王女への献上品と、その調教師

華山富士鷹

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ウナジローとウナゴロー

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「今日は晴れてるのに風があるからか海が荒れてるなあ」
 今日は今朝からチビと味噌汁の具を探しに海岸に来ていた。
「波が高いから海に近付いちゃ駄目だからね。私から離れないで」
 チビにそう言って、私は砂浜に打ち上げられた海藻類をザルに入れていく。
「アカモク、昆布、ワカメ、サラダにハマダイコンもいいなあ。亀の手とマツバガイもあればお爺さんのおつまみにもなる」
「チビ、おつまみスコー」
 チビは三歩先へピョンピョン飛んで行き、そこにいた小さい蟹を片手でつまんで抱えていたザルに入れる。
「将来呑兵衛にならないか心配だよ」
 心配しつつ、私は落ちていた昆布をしっかりゲットした。
 海が荒れると打ち上げられる海藻も豊富だなあ。
 もうほっくほくである。
「小学生になったら爺ちゃんとばんしゃくするー」
 チビはザルから逃げ出した蟹を追い求めちょこまかと歩き回った。
 かわいいなあ。
 もうほっこりである。
「小学生でも駄目だよ」
 私も自然と笑顔になる。
「なんでぇ?」
 チビは再度蟹を捕まえ、またザルに放った。
 また逃げ出すだろうなあ。
「小学生はまだ子供だからね。20歳になったら皆で晩酌しよ?」
 なんか、大人に成長した子供と酒をかわすのも一種の楽しみだな、なんて娘を持つ父親の心境だ。
「えー、でも早くしないと爺ちゃん死んじゃうよお?」
「それは……」
 鋭いとこを突く。
 確かにその可能性は高い。てか小金治お爺さんは一体いくつなんだろう?
 既に100越えてそうな雰囲気があるが。
 子供って時々核心を突いてくるな。
 私はとりあえず苦笑いしてお茶を濁した。
「まんまー、ウナゴローはいつ食べるの?」
 先日弥彦と捕獲した鰻に、チビがそう名前をつけてしまったのだ。そうすると食べ辛いし、食べさせ辛い。食育的にどうなんだろうと飼育期間だけが延びている。
「チビは早く食べたい?」
「んー……わかんない」
 チビは立ち止まり、右足のつま先で砂を掻いた。
「ウナゴローかわいい?」
 もしかして愛着が湧いていたら食べれないよね?
 私だったら例え食べ辛くとも、ウナジローもウナゴローも美味しくいただくと思う。
「……」
 ウナジローか……
 元気かな?
 風邪とかひいてないかな?
 溜まった公務で過労気味になって──
 誰の心配をしているのだろう?
 私とはもう関係の無い人だ。
 でも時々、ふとした瞬間、こうして思い出さずにはいられない時がある。そんな時は今ある幸せを噛み締めて感情をうやむやにした。
「ウナゴロ、キモいよ?」
「えっ」
 子供って正直で──
「ウナゴロ、にゅうがくいわいで蒲焼きして食べるー」
 残酷だ。
「あ、あぁ、そう……まあ、お祝いにはちょうど良いかもね」
 でもこのくらい強かな方が世間の荒波に揉まれながらも強く生きれそうだ。
「午後から雨だからランドセル買いにいくけど、もう色は決まった?」
 元々雨で漁に出られない日にランドセルを買いに行こうと皆で約束していたのだ。
「ナイショー!」
 チビは後ろ歩きをしながら口元に人差し指を立てる。
「ナイショなんだ笑」
 かわいいなあ。本当に、我が子みたいだ。
 幸せだ。
 つくづく幸せだ。こんなに幸せであって良いものかと思うくらい幸せ、なのだけど……

 幸せになると怖くなる。

 何かを得ると失う恐怖がチラついて不安になる。
 私は一生、この恐怖に怯えて暮らしていかないといけない。
「……」
「まんま、どったの?」
 チビが私の顔を見て歩み寄り、慰めるみたいに脚に抱きついてくれた。
 そんなに深刻な顔をしていたかな?
 いけない。子供に心配をかけるのは良くない。
「なんでもない。弥彦が心配するから戻ろっか?」
 私が首を振り、笑顔でチビの頭を撫でると、彼女はそんな私を見て安心したのか岩場の先へ走り出した。
「待って!あともっぴき蟹捕まえてから!」
「あっ!ダメだよ、私から離れないで!」
 私がその小さな背中を追いかけようとした時、いつも正体を隠す為に被っていた帽子が突風で飛ばされ、チビと反対方向へ転がって行った。
「ストップ!ちょっと待ってて!」
 チビの背中にストップをかけ、私は慌てて数メートル先に落ちた帽子を拾う。
 そして振り返ろうとした時──

『フッ』と波の音に混ざって男の笑う声がした。

「あ、弥彦」

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