アナザー/ライフ 〜やっと就職できたと思ったら、ノルマあり、契約期限ありの社畜に成り果てた〜

弓月下弦

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第1話 失われた日常

コトノハジマリ

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脳内を騒音が搔き乱した。最近流行りのアニメソング。ショートバージョン。

乱暴に手を振り回し、騒音を消す努力を繰り返した。
サビに入る直前に音楽は停止した。もうちょっと、聞いてからにすればよかったか?

(・・・・)

うっすら開けた目に入ったのは、デジタル表示の「8:45」という数字配列。

「まだ7時・・・は・・8時?」

いや待てよ?この数字はどうみても「8」ではないか!
そこで俺はあのアニソンのサビを数十回繰り返し聞いていたことに気が付いた。
圧倒的スヌーズ。恐ろしい・・・だが全く役に立っていない。残念過ぎる。主に自分が。
一瞬にしてベッドから飛び起きた俺は、心臓のバクバクと目眩を堪え、プロ並みの早着替えをし、階段を駆け降りる。

「零斗!階段は静かに降りなさい!」

母親の地響きのような怒鳴り声に鼓膜を震わせながら、曲がったネクタイを整える。

「母さん、今日は最終面接日だったのに何で起こしてくれないんだよ!」

自分でも分かっている。責任転嫁。最悪だ。
案の定、母親の表情は悪化する。

「あんた今、いくつなの?19にもなってまだそんなことをぬかして!」

すみません。反省はしています。でも、今日は最終面接だよ?これまで45社に「お祈り攻撃」をされて、やっと辿り着いた「最終面接」だぞ?
もう一度言う。

「だって、最終だぞ!」

※        ※

時間が無い中、無理やり朝食の食パンとコーヒーを胃に押し込み、吐き気を催しながら、玄関扉を開け、猛ダッシュする。陸上選手並みに時速は出ていると思う。火事場のバカ何ちゃらとかいうやつだ。行き交う自動車を巧みに避けながら、信号無視を繰り返す。もう信号で止まる余地はないのだ。誰も俺を止められない。
普通に向かうと間に合わない。だから、俺は財布を泣きながら握りしめ、「新幹線」と「タクシー」を駆使することを決意した。この時代、金があれば何とかなる。

そして俺はその「金」を入手すべく、こうして就活をしている。
二年制の専門学校に通う俺は、普通の大学生より2年ほど早く就活をしなければならない分、準備が出来ていない。マナーや言葉遣いも。(まぁ、2年後にできている保障はないが)
そんな俺も「最終」に行けるのだ!いわば、「ラストステージ」や!
もうお金は惜しまない。いくらでも貢ぎます。はい。

猛ダッシュな最中、ふとバックの中で携帯が鳴った。
走りながら、携帯の表示を見る。

「・・・?フリーダイヤルじゃない?」

フリーダイヤルは就活サイトからだと思うが、これは一体・・・
走りながら電話に出てみると、

「こんにちは!鯨井零斗さんの電話で間違いないでしょうか。私、、、」

その時、前方にトラックが過ったので、慌てて歩道に戻る。
携帯を持ち直し、再び耳に当てる。

「是非、弊社の一次面接にお越しくださいますようお願いしたく、連絡させていただきました!」

「本当ですか?ありがとうございます。是非、参加させていただきたいと思います!」

聞きはぐったが恐らく、3日前に筆記試験を受けた小売業者だろう。確か電話連絡だった気がする。正直ブラックそうで微妙だが。まぁ良いか。

「ありがとうございます!承りました。では、詳細は鯨井さんに後ほど通知いたします。」

「了・・いや、承知いたしました。お待ちしております!」

まぁ、気分は悪くはない。駒が1つ維持されたのだ。

再び、動き出そうとしたその時、何やら嫌な予感がした。

鉄のぶつかり合う音。
擦れる道路と物体。
飛び散る火花。

その集合体は炎を纏い俺に突っ込んできた。

真っ赤な熱風。バスのようなものから燃え上がっていた気がした。
いや、そもそもこれは現実なのか。こんな事故が起こるのか?
もしかして、火を噴くドラゴンが召喚されたとかか?

とにかく、自分に何が起こったのか把握する間も無い。

体に熱風を浴び、視界にタイヤが移ったその時。
俺の体と意識は何処かへ飛ばされた。
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