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私の人生
数十年ぶり
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―約二時間後
もう写真を見ただけで社員の名前を言うことが出来る程にまでなっていた。正直、こんなに早く覚えられるとは思っていなかった。さすが、二十代の脳。
その後、私は胸を張って研究室へ向かった。
すると社員の一人がこちらに近づいてきた。
「社長。この前提案したデザインの案なのですが、如何でしたか」
このややロン毛の男は中里将吾という名前だな、と私はまるでクイズ感覚であった。
「この前…ああ…あれか、中里君、悪いが明日までに答えを出すからまた明日来てくれ」
「分かりました。では、明日再度伺います」
これは骨が折れるぞ、四十五年ものブランクを果たして埋められるのだろうか…
そして、昼休みの時間になり、私は社員食堂へ弁当を持って向かった。
適当なところに腰を下ろすと私は黄色い布に包まれた弁当を開けた。弁当の中身は卵焼き、焼き魚、野菜炒め等様々な料理が入っていた。全て妻の手作りであった。
さっそく食べようとしたその時、後ろから声を掛けられた。
「愛妻弁当ですかぁ、社長。いいっすねぇ」
細い眉毛に若干つり目の男は片手にカップラーメンを持ちながらそう言うと私の隣に座った。彼の名前はずっと忘れずに今でも覚えている。
彼の名は岩瀬剛志。彼も妻と同じで初期の従業員である。
「まあな」
すると、岩瀬は細い目をより細くして笑った。
「ところで、社長。先週の持ちやすいマグカップの件なんすけど…」
持ちやすいマグカップ?うっすらと覚えているような…
「ああ、あのマグカップか。それがどうしたんだ?」
私は卵焼きを口に運びながらとりあえずそう言った。
「俺、取っ手のデザインをあと一センチ上に付けた方が持ちやすくなると思うんですよ、
どう思いますか社長」
「なるほど、取っ手が少し下に付きすぎていたか」
「そうなんすよ…」
「分かった、もう一度検討しておく」
「ありがとうございます、社長」
岩瀬は、カップラーメンの蓋を恐る恐る開けると、中身を割り箸でかき混ぜ始めた。
「カップラーメンって、三分経ったか、どうか直ぐに分かるような工夫ってないんすかねぇ…あと、この蓋…直ぐに空いちゃうんですよ…知らない間に…」
岩瀬は、麺を啜りながら何やら呟いている。彼は、毎日のように不便なことがあったら直ぐに口に出す癖があるのだ。でも、その御蔭でいろんなアイデアが浮んだりしたのだが…
「お湯を入れて三分したら色の変わるカップとか開発したら便利そうだけどな」
「社長。それ最高っすね」
「だろ?」
「三分で色の変わる化学反応的なやつ…無いですかね?」
岩瀬はラーメンの汁を二口飲むと、目を細めてそう呟いた。
「それをこれから研究するのが、わしらの仕事だろ」
「そうっすね…でも『わしら』って(笑)…社長も老けたっすね」
彼はこっちを見て笑い出した。どうやら私の言葉遣いが年寄りくさいことに気がついたらしい。気を付けてはいたが四十五年間のブランクはなかなか埋まらない。
「お前は一言多いんだよ、岩瀬…」
もう写真を見ただけで社員の名前を言うことが出来る程にまでなっていた。正直、こんなに早く覚えられるとは思っていなかった。さすが、二十代の脳。
その後、私は胸を張って研究室へ向かった。
すると社員の一人がこちらに近づいてきた。
「社長。この前提案したデザインの案なのですが、如何でしたか」
このややロン毛の男は中里将吾という名前だな、と私はまるでクイズ感覚であった。
「この前…ああ…あれか、中里君、悪いが明日までに答えを出すからまた明日来てくれ」
「分かりました。では、明日再度伺います」
これは骨が折れるぞ、四十五年ものブランクを果たして埋められるのだろうか…
そして、昼休みの時間になり、私は社員食堂へ弁当を持って向かった。
適当なところに腰を下ろすと私は黄色い布に包まれた弁当を開けた。弁当の中身は卵焼き、焼き魚、野菜炒め等様々な料理が入っていた。全て妻の手作りであった。
さっそく食べようとしたその時、後ろから声を掛けられた。
「愛妻弁当ですかぁ、社長。いいっすねぇ」
細い眉毛に若干つり目の男は片手にカップラーメンを持ちながらそう言うと私の隣に座った。彼の名前はずっと忘れずに今でも覚えている。
彼の名は岩瀬剛志。彼も妻と同じで初期の従業員である。
「まあな」
すると、岩瀬は細い目をより細くして笑った。
「ところで、社長。先週の持ちやすいマグカップの件なんすけど…」
持ちやすいマグカップ?うっすらと覚えているような…
「ああ、あのマグカップか。それがどうしたんだ?」
私は卵焼きを口に運びながらとりあえずそう言った。
「俺、取っ手のデザインをあと一センチ上に付けた方が持ちやすくなると思うんですよ、
どう思いますか社長」
「なるほど、取っ手が少し下に付きすぎていたか」
「そうなんすよ…」
「分かった、もう一度検討しておく」
「ありがとうございます、社長」
岩瀬は、カップラーメンの蓋を恐る恐る開けると、中身を割り箸でかき混ぜ始めた。
「カップラーメンって、三分経ったか、どうか直ぐに分かるような工夫ってないんすかねぇ…あと、この蓋…直ぐに空いちゃうんですよ…知らない間に…」
岩瀬は、麺を啜りながら何やら呟いている。彼は、毎日のように不便なことがあったら直ぐに口に出す癖があるのだ。でも、その御蔭でいろんなアイデアが浮んだりしたのだが…
「お湯を入れて三分したら色の変わるカップとか開発したら便利そうだけどな」
「社長。それ最高っすね」
「だろ?」
「三分で色の変わる化学反応的なやつ…無いですかね?」
岩瀬はラーメンの汁を二口飲むと、目を細めてそう呟いた。
「それをこれから研究するのが、わしらの仕事だろ」
「そうっすね…でも『わしら』って(笑)…社長も老けたっすね」
彼はこっちを見て笑い出した。どうやら私の言葉遣いが年寄りくさいことに気がついたらしい。気を付けてはいたが四十五年間のブランクはなかなか埋まらない。
「お前は一言多いんだよ、岩瀬…」
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