1 王への献上品と、その調教師(ブリーダー)αp版

華山富士鷹

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人を信じるという事

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セキレイさんは私に瑪瑙さんとの事を話してくれた。
彼は過去の事を懐かしむ様であり、思い出すのが辛そうでもあった。私がもし自分の家族の事や、ここに至るまでの経緯を話せと言われたら、きっと辛すぎて最後まで話せない。それでもセキレイさんが瑪瑙さんへの愛を私に語ったのは、もう2度と傷付きたくないからなのだと解った。2度と同じ過ちを起こさないよう、戒めとして、教訓として、遠回しにその事を教えてくれたのだと思う。情が移っては、お互いに別れが辛くなるだけだと……家族を失っているから、私も2度とあんな辛い思いはしたくない。あの話を聞いて、セキレイさんにもそんな思いをしてほしくないと思った。
それに、感情移入して誰かを信じて、裏切られるのにはもう耐えられない。

私は、セキレイさんの事も、誰の事も好きにはならない。

「じゃあ、お前はここで待ってろ」
私はセキレイさんに連れられ、翠の部屋に預けられた。
部屋にはユリとダリア、あと初対面の、チビで赤毛でソバカスの木葉がいた。
「ねーねー、何でこの子、首輪してて、ドアノブに紐で繋がれてるの?」
木葉が離れた所から私を指差し、ユリに尋ねる。木葉が疑問に思うのも無理はない、セキレイさんが、私がよその子に噛みつかないようにそうしたのだ。
『噛みついたら、今度からは猿轡をかますからな』
とまで釘を刺され、私はリビングのドアノブに繋がれたまま大人しく体育座りをしていたという訳だ。ちなみにセキレイさんとは数日過ごしただけだが、彼は物理的にも、精神的にもよく私を拘束したがった。多分、そういう性分なのだ。
絶対にA型、絶対にA型!!
「こいつが野蛮だからに決まってんでしょ?」
こいつ呼ばわりしてテーブルからリモコンを投げてきたのはダリア。リモコンはたまたま当たらなかったが、彼女は私に容赦ない。子供と言っても献上品間では皆ライバルなのだが、このダリアは自己顕示欲の塊なのか、ことあるごとに私を敵視した。きっと、国は違えど、同じ元王女という立場から、私をマウントしたくてウズウズしているのだと思う。
「危ないでしょ!こんな物が当たったら間違いなく怪我するじゃない!」
そうやってダリアに怒号を浴びせたのはユリ。彼女は私に対して特に親切で、廊下ですれ違う度に、困った事はないかと聞いてくれる、優しいお姉さん的存在だ。
「翡翠も、セキレイさんに相談して、首輪や手綱を外してもらったらいいのに。私、可哀想で見てられない。私からも言ってあるに、セキレイさんたら、きっとそっちの趣味があるんだわ」
どっち?
ユリは私の首と首輪の間に包帯を巻こうと私の首筋に触れ、私は驚いてその手を払った。
包帯はどこか遠くまで飛んでいき、それを見たダリアが『ほらね』と嘲笑する。
「何?」
私はドアに張り付いてユリを警戒した。
まだ、セキレイさん以外の人に触れられるのは慣れない。
──でも翠なら許す。
「首、赤くなってたから、包帯を間に一周挟んだ方が痛くないかと思って」
ユリは私に無下にされたのに朗らかに笑っていた。
「いい」
私はぶっきらぼうに応え、体育座りで膝に顔を埋める。

人の善意とか親切は苦手だ。

時々、無邪気に人を信じてしまいそうになるけど、私はそのつどトールの存在を思い出しては自分を戒めた。
トールも、最初は親切そうに私に近付いてきた。私の教育係として、勉強から運動から教養、遊びに至るまで全部に付き合ってくれて、夕方、私が離れたくないと駄々を捏ねると勤務時間関係なしに添い寝までしてくれた。私の事は、当然子供だと認識してはいただろうが、他の大人とは違って子供扱いしていなしたりする様な事はなく、1人の女性として私を尊重してくれた。
勿論、今になって思うのは、そんなものは私を騙す為のまやかしに過ぎなかったのだ、という事。
2度と、誰かを信じて、馬鹿みたいに期待して、がっかりしたくない。

こんなにも心に傷を負ったのは、彼が私の初恋の人だったからだ。

「翡翠、待たせたな。大人しくしていたか?」
突然、セキレイさんによって無鉄砲にドアが開かれ、私はそれに背中を強打された。
「……」
痛い。
どうして、自分でここに私をくくりつけておいて、ドアを開ける時に注意しないのだろう、この人は……
数日寝食を共にして気が付いたのだが、恐らくセキレイさんは無神経だ。不用意な言葉や行動で時折私を傷付ける。この前だってセキレイさんが食事中にゾンビ映画を観始め、私をドン引きさせた。そう、あれは2人でトマト鍋を食べていた時だ。思い出しただけでもゾッとする。
サドだ。
……わざと?
悪気がないのが逆に罪というか、怒れないからたちが悪い。
「誰にも噛みついていないだろうな?」
とか聞きながらも、多分、実は私に猿轡をかませたくてウズウズしているのだと思う。本人は気付いていないのかもしれないけれど、彼は結構、私がおいたをして、罰としてお仕置きをするのを楽しんでいるふしがある。基本は紳士だけど、サディストという本質は隠しきれていない。
「はい」
まあ、素直に従ってやり過ごせば、セキレイさんとの関係は良好だけど。
この人は単純だから案外チョロい。
「そうか」
少し残念そうだけど。
個人的には、弟の王様よりセキレイさんの方が変態なんじゃないかなと思う。俗に言うムッツリだ。瑪瑙さんとの事も考えるとロリコンも少なからず入っていると思う。というか彼は、今は亡き瑪瑙さんしか愛せない病気なのだろう。頭の中で何を思っているかはわからないけれど、若い使用人の女性と衝突してラッキースケベが起こっても、まるで動じていなかった。
「セキレイさん、これ、使って下さい」
ユリがセキレイさんにチューブの軟膏を差し出し、彼はちょっと難色を示す。
「翡翠にはまだ早い」
「セキレイさん、これはローションとか潤滑ゼリーじゃないですよ。軟膏です。翡翠の首に塗ってあげて下さい」
ユリは堪らず失笑し、拳で口元を押さえた。
「あ、そう」
セキレイさんは真顔でそれを受け取り、そのままそれを私に渡す。
セキレイさんはちょっと天然なところがある。最初は冷たくて冗談も通じないサイボーグか何かみたいだと思ったけれど、よくよく観察してみるとクールにドジを踏んでいる。今朝は洗顔フォームで歯を磨いて口からカニみたいに泡をブクブクと溢していた。目が悪いのもあるけど、眼鏡をかけるのを億劫がり、コンタクトを怖がっているので、ホットケーキがしょっぱいだとか、私の頭を2回ともシャンプーしてしまうところは憎めない。粗忽なくせにあれでちゃんとリンスやトリートメント、グルーミングまでしてくれる世話の焼きようだ。
「ああ、そうだ、ダリア、鷹雄がお前に──」
セキレイさんが木葉に向かって話しかけると、ユリがダリアを指差して笑った。
「セキレイさん、それは木葉ですよ」
「あ、そう」
セキレイさんはやはり真顔で意に介した風もなく、鷹雄さんからの伝言を伝える気持ちが削がれたのか、私の手綱を引いて部屋を出る。
……セキレイさん、コンタクトは怖くないですよ。
っていうか、伝言!!
「じゃあ、これから射撃場に行くぞ」
「行かない」
部屋を出て、セキレイさんがエレベーターのある方へ手綱を引いたが、私はそれを拒絶して『散歩を嫌がる犬』状態になる。
「お前な、昨日もそうして嫌がって、今日に持ち越したんだろ?いざという時に王の身を護れるよう、この訓練は避けては通れないんだ、駄々を捏ねるな。俺はお前を引き摺ってでも射撃場に行くからな!」
セキレイさんは宣言通り嫌がる私を引き摺って歩き出す。私は全力で手綱を引き返すがびくともしない。
銃は嫌いだ。銃は怖い。
家族を銃殺された私にとって銃は、自分の身や人を護る為の道具等ではなく、殺戮のマシンだ。見るのも嫌だった。
「まったく、これじゃあいつまでたっても、首輪も手綱も卒業出来ないぞ」
本当は首輪も手綱も鞭も好きなくせに。
「……変態」
ぼそりと私が悪態をつくと、セキレイさんのこめかみに血管が浮き出る。
「お前、いい度胸じゃあないか、銃を嫌がるのは解るが、俺を変態呼ばわりするのは許せん、帰ったら尻をぶつからな」
「変態変態変態変態変態変態変態変態変態変態大変態!」
私が叫び出し、セキレイさんと押し問答していると、そこに翠がやって来た。
「何騒いでんだ?」
「翠!」
兄ちゃん!
私は通りがかった翠を捕まえてその腰にしがみつくと、それがまたセキレイさんは気にくわないらしい、あからさまに嫌な顔をして私の首根っこをひっ掴み、そのままがっしりと抱き抱えて問答無用でエレベーターに乗る。
「あ!おい!セキレイ!乱暴にするな!その子は子供で、女の子なんだぞ!?もっと丁重にだな……ネチネチクドクド……」
遠くで翠の説教が聞こえたが、無情にもエレベーターの扉は閉じられた。
「何だって翠には難なく懐くんだか、お前の調教師は俺だぞ?俺以外に尻尾を振るな」
セキレイさんはイライラしながらぶちぶちと小言を言う。私が翠にすり寄るといつもこうだ。
「王様は?」
「俺と王様と」
セキレイさんは取って付けた様に補足した。
この人は、本当は、瑪瑙さんにとって代わる人を束縛したいだけなんだ。私はたまに瑪瑙さんに成り代わってセキレイさんに体を預け、撫でさせてあげるけれど、私だって翠に兄の面影を見たいのだ。
「翠は兄ちゃんに似てるんだもん」
「じゃあ、俺の顔がお前の兄に似てたら素直に懐くのか?」
「それとこれとは話が別です」
私が即答すると、セキレイさんの目が据わる。
「お前、落とすぞ」
こういうところが兄と似ても似つかないっていうのが彼には解らないらしい。

すったもんだしているうち、エレベーターは射撃場のある地下に到着し、扉が開いた。轟音が響く射撃場では既に献上品の子供達が大人に混ざって個々のブースで各々の調教師達から指導を受けていた。
私はセキレイさんに空いていた手前のブースに押し込められ、勝手にへッドホンの様な物を頭に装置され、あれよあれよと彼に後ろから抱き締められる形で銃を握らされた。
「嫌だ!嫌だ!」
私はセキレイさんに抗って彼の腕の中から逃れようとするが、彼はそれを許さず、無理矢理構え、そのまま発射させようとする。
どうしてこの人はこんなに強引なのか。
「怖い怖い怖い!」
あの大きな音と、衝撃が怖い。嫌でも家族の銃殺シーンを思い出してしまい、具合が悪くなる。
「翡翠、嫌がるのは解るが、怖いものから逃げていてはいつまでたっても克服出来ないぞ」
「セキレイさんだってコンタクト怖がってるじゃないですか!」
私が非難すると、セキレイさんは図星をさされむきになった。 
「誰があんな鱗怖いかよ?」
鱗……
「とにかく、これだけは絶対に──」
パンッ!! 
『嫌だ』と言おうとして、たまたま銃が発射され、私は驚嘆して腰を抜かす。
銃弾は人型の的に掠りもせず、天井辺りに着弾していた。
だ、駄目だ。やっぱり怖い!
「翡翠、おい、立て、翡翠!まったく情けないな、臆病にも程がある」
セキレイさんは深くため息を吐いて呆れていた。
別に、私だって期待に応えたくない訳でもないし、好きで臆病な訳じゃない。他の皆みたいにバンバン撃って、同じように誉められたい。でも、体が拒絶するのだから仕方がない。
私は逃げ出そうと手綱をグンと引っ張っぱると、丁度後ろを通った大人の男性にぶつかり、床にしりもちを着いた。
「痛……」
私が謝ろうと顔を上げると、その男は私に手を差しのべ、微笑む。
「大丈夫?頑張ってるね」
心臓が止まるかと思った。
忘れたくても、とてもよく覚えている顔だった。笑うと目が細くなって垂れ目になるところや、片方にえくぼが浮き上がるところや、長めの前髪をかき上げる仕草に至るまで、私はその全てが大好きだった。

この顔は、この人は、私の初恋の悪魔、トールだ。

ドドドドドドドドド
よく、心不全を起こさなかったと思う。それ位、私の心臓は慟哭していた。
「どうした?翡翠」
セキレイさんに膝で背中を小突かれ、私はハッと我に返ってたどたどしく彼の後ろに隠れた。膝が笑って言うことをきかなかった。
「随分と臆病ですね」
トールは髪をかき上げて笑う。
あの時のままだ。私達家族を追い詰めた時だって、あんな風に笑って濡れた髪をかき上げていた。あの笑顔がずっと好きだったのに、今では、笑顔で近付く人間そのものが信用出来なくなった。
「え?ああ、銃が怖いんだよ」
セキレイさんは手荒に手綱を持ち上げ、腰砕けしている私を無理矢理立たせる。私は生まれたての小鹿の様に脚を震わせ、やっと立っていた。
「なるほど、でしょうね」
トールが意味深に微笑し、私の頭を撫でようとするも、セキレイさんがその手を振り払う。
「勝手にうちの子に触るな。人慣れしてないんだ」
この場において、セキレイさんの無駄な所有欲に助けられる。
「まあ、でしょうね」
トールはニヤニヤしながら射撃場を出て行った。
「なんだ?あいつ、気持ち悪いな。きっと翠と同じロリコンだぞ。翠と同じ」
セキレイさんはトールが去った方を見て翠を愚弄した。先刻の事がよほど悔しかったのだろう。
「セキレイさん、あの人は?」
私はそれとなく尋ねた。
「ん?確か、諜報部隊のトールとか言ったな。今は若くして部隊長をしてるとか」
「そうですか」
多分、私達家族を謀り、手柄を立てて出世したのだろう。今、こうしてのうのうとトールが生きているだけでも虫酸が走るというのに、部隊長にまでなっているなんて、到底許せなかった。
私の中で何かが吹っ切れ、沸々と沸き上がった怒りに心が突き動かされる。
「セキレイさん、わがまま言ってすみませんでした。真面目に射撃をやるので、教えて下さい」
そうして銃を手に取ると、今度はちゃんと握れた。

1時間、2時間、3時間と、気が付けば射撃場に残ったのは私達だけだった。
「翡翠、そろそろ帰るぞ」
ヘッドホンを取り上げられ、私はまだやりたいとそれを背伸びして取り返そうとする。
「どうした?やけにヤル気だが、もう夕飯の時間だ」
セキレイさんは強制的にヘッドホンを所定の位置にしまってしまう。
「でも……」
今すぐにでも上手くなって、トールを撃ち殺しに行きたかった。
「ほら、射撃の衝撃で手が震えてるだろ?」
そう言われ自分の手を見ると、確かに震えて、マメまで出来ていた。
夢中過ぎて気付かなかった。
「何だか調子が狂うな、お前は臆病なくらいが可愛いのに」
セキレイさんは複雑な顔をしてその手を握ってくれた。
セキレイさんは変態だから、実は、ポンコツの私の方が好きだったのかもしれない。
でも、そのままじゃ駄目だ。

私は人知れず、家族を殺したトールに復讐を誓った。

それからの1ヶ月間は、私は人が変わった様に射撃にばかり没頭した。特にライフル、私はこれを使って、中庭に煙草を吸いに出るトールを鷹雄さんの部屋のトイレから秘密裏に撃ち殺そうと思った。事前に何度も鷹雄さんの部屋を訪問し、その場所からなら喫煙スペースのトールを狙えると判ったからだ。セキレイさんの部屋のクローゼットの棚には番号錠が掛かったライフルのセットがあり、彼からそれとなく誕生日を聞き出して数字を合わせたところビンゴだった。そうなると後は自分の腕前次第。
最近は、猛特訓のおかげか、動く的も的確に獲る事が出来るようになった。
「翡翠、凄いね!」
私が連続で小さな的を獲ると、隣のブースで見ていたユリが手振り身振りで誉めてくれたが、私は敢えて気付かないフリをする。
この1ヶ月、調査の為何日も鷹雄さんの部屋でユリと接し、その中で、やはり彼女は面倒見が良くていい人だと感じたけれど、私は騙され易いから、誰も信じない。
「凄いな、翡翠、俺より上手いよ」
反対隣のブースから翠が顔を出し、私は態度を一変させ、ヘッドホンを外して照れ笑いする。
翠の存在は特別だ。
「お前、ほんと、翠にばっか尻尾を振るな」
そんな様子をセキレイさんが面白くなさそうに傍観していた。
「セキレイさん、その手……」
ユリがセキレイさんの手に歯形を見つけると、彼はばつが悪そうにその手を隠す。
「まーた、どうせ翡翠が嫌がるような事をして噛まれたんでしょ?」
翠に図星をつかれ、セキレイさんは苛立ってカツカツと足を鳴らした。
「してない。人聞きが悪いな」
「セキレイさんは私が寝ている間に悪戯しようとしたので噛んだんです」
「セキレイ、お前……最低だな」
セキレイさんは翠には蔑まれ、ユリにはクスクスと笑われ、ダリアや木葉には後ろ指を指され少し可哀想だったが、さっき私が述べた言葉は事実なので仕方がない。
「朝起こしに行ったら、顔が赤かったから熱を測ってやろうとしただけだ」
「確かに少し顔が赤いね。どれ、私が診てやろう」
ユリの向こうから鷹雄さんがひょっこり姿を現し、私のおでこに触れようとして、セキレイさんにその手を捻りあげられる。
「いでででででででで、医療行為!医療行為!」
鷹雄さんは苦痛で悲鳴を上げたが、セキレイさんはやはり他人が私に触れる事を許さない。最近、セキレイさんの独占欲には拍車がかかってきているようだ。
「俺がやるから変態医師は自分とこの子とお医者さんごっこでもしてろ」
「別に、瑪瑙にした様ないかがわしい事はしないって~」
鷹雄さんがそう言って泣き笑いすると、逆鱗に触れたのか、セキレイさんは彼を睨みつけて黙らせた。
鷹雄さん、馬鹿な人だ。
「触るぞ」
そう確認をとってセキレイさんが私のおでこに触れた。
「やっぱり熱がある。まだ午前だが、今日はもう引き上げるぞ」
「嫌だ。まだやる」
私はどうしても狙撃の技術を磨きたくて断固拒否したが、セキレイさんは例の如く手綱を力任せに引く。グイグイと首輪が肉に食い込み、首を締め上げられる。
痛い、言われてみると具合も悪い気もするけど、でも、もっと練習して、確実にトールを仕留めたい。
「また駄々を捏ねて、お前は熱があるんだから部屋で休むんだ!」
「嫌だ!やる!」
やれって言ったり、やるなって言ったり、どっちなんだか。
私は熱に浮かされていた事もあり、やけに粘って『散歩を嫌がる犬』をやっていると、遂にセキレイさんは匙を投げて翠に私の手綱を渡した。
「翠、俺の手には余る。お前のとこで休ませてくれ」
『手に余る』
私は耳を疑った。
いつもは人の事を自分の物みたいに束縛するのに、私はセキレイさんの手を焼いて、捨てられた……?
ショックだった。
翠と一緒にいられて嬉しい筈なのに、私は翠に『行くよ』と促されるままとぼとぼとその後ろを付いて行く。
射撃場を出る時、後ろの方でライターをする音がして、セキレイさんが火気厳禁なのに煙草を吸ったのだと思った。
私はセキレイさんを失望させて、怒らせたんだ。
とても悲しかった。

どうやってここまで来たのか、気が付くと私は、翠の部屋のソファーで毛布を被り、頭に熱冷ましのシートを貼られていた。傍らには翠と木葉がいて、翠は仏の様な慈悲深い顔をして私を諭す。
「少しはセキレイに甘えてもいいんじゃないの?」 
「……」
私はボーッと翠の言葉を聞いていた。
「君も、木葉くらい甘えん坊でも全然いいのに」
『ねー?』と翠が木葉に笑いかけると、木葉は『甘えん坊じゃないもーん!』と愛らしく頬を膨らませる。
私もあのくらい愛嬌があったら、きっと世の中を上手く渡っていけるだろう。
「君の境遇から考えると、どうしても、誰にも心を許せないのは解るけど、今は彼だけが君の身内みたいなものなんだから、少しは身を委ねてみたら?」
翠はソファーに腰掛け、体を捻って私の頭を優しく撫でてくれる。
セキレイさんとは撫で方が違う。セキレイさんはもっと、私の感触を楽しむ様に触る。本当に、愛犬でも可愛がる様に私を慈しむのだ。
私はそのちょっとした発見に少し驚いた。
体が弱っているせいか、何だかセキレイさんが恋しい。
「熱が下がったらセキレイが迎えに来るから、その時はちゃんと素直に──」
「きっと迎えに来ない」
翠の言葉を遮って、私は声を震わせて不安を吐露してしまった。
「え?」
私を撫でる翠の手が止まる。
「きっと来ないよ。セキレイさんは私の事が嫌いになって、それで……」
私は目頭が熱くなるのを感じ、頭から布団を被った。
嫌だな、何で……
「それで?」
「私を捨てたんだ!」
その言葉と同時に、モヤモヤとした不安が涙となって止めどなく溢れ、どうしようもなく私を悲しくさせる。
どうして涙なんか……
「セキレイは君を捨てたりしないよ。とても大事にしているからね」
馬鹿だな、と翠が優しく笑いかけてくれたが、こんな時に優しくされると、私はもっと卑屈な気持ちになった。
「セキレイさんが大事にしてるのは死んじゃった瑪瑙さんで、私はただ瑪瑙さんに雰囲気が似てるからそばに置いてもらっているだけなんです!」
胸の傍らに引っ掛っていた小骨が、今になって無性に気にかかる。
私はこんな事を気にしていたんだ。
自分でも馬鹿馬鹿しくてびっくりする。
「きっかけはそうかもしれないけど、今、こうして、他人を信用出来ない君が、セキレイに突き放されて悲しんでいるってのはさ、それだけ君自身があの男に大事にされてきたからじゃないのかな?セキレイが本当に君を瑪瑙の代わりにしようとしているのなら、最初から君を献上品としてじゃなく、自分の稚児とか丁稚、小姓として育ててたと思うよ。セキレイは君に瑪瑙と同じ末路を辿ってほしくないから、側室として幸せになれるよう尽力しているんだよ?あの男は不器用でサディストだから君に厳しく当たって誤解を生んでいるかもしれないけど、ここの誰より君を想って右往左往してるよ」
解っている。セキレイさんは虐めっこ体質で人より神経の足りてない人間だけど、彼はここの誰より私の味方で、信頼に値する人だ。でもおかしなもので、信頼すればする程疑いたくなるし、不安にもなる、かと言って裏切られるのが怖くて誰も信用したくないのに、心のどこかでセキレイさんを信じたい自分もいる。矛盾のループだ。
「翡翠、君はセキレイの事が好き?」
「私はセキレイさんの事なんか好きじゃない。信用したくないし、好きにもなりたくない」
今でこそ私はセキレイさんに見放されてみっともなく咽び泣いているのだから、好きになってしまったらどうにかなってしまう。
「好きになりたくないって事は、君は既にセキレイの事がちょっと好きなんだよ。信用したくないけど信用せずにはいられなくなっているんだよ。でもそれでいいんじゃないかな?」
翠はわざと明るくケロッと話すが、私は布団の中からジメジメといじけた声を出す。
「だって裏切られたら、もう……」
きっと私は立ち直れなくなる。
「大丈夫だよ。君のセキレイさんは馬鹿だから、絶対に君を裏切らない」
全く根拠の無い励ましだったが、確かにセキレイさんは馬鹿正直な人だから、私を欺く事は出来ないかもしれない。

私は翠の慰めのおかげで落ち着きを取り戻し、熱が下がるまでの数日を彼の世話になる事にした。
翠は『セキレイも意地っ張りなとこがあるから、もし迎えに来なかったらうちの子になればいい』と言ってくれたが、木葉が顔を真っ赤にしてヤキモチを妬き、そのせいとは言わないが、私は首を横に振って彼の申し出を断り『迎えに来てくれなかったら、頭を下げて自分で戻ります』と答えた。
そうだ、心配してくれたセキレイさんに謝ろう。謝って、日頃の感謝を伝えよう。

──その日、私は日々の無理が祟ってか、そのまま夜中まで眠り続けた。深い眠りに身を任せ、熟睡しきっていると、寝返りをうつタイミングで玄関の方がやたらとざわついている事に気が付く。
「セキレイ、何時だと思ってんの?!」
私は眠い目を擦り、ソファーから抜け出てリビングのドアを少しだけ開けて様子を窺うと、呆れ果てて壁に手を着いている翠の後ろ姿が。
何だろう?
もう少しだけドアを開いて見てみると、上半身裸のセキレイさんが立っていた。
私は何故か条件反射の様なものが発動し、咄嗟に身を隠す。
こんな夜中に何で?てか、何で裸?
「雷が鳴っているから翡翠を迎えに来た」
セキレイさんは通常運行の真顔でそう言ってのけたが、私は、雷なんか鳴っていたか?と首を捻った。
「いやいやいや、いやいやいやいやいや、雷て、相当遠いだろ、寧ろよく気付いたなしかし」
翠も唖然としているようだ。
「雷は雷だからな」
平然と答えるセキレイさんだが、このレベルの存在感の無い雷は、さすがの私でも怖くない。
それでも、セキレイさんは雷が怖い私を心配して、こんな夜中に迎えに来てくれたのだろうか?
「セキレイ、お前、そんなに雷が怖いのか?」
そっち!?
「俺じゃねーよ」
──でしょうね。
「セキレイ、いくら翡翠が心配だからって、TPOってものがあるでしょ?それに雷が鳴ったとしても、今は俺が翡翠に付いているんだから」
翠がすかさずいつもの説教モードに入るが、セキレイさんも負けてはいない。
「それは解るが、雷が近付いてきて、いつも俺のベッドに潜り込んでくるはずの奴がいなくて、そいつが俺の代わりにお前のベッドに潜り込んで安眠するかと思ったら何か無性にイライラして眠れなくなって、居てもたっても居られず迎えに来た」
心狭っ!?
ここからではセキレイさんの表情は見てとれなかったが、言い方だけ聞いていると、いつものふてぶてしい感じだ。
「セキレイ、お前なぁ、どれだけ勝手なんだよ?翡翠を突き放したり、かと思えば呼び戻したり」
「突き放したつもりはない。翡翠に本当に休んでほしかったからお前に任せた。あれは頑固だから、俺が言っても聞かなかっただろうし」
あ、そういう事か。セキレイさんは本当に不器用な人だ。私と同じで。
「それで、寂しくなったから、雷にかこつけて翡翠を迎えに飛び出して来たんだろ?」
「……」
図星か、セキレイさんはぐうの音も出ないようだ。
「やれやれ、でももう遅いし、翡翠もやっと落ち着いたんだから今日のところは帰れって」
シッシとセキレイさんは翠に門前払いをされ、何か言いたそうに間をおいた後、諦めてドアを閉めようとした。
「待って!」
置いて行かないで!
私は閉まりかけるドア目掛けて走り出し、セキレイさんの腰に飛び付く。
「翡翠、寝てなきゃ駄目だろ?」
何故か迎えに来た張本人が困った顔をした。
とんだタヌキだ。
「雷が怖くて」
私もとんだタヌキだが、セキレイさんが恋しくて、迎えに来てくれたのが天にも昇る程嬉しかったなんて、照れ臭くて言えない。
「雷なんかまだ相当遠いじゃないか、それに、翠や木葉もいるだろ?」
白々しくそんな事を言ってくるセキレイさんは、やっぱり意地悪で、どサドだ。でも、私はそれが心地よくて憎めないのだから仕方がない。
「うん。でも、セキレイさんと寝る」
言わされた感はあるが、自分でも、言っていて素直な気持ちになれた。
「やれやれ仕方がないな。風邪でもうつされてやるか」
そう言ったセキレイさんは満更でもなさそうな顔をしていた。
「ほら」
セキレイさんに当たり前の様に手を差し出され、私はその手に飛び付いた。
「お前は本当に臆病で、仕方のない奴だな」
とか言いながらセキレイさんは何だか嬉しそうで、私も心が温かくなった。

熱が下がるまでの3日間、セキレイさんは私の為に毎日、毎食、プルプルとかぐちゃぐちゃとかデロデロしたものを作ってくれた。おかげで私は水っぽい食べ物が嫌いになり、それから元気になった。セキレイさんいわく『こういう食べ物だか飲み物だからわからないような食べ物は消化にいいんだ。婦人科専門の鷹雄が言ってたから多分確かだ』との事、色々と突っ込みどころ満載だが、彼なりに私を心配してくれていたのだろう。ありがたい話だ。
──ただ『人にお粥を作るなんて久しぶりだな』とセキレイさんが無意識に呟いた言葉がやけに胸にしみた。
以前は瑪瑙さんの為に作ってたんだ。美味しくないけど愛情がこもったこのデロデロを瑪瑙さんも食べてたんだ。
そんな事が引っ掛かったが、まるで私がヤキモチを妬いているようで聞けない。
「どうした?ボーッとして、熱でもぶり返したか?」
セキレイさんが私のおでこに触れ、自分のおでこと比べる。
「熱は無いけど病み上がりだからなぁ、今日も休むか?」
私は首を横に振る。
「そうか……なぁ、翡翠、お前は無口だから自分の思っている事を言葉にするのが苦手なのかもしれないが、具合が悪かったり、嫌な事があったり、悲しかったり、怖かったり、嬉しかったり、楽しかったりしたら、何でも話していいんだからな?俺に言いづらかったら、誠に遺憾だけど翠やユリに話してもいいんだし、具合が悪かったら最悪鷹雄に相談してもいいんだ」
「うん」
自分で思うより、自分の思っている事を言葉にするのは難しい。どうしても思いにブレーキがかかってしまうのだ。そもそも自分でも、自分がどうしたいのか掴めなかったりする。

体調が回復し、私はトール討伐の日を夢見てまた射撃に力を入れる。
「翡翠、やけに射撃に力を入れてるのね?」
射撃場でユリに声をかけられた。
「射撃が好きだから」
まさか復讐の為とは言えず、私は当たり障りのなさそうな理由をとってつける。
「セキレイ、射撃ばかりやらせてないで、ちゃんとアッチの方も教えてるのか?」
ユリの後ろから鷹雄さんが顔を出し、セキレイさんにいかがわしいジェスチャーをして睨まれる。 
というか、どっち?
私がセキレイさんを見上げて目で問い掛けると、彼は私の頭をぐしゃぐしゃにして誤魔化した。
「気にするな、大人になったら全て活字で教えてやるから」
「官能小説でも読ませる気か?」
鷹雄さんが腹を抱えて笑い、セキレイさんは眉を吊り上げる。
「撃つぞ?」
セキレイさんが私の持っていた銃に手を掛けて鷹雄さんを脅すと、彼はユリを盾にして身を縮めた。
この2人、どうにも相性が悪いらしい。
「それはそうと、せめて翡翠を外へ狩りにでも連れて行ってあげたら?王はパートナーと狩りを楽しむ事もあるんだし。何より、ずっと部屋のあるフロアと射撃場の往復なんて翡翠も息が詰まるよ。たまには息抜きも必要だよ」
『ね?』と翠に笑顔で同意を求められ、私がつられて頷くと、彼の後ろで『浮気ー!!』と木葉の怒声がして、彼は『はいはい、木葉が一番だよ』なんて彼女を抱き締めた。
何か、羨ましい。
私は、素直で甘え上手な木葉と、それに終始笑顔で応える翠が羨ましかった。
あんなに手放しで甘えれるなんて、あの子は凄いな。それに何か2人は、2人で1人みたいな、ベストパートナーというか、信頼関係で結ばれている様に見える。
これを私とセキレイさんに置き換えてみると……
ゾッとする程想像もつかない。
「外か……」
セキレイさんは腕を組んで悩む様な仕草をした。
「止めておいた方がいんじゃないですか?セキレイさん」
ダリアが鷹雄の向こう側から口を挟み、セキレイさんは彼女の方を見る。
「ん?」
「だってその野良犬に後ろから撃たれるに決まってるじゃない」
「あぁ、そうか、そこまでは考えていなかった。翡翠、どうなんだ?」
セキレイさんは『成る程』と手を打って私に向き直った。
「TPOです」
私がズバリその様に切り返すと、セキレイさんはちょっとイラッとして眉間に皺を寄せる。
冗談ですよ、セキレイさん。
「お前、やに熱心に射撃の練習をすると思ったら……さては……」
セキレイさんから疑惑の目を向けられ、私は今更冗談でしたと言えなくなった。
「セキレイ、心配しなくても、翡翠は君を撃ったりしないよ、やるならとっくに寝込みを襲っているはずだろ?それに射撃じゃなくても、たまには外を散歩させてやるのもいい気分転換になる。別に城の森林公園内で、お前がついていれば罰せられる事もないんだ」
という翠のフォローに救われたが、セキレイさんはあまり納得のいっていない様子。
「それも解るが……」
「セキレイさんは翡翠を囲いたくてウズウズしてるんですよね?それこそ箱入り娘みたいに、外に出したくないんじゃないですか?」
ユリがクイズにでも答えるみたいに目を輝かせて推理した。
「まぁ、出来れば監禁しておきたいんだけど」
セキレイさんは常に真顔なのでそれが冗談であるかは判別が難しい。そんなところは私ととても良く似ているのでちょっと親近感がある。
ただ冗談にしては内容がクレイジー過ぎるよ、セキレイさん。怖い。
「セキレイ、翡翠は家猫じゃないんだから、部屋の中で猫可愛がりするのはお前の自己満なんだからな。そもそもお前って奴は……ネチネチクドクド……」
翠の説教に花が咲き、これは長くなりそうだと各々練習に取り掛かり始めた。
「翡翠、お前は外に出たいか?」
とセキレイさんに聞かれ、私は返答に詰まる。
それはまるで、城から脱走して外の世界に行きたいかと聞かれている様だった。
例え脱走したとして、私は独りでどうやって生きていけばいいんだろう?

セキレイさん無しで、私は生きていけるのかな?

セキレイさんは最早、私の生活の一部、いや、大部分だ、彼無しではいられない。
でもそれをセキレイさんに伝えたらきっと喜ぶだろうけど、私達はそんなんじゃない。翠と木葉みたいな関係とはちょっと違う。まだ、2人の間には見えない壁とか、距離とか、溝等と言ったものが存在する。現にセキレイさんは──
「外に出た瞬間、お前に逃げられそうで怖いんだよな」
私を信用していない。だから私には、今でも首輪と手綱が欠かせないのかもしれない。
でも信用されたところでどうだろう?
私はトールを暗殺して王の寝首をかこうというのだ、これは私を調教するセキレイさんへの裏切りに他ならない。きっとセキレイさんを幻滅させる。それなら最初から信頼関係なんて無い方がいい。これは何もセキレイさんに限った事ではない、翠でも、ユリでも、その他大勢でも同じ事だ。仲良くなるだけ後が辛くなるならこれ以上人と距離を縮めるのは得策ではない。

「今日は定例会議があるから、お前はユリのとこで留守番だ」
朝食後、セキレイさんに言われ、私はいつもの様に鷹雄さんの部屋に預けられた。セキレイさんが何かの用で出掛ける時はいつもユリに面倒をみてもらっている。今日は調教師の会議という事で、部屋にはユリとダリアと木葉と私しかいなかった。
最初はユリに作ってもらったプリンを皆で食べながらテーブルで談笑していた。
「翡翠、美味しい?今日のプリンはね、生クリームで作ってみたから濃厚なの。気付いた?」
ユリが隣の席から顔を寄せて話し掛け、私は気後れして身を反らせる。
この人、耳が悪いのか、目が悪いのか、距離が近い。
セキレイさんも目が悪いので、時々変な距離で近付かれ、私はその度に心臓をバクバクさせていた。
「その子に話し掛けたって無駄よ。石なんだから」
私が黙っていると、ダリアが嫌味たっぷりに悪態をつく。
「やめなよ~!翡翠ちゃんはセキレイさんに似てカモクなんだから。翠が、献上品は飼い主に似るもんだって言ってたもん」
木葉が緊張感の無い、間延びした言い方で私を援護してくれたが、あまり効果は無いように思われる。
「飼い主に似るならあんたは説教くさくなって、ユリは遊び人になるのかもね」
ダリアは人の悪い笑みを浮かべてクスクスと笑った。
「だったらダリアも遊び人になるって事でしょ?それに鷹雄さんは遊び人なんじゃなくて、貞操観念が皆無なだけ」
……何が違う?
ユリがそう言って牽制すると、ダリアはふて腐れた様に口を尖らせ、目の前のプリンをスプーンで攻撃しだす。
「翡翠、寡黙だっていいじゃない。人に悪態をつくより全然まし。私は寡黙な翡翠、好きだよ」
ユリは私を励ましてニッコリと笑顔を向けてくれたが、私は自分が寡黙である事を気にしてはいない。
でもやっぱりこの人はいい人だ。きっと環境が違えば、いい親友になれたと思う。
「あ、そろそろ10時だ」
時計を見た木葉がテレビの前に陣取り、リモコンでチャンネルを回す。木葉は10時からはいる子供番組をこうして楽しみにしているのだ。
「まったく、子供ね」
とか言うダリアも、何だかんだで木葉の隣でテレビにかじりつき、ユリはキッチンで洗い物を始める。私はその後ろを通ってトイレに入った。
10時か……
毎日午前10時と午後3時、トールは中庭の喫煙ルームで煙草を吸う。
タイミングが合えば、今日、トールを殺す。
私は便座によじ登り、小窓からトールが喫煙ルームにいる事を確認する。
よし。
私はそこから一旦セキレイさんの部屋に戻り、クローゼットの棚からライフルを取り出し、そこにあったコートでそれをくるんで鷹雄さんの部屋にとって返す。
背中にライフルを隠し、テレビに夢中な2人に気取られぬようこっそりキッチンへ、そこではライフルを腰の辺りで持ち、丹念に皿を洗うユリの目もかいくぐった。
再度便座の上から喫煙ルームを確認すると、トールがまだ煙草を吸っている。あれを吸いきる前に彼を射殺しなければ。トイレにこもっていられる時間も限られている。
私はライフルを取り出し、諸々のセッティングを手早く済ませると、目立たぬよう小窓から彼の首筋を狙う。
積年の恨み、晴らしてやる。
引き金に指をかけると、トールと過ごした偽りの日々や、家族を殺された瞬間が頭にフラッシュバックした。
私を撫でてくれた彼の大きな手、抱き締めてくれた力強い腕、優しい言葉、その全てが大嘘で、彼が私の家族を追いやった時、彼は笑っていた。
苦しい、目が熱い、目の前がボヤける。しっかりしなきゃ、私はあいつを殺して家族の仇をとるんだ。
人を殺すのは初めてで、私は怖くて手が震えた。
一度、覗いていたスコープから顔を上げ、呼吸を調えると、ライフルの脇に小さな文字を見付ける。そこには、アルファベットで『瑪瑙』と彫られていた。
これは瑪瑙さんのライフルだ。恐らく、セキレイさんがハンティング用に彼女へプレゼントしたものだろう。
瑪瑙さんは外に連れて行ってもらってたんだ。彼女はセキレイさんに信頼されてたんだ。
セキレイさんはずっとこのライフルを後生大事にクローゼットにしまってた。
彼女はセキレイさんにとても愛されていたんだ。
それを再確認させられると、セキレイさんから信用さえされていない私は、悲しくなる。
セキレイさんは瑪瑙さんの為にお粥を作ったり、ライフルをプレゼントしたり、他にも、私以上に彼女を凄く可愛がっていたんだ。
こんな時なのにセキレイさんの温かな手や、力強い腕や、まれに発せられる優しい言葉を思い出していたたまれなくなる。
この服も、あの子供部屋も、元は全て瑪瑙さんの為にセキレイさんがあつらえた物なのだと思ったら、目に見えない何かがとても妬ましくなった。
こんな事、考えてる場合じゃない。今はトールを射殺する事だけ考えなきゃ!
私は頭を切り返え、再度スコープを覗き込む。するとそこにいたはずのトールの手前に、あろうことかセキレイさんが立って喫煙しているではないか!
邪魔っ!! 
先刻の事でセキレイさんへの殺意もチラリと芽生えたが、勿論彼を撃ったりはしない。私は焦燥としながらセキレイさんが着弾の軌道から逸れる機会を待つ。
早く、早く、今を逃したら、またいつチャンスが訪れるか解らない。
ああ、もう、セキレイさん、どいてよ、つくづく空気の読めない人だな。
私はイライラしながらセキレイさんに念を送る。
早くしないとトールを逃がしちゃうよ。
トールは煙草を吸いきり、灰皿にそれを押し付けている。
駄目だ、行ってしまう。セキレイさん、あなたごと撃ちますよっ!? 
セキレイさんも所詮は敵国の人間だ、何も、彼を考慮する必要なんか最初からないんだ。こうなっては背に腹は変えられない、セキレイさんごと……
ゴクリと私の喉が鳴った。そんな時──

コンコンッ

「翡翠?お腹でも痛いの?もしかして、私のプリンにあたった?」
ユリが、なかなかトイレから出て来ない私を心配してドアをノックしてきた。
「だ、大丈夫、心配ないから、あっちに行ってて」
私は動揺しつつ引き金に掛けた指に力を込める。
本当に、セキレイさんごと撃つ?
この機会を逃したら2度とチャンスは無いかもしれない、でも……
「ねぇ、翡翠、さっきトイレに何か持ち込んでなかった?」
ドキッ
心臓がひっくり返った。
「気のせいだよ、私は何も……」
私は他にいい言い訳がみつからなくて語尾を濁らせた。
ユリは目の端で、私がトイレにライフルを持ち込むのを見ていたんだ。
絶体絶命、やるしかない。例え私が捕まる事になろうと、せめてトールにだけでも復讐出来れば……
もう後戻りは出来なかった。
「翡翠、何をする気なの?お願い、出て来て!」
何かを察知したユリが激しくドアを叩き出す。
「いいから!少し黙ってて!」
私は初めてユリを激しく叱責した。
集中出来ない。ユリの心配も解る、でも私にはやらなければならない事がある。それが例えセキレイさんを犠牲にしようと。別にセキレイさんに恨みはないが、この場合、仕方がない。

セキレイさん!

私は腹をくくり、覚悟を決めた。
ガチャ!
トイレに、銃声ではなく、ドアが解錠される金属音が響いた。
「翡翠、あなた、やっぱり……」
ドアが開けられ、ライフルを握ったまま呆けている私を見たユリは、それごと私を抱き締めてくれた。
「ここからセキレイさんを……?」
ユリは窓の外を見て、声を殺して尋ねる。
「違う!私は復讐の為にトールを殺したかった!でも、セキレイさんがいて、撃てなかった」
やっぱり、いくらセキレイさんが敵国の人間と言えど、私に彼は撃てない。
「トール?あの諜報部員の?」
私は黙って頷く。
「あれが、あなたの仇?」
私はもう一度頷いた。
「翡翠、よく話してくれたね。ずっと1人で抱えてたんだよね?でももう大丈夫、私がいるから」
ユリにギュッと強く腕に力を込められ、私はライフルが当たって胸が痛かった。
「私は、次こそは絶体にトールを殺す!刺し違えてでも、絶体に──」
私がそう息巻くと、ユリは思い切り私の頬をぶった。
目の前に星が飛び、遅れてじんじんと奥歯のところが熱く痛む。 
「翡翠、絶体に駄目!いくら復讐と言っても、絶体に人を殺しては駄目!」
ユリは私の両肩をがっちり掴み、真っ直ぐこちらを見据えた。
私はその目力に圧され、斜め下辺りを見る。
「何でそんな事言われなきゃいけないの?」
私が覇気の無い声で反論すると、ユリは再度私を抱き締めて、耳元ではっきりとこう言った。
「復讐で人を殺しても、その辛さは復讐前の何倍にも膨れ上がる。私がそうだったように」

この優しいお姉さんが、人を殺したと言うのだ。

「私は経済的に恵まれた東部国の出身なんだけど、幼い頃家に強盗が入って、両親と妹を殺された」
ユリが語った、自分と酷似した境遇に、私は驚きを隠せなかった。
「私は掃き溜めで生活しながらその強盗を死にもの狂いで探し周り、見付けて、思い付く限りの残忍な方法で殺した。でも胸は晴れなかった。それどころか、私は家族を殺された復讐をしただけなのに、身に余る十字架を背負い、今でもその重責に苦しんでる。復讐に燃えていた時の方がずっと前を見ていられたし、生きる気力もあった。なのに、やっと復讐を果たせたというのに全く幸せじゃなかった。寧ろ犯人が毎夜夢に出てきて私を責めて、毎日毎日苦しかった。そんな思いを翡翠にはしてほしくない。私は血で穢れてしまったけど、あなたみたいな綺麗な子にはそのまま綺麗でいてほしい」
ユリの言葉は、身に積まされる思いだった。
こんなに賢くて、利発で、思いやりの塊みたいな人がそんな事で苦しんでいたなんて、私は自分の事で手いっぱいで気が付かなかった。自分だけが不幸で、自分だけが可哀想なのだと思い込んでいた。いつも気丈に振る舞うユリの笑顔の裏に、こんな不幸が……私は自分で自分が恥ずかしかった。
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『大事な人』ユリのそんな言葉で、ふとセキレイさんの仏頂面が頭に浮かぶ。
「でも私は、トールを殺さないと気持ちが収まらない」
私がぐっとライフルを握りしめると、ユリは私の耳元で囁いた。
「翡翠、約束して。4年後、私は必ずあなたの仇を討つから、それまで待って」
私がびっくりしてユリを凝視すると、彼女は私の顔を両手で引き寄せ、啄む様にキスした。
「ユリッ!?」
私は更にびっくりして顔を背ける。
初めてだった。
初めて過ぎて、一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
「翡翠、約束のキスだよ」
ユリはいつもの様にクスクスと笑っている。
「ず、狡い!不意打ち!」
私は顔を真っ赤にして口元を押さえてユリを非難したが、彼女は全く悪びれるでもなく微笑んでいた。
「でもキスしたんだから、約束は約束。今みたいな事、絶体にしたら駄目だからね」
「でも、ユリがまた人を殺したら、もっと苦しむんじゃあ……」
私だって、こんなお人好しにそんな事をしてほしくない。
「心配してくれるの?翡翠はいい子ね」
「べ、別に……」
ユリに顔を寄せられ、私はまたキスされるのではないかと腰が引けた。
「私はもう、1度人を殺した身、1人も2人も同じ事なのよ。それに言ったでしょう?私は翡翠の事が好きだって。好きな人の為なら、自分が汚れる事なんて何ともない」
「えっ!」
先刻ユリが言っていた言葉はライク的な意味合いだとばかり思っていたが、私はとんだ勘違いをしていたらしい。
「翡翠、約束したからね」
ユリは、固まっている私の小指に自身の小指を絡め、やや強引に約束を取り付けた。
「私を信用して、私も翡翠を信用するから」
そうしてユリにもう一度口付けられ、私は何が何やら解らぬうち、彼女にいいように踊らされた。

私はセキレイさんがお迎えに来る前にライフルを元の場所に戻し、夕刻、彼がお迎えに来た瞬間、その腰に抱き付いた。
「え?翡翠、どうした?」
セキレイさんは驚いていたが、少し嬉しそうだった。
「セキレイさん、ごめんなさい」
(チラッとセキレイさんごと撃とうとして)
「ん?何か悪さでもしたのか?」
とは言いつつも、セキレイさんは優しく私の髪をすいてくれる。
ああ、この手だ。私はこの温かな手が好き。
「翡翠はいい子にしていましたよ」
後ろからユリがセキレイさんに愛想を振り、私の心臓はドキリと慟哭した。キスされてから、ユリの顔を見るのが恥ずかしい。別に、ユリに嫌悪感を抱いている訳ではなく、キスされて完全に彼女を意識してしまっているからだ。最早トールの暗殺失敗の事や、ユリがした約束の事も頭からふっ飛んでいる。
「そうか、凄い臆病だし、人見知りだから会議中もずっと心配してたんだ」
セキレイさんが私の事を?
ただそれだけで、何故か胸が熱くなった。
「心配ないですよ。今日は翡翠とちゃんと話が出来て、今では良き友人ですから」
『ねっ?』とユリに肩を叩かれ、私は真っ赤っかな顔をセキレイさんの腿に埋める。
セキレイさん、助けて。
「照れてるのか?翡翠。でも良かったな、友達が出来て」
セキレイさんは満足そうだったけれど、私はとにかく恥ずかしくて彼の手を引いて部屋に戻った。

「何だ?今日はやに甘えん坊じゃあないか」
部屋に帰ってからも、私はセキレイさんにくっついて離れなかった。
やっぱり私はセキレイさんがいないと駄目だ。暗殺を断念してから、とても彼が恋しかった。
ベッドに腰掛けたセキレイさんの膝に、私が上半身を乗せて顔を伏せていると、彼はおもむろに私の首輪を外す。
「え?」
私は驚いて顔を上げ、セキレイさんを凝視した。
「友達も出来て、お前もだいぶお利口さんになったし、そろそろこれが無くても大丈夫かな?って」
「それって……」
少しは私を信用してくれたって事?
「まだ俺の中に、瑪瑙とはぐれたトラウマがあるから外に出してやれる自信は無いけど、もう少ししたら、城内の庭園でピクニックでもしよう」
『弁当やお菓子を沢山持ってさ』と夢を語るように話すセキレイさんを見て、私は嬉しくもあり、そして申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
セキレイさんは私の事を信用してくれたのに、私は瑪瑙さんを羨んでセキレイさんを疑ったり、あまつさえ撃とうとしたり……私は酷い人間だ。
「セキレイさん、ごめんなさい。これからはもっともっといい子になります。別に、外には出れなくていいんです」
「えっ!ピクニック」
多分、実はセキレイさんの方がピクニックに行きたかったのだろう。彼は少しショックを受けていた。
「セキレイさんといられれば、私はどこでもいいんです」
「……」
「セキレイさん?」
突然黙り込むセキレイさんを見上げると、彼は表情の読めない顔で口元を押さえている。
「いや、虫歯が痛んだだけだ」
私が照れ隠しをするように、セキレイさんもそうしたのかもしれない。
普段仏頂面だけど、この人は案外、可愛いところがあるのかもしれない。
「あ、そうだ、セキレイさんにお土産があるんです。ユリから、セキレイさんの好物だと聞いて」
私はごそごそとズボンのポケットから半円のケースに入った生ぬるいプリンを取り出し、それをセキレイさんに渡す。あれからユリに習って作ったものだ。そのプリンの登頂部は小さな円形で一部ピンクに着色してある。
セキレイさんはそれを見るなり『え?』という顔をした。
「おっぱいプリンです!セキレイさん、好きですよね、おっぱい」
「は?」
セキレイさんは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしたが、きっと内心は喜んでいる、はずだ。
何と言っても、セキレイさんはおっぱい星人ならしいから。

その後、セキレイさんは私にじろじろと見られながら居心地が悪そうにプリンを食べた。
ちなみに最初のひと刺しはあの登頂部からだった。

「何だかお前に手を噛まれていたのが遠い日の事の様に思えるな」
セキレイさんに風呂で体を洗ってもらった後、彼は私の体をタオルドライしながら哀愁に浸った。
「本当は噛みたくて噛んでいたんじゃないんです」
今日、セキレイさんをライフルで狙って初めて気付いた。本当はセキレイさんを傷付けたいんじゃないって事と、セキレイさんを大事に想っていたという事。
「解ってるよ。自分でも怖くてどうしていいか解らなかったんだろ?お前は、ただ俺が信用出来る奴かどうか試してただけなのかもな」
『でもな』とセキレイさんは付け加え、タオルで私の体を包む。 
「別に俺の事なんか信用しなくてもいいんだよ。噛まれたっていい、お前が献上されるその日まで、そばにいてくれればそれでいい」
「セキレイさん……」
何だか、私の初恋の呪縛が解かれた様な気がした。
今日、ユリが言っていた『復讐の情熱を大事な人の為に使ってほしい』という言葉がやけに胸に響くのは、私がセキレイさんをその対象だと認識したからかもしれない。

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