悪役推し令嬢はこじらせ男子を攻略したい

福北ヒトデ

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第一章 アレクシス攻略

作戦会議・2

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「坊ちゃまの進度は、だいたいこのぐらいでしょうか」

 どうやら、アレクシスは全体の七割ぐらいできているようだ。
 勉強嫌いと聞いていたから心配していたが、これなら対決しても問題なさそうだ。

「別に隠すような成績ではありませんよね? むしろサボらずに勉強していれば、クリスティアン王子と遜色ない成績になると思いますけど」
「そうなのか?」
「ええ。アレクシス王子は、クリスティアン王子と同い年ですから、魔法学院の入学は二年後ですよね? 二年もあれば十分追いつけると思います」

 二人は異母兄弟で、産まれた時期もほぼ同じと聞いている。
 マンガでは、魔法学院の同級生だったから間違いないはずだ。

「ただ……強いて言うなら、算学はあまり得意ではなさそうですね。二桁以上の計算になると、途端に不正解が増えています」

 私の言葉に、アレクシスはムッとした。

「……オレは文官ではない。王族だ。算学が得意である必要はなかろう」
「ダメですよ。むしろ上に立つ人こそ、数字が読めなければいけません」
「むしろ? それはなぜだ?」
「部下が噓の報告をする可能性があるからです」

 意外そうにアレクが目を見開く。私は説明を続けた。

「たとえば地方の文官が、横領をしたとします。すると不正を隠すために、数字を大きくしたり、小さくした報告書が提出されます。けれど数字が読めなければ、どの数字がどのように不自然なのかがわかりません。不正を見逃さないためにも、算学は上に立つ者ほど必要な能力ではありませんか?」
「む……」

 アレクシスが考え込んでいる。

「しかし、算学か……。というか、そこまで言うアンタはどうなのだ。当然、オレよりも勉強ができるのだろうな?」

 アレクシスが露骨に話題をそらした。
 そんなに算数が嫌いなのか。

「そうですね。少なくとも学院入学前の勉強は、すでに終えていますよ」
「本当ですか、お嬢様? それでは、クリスティアン王子と同じ進み具合ということになりますけれど」

 驚いているマーサには悪いが、前世の日本では大学まで進んだ身だ。小学生レベルの問題ができない方がおかしい。

「本当です。お父様か私の家庭教師に聞いてもらえれば、確認は取れるかと思います」

 話題をそらして、算学の勉強を避けたかったのだろうが、そうはいかない。
 私は不敵に笑ってみせると、アレクシスがうんざりとした顔で腕を組む。
 だが次にアレクシスから飛んできたのは、予想外のセリフだった。

「……オレは少しずつアンタの性格がわかってきたぞ。アンタはどことなく、兄上に似ている」
「ええっ!?」

 あの腹黒王子と!? と、喉まで出かかった言葉を必死に押しとどめる。

「私と、クリスティアン王子が……ですか?」
「異様なほどの頭の回転の速さと、人の話をまるで聞かずに勝手に進めていってしまうところがそっくりだ。その上、自分がわかっているからといって、ろくに説明をしない」
「うぐっ」
「心辺りがあるようだな」

 心外だと言いたいところだが、アレクシスの言葉は何一つ否定できない。

「まあ、兄上よりは隙があるというか……。可愛げがあるところが唯一の救いか」
「わ、私、そこまでひどいですか……?」
「自覚がないなら、なおさらだ」

 私は助けを求めるようにマーサとベインズを見る。
 だがベインズはそっと視線をそらし、マーサは満面の笑みでアレクシスの言葉にうなずいていた。
 どうやら味方は誰もいないらしい。

「もういいです。アレクシス王子がそこまでおっしゃるなら、勉強対決の科目は算学に決定します」
「待て! なぜそうなる? 今、オレが不得意だという話をしていたばかりではないか」
「上に立つ者ほど必要だ、というお話もしました。それにクリスティアン王子に勝つ可能性が一番高いのは、算学だと思うのです」

 わけがわからないといった様子で、アレクシスが眉をひそめる。

「奇妙なことを言うな。勝負をするのなら、得意な科目で挑む方がよかろう」
「もちろんです。けれど今、すべての科目でクリスティアン王子の方が優勢ですよね?」
「それは……」

 アレクシスがひるんだ。その隙に私はたたみかける。

「読み書きも、演奏も、歴史も、これまでの積み重ねがものをいいます。短期間で逆転できるものではないのですよ。それに算学に関しては、私に秘策があるのです」
「秘策?」

 実はギルグッド公爵家で教育を受けているときに、ひらめいたことがあるのだ。
 この世界では日本の九九のような、計算の答えを暗記するという文化がない。そのため計算スピードが非常に遅いのだ。
 クリスティアンも同様の教育を受けているのなら、きっと勝機はそこにある。

「ご安心ください。クリスティアン王子に勝つために、私、全力を尽くすとお約束します」
「おい。まるで説明になっていないし、アンタの全力など嫌な予感しかしないぞ……」

 いまだ納得のいっていない様子のアレクシスを無視して、私は高らかに宣言する。

「では明日から特訓をいたしましょう。勉強合宿です!」
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