混乱は望まない」
冷静な口調で言い放つアルトに、フローラは歯がみしている。
取り巻き令嬢も「フローラ様……」と心配そうに呼びかけるが、
フローラは「知らないっ……!」と吐き捨てるように背を向けた。
このとき、私たちが優位に立ったのを確信した。
王族代表が「他に異論がある者は?」と問いかけるが、誰も応じない。
フローラの糸が完全に絡まってしまい、身動きできないのが明白なのだ。
王家工房の製品だという証拠は、フローラ説を根本的に崩す。
レオンの血筋はまだ曖昧だが、“盗む動機”を否定するには十分だ。
「やった……アデル、これで……」
レオンがほっとしたようにつぶやく。
私は彼に目配せをし、最後の仕上げをするため声を上げた。
「査問官の皆さま、私はこの件において無実ですし、レオンも同様です。それをぜひ、ここで確認していただきたい。もし疑惑を晴らせないなら、今後も“王家の名”を騙って私たちを害する輩が出てくるでしょうから」
王族たちが顔を見合わせ、小さく頷き合う。やがて代表が結論を述べる。
「……今のところ、アデル・フォン・ヴァイゼル様とレオン・クラヴィス殿に犯行の疑いは見当たらないと判断せざるを得ません。
道具がどのように流出したのかは別途捜査を続ける必要があるでしょう」
そう言って、私たちを査問会から“解放”すると告げる。
フローラは言葉を失い、
取り巻き令嬢のほうが「そんな……」と呟くが、誰も後押ししてくれない。
アルトも淡々と席に残り、フローラを見つめている。
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