王女への献上品と、その調教師

華山富士鷹

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悪の申し子

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 時は経ち、エデンとヤサカ、2人の腹は同等に大きくなっていた。
 エデンの腹の子はやはり女の子で確定し、ヤサカの方は男の子と判明した。
「やれやれ、これは由々しき事態だなあ笑」
 キッチンで不敵に笑うのは、僕こと、エデンを完全に乗っ取っている砂山カザン。
「楽しそうだな」
 僕の顔を見て、春臣が穏やかに笑う。どうやら彼は僕が楽しそうにしているのを見るのが楽しいらしい。
 奇特な人間だ。
 僕の頭の中が毒されているとも知らず、愛情いっぱいに甘やかしてくれる。
「何かを仕留める時はいつも心が躍るもんでね」
「何を仕留めるって?」
 春臣はネクタイを締め、出掛ける準備をしていた。
「いえ、こっちの話ですよ」
「怖いな笑。楽しむのはいいけど、危ない事はするなよ?」
「プワァーイ」
 僕はキッチンでゴム手袋を二重にはめた。
「まるでオペだな」
「いや~殺し屋の腕が鳴るなあ」
「凄く聞きづてならないんだけど、俺は公務に出掛けて大丈夫か?てかその手袋なに?」
 春臣は資料を纏め、小脇にタブレットを抱える。
「爪の間から毒が染み込むといけないんで」
「そうか、使ったまな板はちゃんと消毒するんだぞ?ウナ?」
 僕の奇行はいつもの事なので春臣は全く真に受けていない。それもこれも、僕の日頃の行いが良い為だ。
「ウナァー」
「じゃあな」
 そう言うと春臣は僕の後頭部にキスをしていつも通り公務へと出掛けて行った。
 幸せだ。
 こんな幸せが毎日、永遠に続くといい。その為には──

 ──産まれてくるヤサカの長男が邪魔だ。

 将来、腹の子の立場が脅かされる前に『無かった事』にしよう、そう思ったのだ。
 僕は、いつか役に立つだろうと集めていたトリカブトのドライフラワーや鬼灯、フグから抽出したテトロドトキシン、毒蛙の干物、蛇毒、薬品等、あらゆる劇物、毒物の入った工具箱をシンク下から取り出す。
「エデンの腹の子には重要な役割があるんだ、邪魔者は早めに摘まないと」
 僕は凄く悪い奴で、昔はエデンを助ける事で魂が救われると信じていた。でも今の僕は幸せに目が眩んだ悪霊と化している。エデンが望まない事ばかりしていて、そのエデンともずっと交代していないし、こちらが一方的に都合の良い結果のみを報告してまともに意思の疎通をはかっていない。
「ハハ、多分エデンは文句だらけだろうなぁ……」
 最近ではちょっと油断するとエデンに意識を持っていかれそうになる。おかげでこっちも疲労困憊だ。
「エデンが春臣を認めるまでは交代出来ないなあ。いや、いっそ僕がエデンに……」
 僕は凄く悪い奴だけど、もっともっと悪い奴になろうとしている。最初はエデンファーストで策を練っていたのに、度々心に隙が生じる。それはもう、自分でも怖いくらいに。幸せを知ってしまうと人はこうも変わるのか。実感。
「エデンに春臣をとられるのも嫌だし」
 本音はそこだ。
 春臣は二重人格の事を話半分でしか信じていない。だから僕の人格だろうがエデンの人格だろうがどちらも1人の人間として受け入れてくれている。でも僕は凄く悪い奴だから自分に自信が無い。エデンみたいに清廉潔白な性格とは真逆だ。天邪鬼のひねくれ者。
「おっと、ゴーグルとマスクも忘れずに」
 オマケに毒まで作ってる。
 僕はこないだ観た宮廷もののハンリュードラマにすっかり毒され、影響されまくっていた。毒だけに。
「宮廷ものって、とにかく毒殺ばっかしてるよなあ~」
 そのせいか僕は、ヤバイくらいにとてもカジュアルに毒を盛ろうとしている。勿論、ゴーグルとマスクは装着した。
「盛れるかどうかは別として、なんか宮廷ドラマみたいで楽しいなあ」
 猛毒を目分量のどんぶり勘定で調合するのも楽しい。
「あーなんか、めっちゃ致死量、めっちゃ致死量!象も殺せそうです」
 いや、一体、何人殺す気だよ。
「アッハ」
 僕は大笑いして大きく息継ぎをした瞬間、マスクの隙間から粉塵化した毒を吸ってしまい、意識を失った。
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