浄罪師【現代編】

弓月下弦

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第1章

悪夢の残滓

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視界にあるのは、低く垂れ込めた鈍色の空。 鼻を突くのは、雨を含んだ土と、枯れた草木の饐えた匂い。  自分の荒い吐息だけが、静寂をかき乱している。

 仰向けのまま身体を起こそうとするが、胸から下に「重い何か」がのしかかり、指一本動かせない。蒼は全身の力を振り絞り、泥を掴むようにしてその「何か」を横へ突き飛ばした。

 べちゃり、と重い音がして、跳ね返った泥が蒼の顔を汚す。 目に入った焦げ茶色の泥を両手で拭った、その時だった。

 ――泥の臭いに混じって、生々しい鉄の匂いが立ち込めた。

 自分の手を見る。  そこにあったのは、泥に混じったドロリとした紅。まだ熱を失っていない、紛れもない鮮血だった。  視線を横にやると、そこには長い髪を乱した女が、物言わぬ肉塊となって横たわっていた。

(……俺が、やったのか?)

 震える手で自分の胸元を触ると、左胸のあたりにべっとりと返り血を浴びていた。 さらに足元には、一メートルを超える長大な刀が転がっている。刃には、女の命の跡がべったりとこびりついていた。

 母を殺したあの男と同じ、人殺し。 逃れられぬ罪を、自分は背負ってしまったのか。

「ああああああああああああ!」

 叫び声と共に、蒼はベッドからはね起きた。  心臓が早鐘のように打ち鳴らしている。 

「……ゆ、夢か……」  

全身から力が抜け、シーツに沈み込む。ここ数日、この「殺人者になる夢」のせいで深刻な寝不足が続いていた。

 重い身体を引きずってカーテンを開ける。 外は今にも泣き出しそうな曇天。そして、窓のすぐ先の電柱には、一羽の鴉が止まっていた。 その濁った瞳が、じっと自分を見ているような気がして、蒼は背筋に冷たいものを感じた。

 その時、階下から狂ったようにチャイムが鳴り響いた。
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