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残された人
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俺がエデンとチビを探しに海岸へ行った頃には海は強風で荒れに荒れまくっており、おまけに小雨まで降り始めていた。
春臣達が帰ってから少し間を開けて家を出てたが、もう少し早く迎えに来れば良かった。
「ウナ!チビ!」
口元に手を添えて大声で呼んでみたが荒れた波の音でそれは掻き消される。辺りをくまなく見渡してみても2人の姿は無い。
2人は毎日海へ食材を採りに来ていたから、きっと遠くまで探しに行っているのだろう、そう思って俺はゴツゴツの岩が点在する砂浜を延々走り続ける。
寄せては返す荒波のせいか、胸騒ぎがする。
俺が隆起した岩場を越え、砂浜に降り立つと、50メートル先にチビと春臣と好々爺がいるのが見えた。
しまった、見つかったか。
しかしそこにウナの姿は無い。鼻を啜りながら泣くチビに、春臣と好々爺が膝を着いて話を聞いているようだった。
「どうしたっ!?」
俺が駆け寄ると春臣と好々爺は振り返って立ち上がる。
「この子が1人で海岸にいたんだよ」
『この子』と言って春臣はチビの背中に手を添えた。
「そんな、まさか、だってウナは──」
俺はつい、そう口にする。
「ウナ?エデンの事か?」
「──」
俺が『しまった』という顔をすると好々爺が皆まで言うなと数回頷いた。
「エデンとは一緒じゃないと言っている」
俺は春臣のその言葉で屈んでチビに迫る。
「チビ、ウナは何処に行った!?」
もう、ただならぬ緊急事態で取り繕う余裕はとっくになかった。
「ぅぅ……」
最初はチビも泣いてばかりで何も口にしなかったが、俺が粘り強く聞いていくと、嗚咽を漏らしながら『海に流された』と言った。
「海にっ!?もしかして岩場で貝を捕ろうとして足を滑らせたのか!?」
俺がそう尋ねるとチビは両手で目を擦りながら頷く。
「これは大変だ、すぐに応援を要請しますね」
好々爺が慌てて胸ポケットからスマホを取り出し捜索の船を手配したが、海が時化り過ぎてそれも叶わず、俺達は雨の中、チビを家に置いて海岸を足で捜索した。
途中、ウナやチビが持っていたザルが風で転がってきて、そのすぐ近くでウナの靴が片方見つかる。
「やはり流されたのか!?」
この大時化ではいくらプロスイマーでも溺れてしまう。
最悪の事態が頭を過ぎる。
俺は家から持って来た双眼鏡を覗き込み、目を皿にして沖合を注視した。
「何か見つかったか!?」
堤防から春臣が走り寄って来たが、その姿はびしょ濡れで王にあるまじき状態だった。
「ウナの靴が片っぽ」
俺が双眼鏡から目を放して砂まみれの靴を差し出すと、春臣は真っ青になって俺から双眼鏡をひったくった。
「エデンは泳げるのか!?」
春臣は双眼鏡を覗き込み、必死にエデンの姿を探す。
「いくら泳げたって、この大時化じゃ──」
俺は現実を受け入れられなくて後の言葉は出てこなかった。
「──────あっ!!」
何かを見つけたのか春臣が急に声をあげ、今度は俺が春臣から双眼鏡をひったくり、高い波間に目を凝らす。
「なんだ!?何が見えた!?」
「あすこに白い服が」
春臣が指差す方を双眼鏡で見てみると、今朝ウナが着て出て行った白いシャツが波で右往左往に激しく揺れているのが見えた。
俺は膝から崩れ落ちた。
漁師だから知っている。
この大時化で助かる人間なんかいない。
比較的波の穏やかやな日でもここの海流は特別で、10人身投げしたら9割が溺れるという地形をしている。過去のウナやチビが助かったのは奇跡だったのだ。
「しっかりしろ!波が落ち着いたら船を総動員させるから、ここは一旦戻ろう」
すぐ近くで春臣が項垂れる俺を鼓舞したが、俺はそれを遠くの方で聞いていた。
頭が真っ白で何も視界に入らないし、音も霞がかって感じる。
「でも、もしかして、万が一ウナが流されてきたら、また低体温症で──」
「馬鹿野郎っ!その前にお前が低体温症になるだろ!子供の事も考えろ!!」
春臣は弱気になる俺を掴み上げ、家のある方へ突き飛ばした。
「チビ……」
そうだ、チビが一番心配してる。俺がそばにいてやらないと。こんな時だからこそ俺がしっかりしないと。
春臣には情けないところを見せたが、見た目通りの頼りになる存在に俺はだいぶ救われた。
俺は言われた通り一度家に戻り、珍しく取り乱す小金治に全てを説明し、その日は眠れぬ夜を過ごした。
そして一夜明け、早朝から王室の船軍と共にウナの捜索を始めたが、結局、戻って来たのはもう片方のウナの靴だけだった。
春臣達が帰ってから少し間を開けて家を出てたが、もう少し早く迎えに来れば良かった。
「ウナ!チビ!」
口元に手を添えて大声で呼んでみたが荒れた波の音でそれは掻き消される。辺りをくまなく見渡してみても2人の姿は無い。
2人は毎日海へ食材を採りに来ていたから、きっと遠くまで探しに行っているのだろう、そう思って俺はゴツゴツの岩が点在する砂浜を延々走り続ける。
寄せては返す荒波のせいか、胸騒ぎがする。
俺が隆起した岩場を越え、砂浜に降り立つと、50メートル先にチビと春臣と好々爺がいるのが見えた。
しまった、見つかったか。
しかしそこにウナの姿は無い。鼻を啜りながら泣くチビに、春臣と好々爺が膝を着いて話を聞いているようだった。
「どうしたっ!?」
俺が駆け寄ると春臣と好々爺は振り返って立ち上がる。
「この子が1人で海岸にいたんだよ」
『この子』と言って春臣はチビの背中に手を添えた。
「そんな、まさか、だってウナは──」
俺はつい、そう口にする。
「ウナ?エデンの事か?」
「──」
俺が『しまった』という顔をすると好々爺が皆まで言うなと数回頷いた。
「エデンとは一緒じゃないと言っている」
俺は春臣のその言葉で屈んでチビに迫る。
「チビ、ウナは何処に行った!?」
もう、ただならぬ緊急事態で取り繕う余裕はとっくになかった。
「ぅぅ……」
最初はチビも泣いてばかりで何も口にしなかったが、俺が粘り強く聞いていくと、嗚咽を漏らしながら『海に流された』と言った。
「海にっ!?もしかして岩場で貝を捕ろうとして足を滑らせたのか!?」
俺がそう尋ねるとチビは両手で目を擦りながら頷く。
「これは大変だ、すぐに応援を要請しますね」
好々爺が慌てて胸ポケットからスマホを取り出し捜索の船を手配したが、海が時化り過ぎてそれも叶わず、俺達は雨の中、チビを家に置いて海岸を足で捜索した。
途中、ウナやチビが持っていたザルが風で転がってきて、そのすぐ近くでウナの靴が片方見つかる。
「やはり流されたのか!?」
この大時化ではいくらプロスイマーでも溺れてしまう。
最悪の事態が頭を過ぎる。
俺は家から持って来た双眼鏡を覗き込み、目を皿にして沖合を注視した。
「何か見つかったか!?」
堤防から春臣が走り寄って来たが、その姿はびしょ濡れで王にあるまじき状態だった。
「ウナの靴が片っぽ」
俺が双眼鏡から目を放して砂まみれの靴を差し出すと、春臣は真っ青になって俺から双眼鏡をひったくった。
「エデンは泳げるのか!?」
春臣は双眼鏡を覗き込み、必死にエデンの姿を探す。
「いくら泳げたって、この大時化じゃ──」
俺は現実を受け入れられなくて後の言葉は出てこなかった。
「──────あっ!!」
何かを見つけたのか春臣が急に声をあげ、今度は俺が春臣から双眼鏡をひったくり、高い波間に目を凝らす。
「なんだ!?何が見えた!?」
「あすこに白い服が」
春臣が指差す方を双眼鏡で見てみると、今朝ウナが着て出て行った白いシャツが波で右往左往に激しく揺れているのが見えた。
俺は膝から崩れ落ちた。
漁師だから知っている。
この大時化で助かる人間なんかいない。
比較的波の穏やかやな日でもここの海流は特別で、10人身投げしたら9割が溺れるという地形をしている。過去のウナやチビが助かったのは奇跡だったのだ。
「しっかりしろ!波が落ち着いたら船を総動員させるから、ここは一旦戻ろう」
すぐ近くで春臣が項垂れる俺を鼓舞したが、俺はそれを遠くの方で聞いていた。
頭が真っ白で何も視界に入らないし、音も霞がかって感じる。
「でも、もしかして、万が一ウナが流されてきたら、また低体温症で──」
「馬鹿野郎っ!その前にお前が低体温症になるだろ!子供の事も考えろ!!」
春臣は弱気になる俺を掴み上げ、家のある方へ突き飛ばした。
「チビ……」
そうだ、チビが一番心配してる。俺がそばにいてやらないと。こんな時だからこそ俺がしっかりしないと。
春臣には情けないところを見せたが、見た目通りの頼りになる存在に俺はだいぶ救われた。
俺は言われた通り一度家に戻り、珍しく取り乱す小金治に全てを説明し、その日は眠れぬ夜を過ごした。
そして一夜明け、早朝から王室の船軍と共にウナの捜索を始めたが、結局、戻って来たのはもう片方のウナの靴だけだった。
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