4 / 6
第1章
悪夢の残滓
しおりを挟む
視界にあるのは、低く垂れ込めた鈍色の空。 鼻を突くのは、雨を含んだ土と、枯れた草木の饐えた匂い。 自分の荒い吐息だけが、静寂をかき乱している。
仰向けのまま身体を起こそうとするが、胸から下に「重い何か」がのしかかり、指一本動かせない。蒼は全身の力を振り絞り、泥を掴むようにしてその「何か」を横へ突き飛ばした。
べちゃり、と重い音がして、跳ね返った泥が蒼の顔を汚す。 目に入った焦げ茶色の泥を両手で拭った、その時だった。
――泥の臭いに混じって、生々しい鉄の匂いが立ち込めた。
自分の手を見る。 そこにあったのは、泥に混じったドロリとした紅。まだ熱を失っていない、紛れもない鮮血だった。 視線を横にやると、そこには長い髪を乱した女が、物言わぬ肉塊となって横たわっていた。
(……俺が、やったのか?)
震える手で自分の胸元を触ると、左胸のあたりにべっとりと返り血を浴びていた。 さらに足元には、一メートルを超える長大な刀が転がっている。刃には、女の命の跡がべったりとこびりついていた。
母を殺したあの男と同じ、人殺し。 逃れられぬ罪を、自分は背負ってしまったのか。
「ああああああああああああ!」
叫び声と共に、蒼はベッドからはね起きた。 心臓が早鐘のように打ち鳴らしている。
「……ゆ、夢か……」
全身から力が抜け、シーツに沈み込む。ここ数日、この「殺人者になる夢」のせいで深刻な寝不足が続いていた。
重い身体を引きずってカーテンを開ける。 外は今にも泣き出しそうな曇天。そして、窓のすぐ先の電柱には、一羽の鴉が止まっていた。 その濁った瞳が、じっと自分を見ているような気がして、蒼は背筋に冷たいものを感じた。
その時、階下から狂ったようにチャイムが鳴り響いた。
仰向けのまま身体を起こそうとするが、胸から下に「重い何か」がのしかかり、指一本動かせない。蒼は全身の力を振り絞り、泥を掴むようにしてその「何か」を横へ突き飛ばした。
べちゃり、と重い音がして、跳ね返った泥が蒼の顔を汚す。 目に入った焦げ茶色の泥を両手で拭った、その時だった。
――泥の臭いに混じって、生々しい鉄の匂いが立ち込めた。
自分の手を見る。 そこにあったのは、泥に混じったドロリとした紅。まだ熱を失っていない、紛れもない鮮血だった。 視線を横にやると、そこには長い髪を乱した女が、物言わぬ肉塊となって横たわっていた。
(……俺が、やったのか?)
震える手で自分の胸元を触ると、左胸のあたりにべっとりと返り血を浴びていた。 さらに足元には、一メートルを超える長大な刀が転がっている。刃には、女の命の跡がべったりとこびりついていた。
母を殺したあの男と同じ、人殺し。 逃れられぬ罪を、自分は背負ってしまったのか。
「ああああああああああああ!」
叫び声と共に、蒼はベッドからはね起きた。 心臓が早鐘のように打ち鳴らしている。
「……ゆ、夢か……」
全身から力が抜け、シーツに沈み込む。ここ数日、この「殺人者になる夢」のせいで深刻な寝不足が続いていた。
重い身体を引きずってカーテンを開ける。 外は今にも泣き出しそうな曇天。そして、窓のすぐ先の電柱には、一羽の鴉が止まっていた。 その濁った瞳が、じっと自分を見ているような気がして、蒼は背筋に冷たいものを感じた。
その時、階下から狂ったようにチャイムが鳴り響いた。
0
あなたにおすすめの小説
構造理解で始めるゼロからの文明開拓
TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。
適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。
だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――!
――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~
イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。
半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。
だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。凛人はその命令を、拒否する。
彼は、大地の女神により創造された星骸と呼ばれる伝説の六英雄の一人を従者とし、世界を知るため、そして残りの星骸を探すため旅に出る。
しかし一つ選択を誤れば世界が滅びる危うい存在……
女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。
これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる