負け犬の遠吠えは、これくらいにしておきますわ。背を向けた悪役令嬢は捨て猫(イケメン)と共に。

高城セナ

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「うーん、ここまで順調だと逆に怖いわね」

午後に差しかかったころ、私はテーブルで一息つきながらつぶやく。

レオンは両手に荷物を抱え、「アデル、ちょっと倉庫から追加の物資を運んでくるよ」と言って立ち去る。ギルバートは周囲の警戒を怠らずに見渡している。

すると、突然人混みの向こうから罵声が聞こえた。

「悪役令嬢が偽善しても無駄だ! 事件を起こしたくせに誤魔化してるんだろう!」

「あら、きたわね……」

私は思わず唇を引き結ぶ。おそらくフローラの手下か、そのビラに洗脳された者なのか……。

声がだんだん大きくなって近づき、やがて三、四人の男たちがこちらに詰め寄るようにしてくる。

「おい、聞いてんのか? 悪役令嬢なんてのは所詮……」

「事件なんて揉み消してるに違いない!」

周囲の市民が後ずさりして、場が一瞬ざわめく。

ギルバートが即座に私の前に立ちふさがるようにして、「失礼ですが、何かご不満でも?」と冷静な口調で対応する。

男たちは興奮気味にまくし立てる。

「ビラを読んだぞ! こいつが王家の道具を盗んだかもしれないんだろう? こんなやつの施しを受けたら呪われる!」

「おいおい、やめてくださいよ、そんな根拠のないデマに踊らされるなんて」

私は後ろからギルバートを促し、前に出る。

「落ち着いて。あなたたちが見たビラって、多分フローラがばら撒いた怪文書でしょう?」

「ああ? フローラ? 知らんが、あれに書いてたんだよ、“悪役令嬢は捨て猫を使って悪事を働いている”ってな!」

周囲の市民も不安そうに様子を見守る。  
こういう騒動が起きれば、せっかくのイメージ回復が台無しになる可能性も。

でも、ここで毅然とした態度を示さなければ。

「申し訳ないけど、そのビラは嘘ばかりよ。王家の査問会で私たちの無実は証明されている。もし本当に私が道具を盗んでいたなら、王家が許すわけないでしょう?」

男たちが「うっ……」と躊躇したように口ごもる。

フローラの手下というより、ビラを真に受けた市民かもしれない。ただ、裏で誰かがけしかけている可能性もある。

「嘘かどうか知らねえが……!」

一人が食い下がるが、ギルバートが冷静に言葉を投げかける。

「もし疑うなら、王城に問い合わせてください。査問会の記録がありますし、私たちが堂々と正当性を証明しますよ」

威圧的でないが、強い意志をこめたギルバートの声に、男たちが気圧される。そのとき、市民の一人が「あの馬鹿なビラ、デマだって噂が広まってるよ!」と背後で叫んだ。

「本当だよ。 この人、昔から領地の支援してくれてるじゃん。悪役令嬢なんて噂に流されちゃ駄目だ!」

数人の市民が私たちを擁護するように声を上げ、騒ぎに巻き込まれた男たちが逆に浮いた存在になる。

「え……まじで? だってビラには……」

「お前、よく考えろよ。王家を騙すとか普通に無理だろ。あんな紙っぺら、誰が書いたんだかわからないんだ」

こうなると男たちも立場がなくなり、いつのまにか気まずそうに視線をそらす。一人が「くそ、騙されたか……」と呟いて、そそくさと退散していった。

大通りには少しだけ気まずい空気が漂ったが、すぐに市民の「よかった、騒ぎはおさまったみたいだ」という安堵の声が広がる。

私は胸を撫で下ろしながら、周囲に軽く頭を下げる。

「騒がせてしまってごめんなさい。皆さん、ご安心を。悪いことはしていませんから、私が保証します」

「そうだね。アデル様はきっと大丈夫だ」
市民たちが温かい眼差しを向けてくれる。  
よかった、被害は最小限で済んだようだ。

「ほら、見た? ビラが通用しなかった」
ギルバートが小声で私に言い、私は「うん、助かったわ」と笑む。

そこへレオンが荷物を抱えて戻ってきて、「なんか騒ぎがあった?」と首をかしげるので、私は「大丈夫、もう解決したわ」と肩を叩く。
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