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第二章 カイ攻略
女子会・2
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入学式の態度を咎める? どういう意味だろう。
「えっと……レイチェルさんを呼んだのは、私が急用などでいないときに、代わりにステラさんと一緒に食事をしてくれれば嬉しいと思ったからなんですけど……」
「え?」
「……もしかして侍女からは、なんの説明もありませんでした?」
こくり、とレイチェルがうなずく。
私の背中に冷たい汗が流れた。
「ルシール様から昼食に同席するように言われているので、来て欲しいとだけ……。入学式でわたくし、ルシール様が上級貴族だと知らずに失礼な態度を取ってしまったので、てっきり叱責されるものとばかり……」
私は内心、天を仰ぐ。
しまった。侍女にはレイチェルを呼んで欲しいと頼んだが、たしかに事情を説明しろとは言っていない。
レイチェルからしたら、なんの説明もなしに上級貴族からいきなり食事に誘われれば、怒られるかもしれないと思って当然だ。ここに来るまで、相当気をもませてしまっただろう。
やらかしてしまった……。アレクシスに知られたら絶対怒られる案件だ、これ。
「ご、ごめんなさい。私の連絡不足です……。今日は単に女子同士でお茶会をしたかっただけなんです」
「そ、そうなんですね」
「もしかして、迷惑でしたか? でもごめんなさい。私、他に頼める人が思い浮かばなくて……。一応、アレクシス王子やクリスティアン王子に頼むことも考えたんですけど……」
「え!? いえいえ! 王子殿下の手をわずらわせるなんて、とんでもないです!」
レイチェルが高速で首を横に振る。
レイチェルの価値観は、典型的な下級貴族のものだ。王族に平民の相手をさせるなど、とんでもないと考えているのがわかる。逆に、貴族内の上下関係に詳しくないステラの方が堂々としているくらいだ。
引きつった笑顔を浮かべながら、レイチェルが承諾してくれた。
「わ、わたくしで良ければ、喜んでご一緒させていただきます。ステラさんもよろしくね」
「ありがとうございます、レイチェル様。平民にこんなに優しくしてくれる貴族様なんて、お二人が初めてです」
純粋無垢な笑顔を浮かべながら、ステラはレイチェルの参加を歓迎してくれる。
すれ違いはあったがひとまず問題は解決できたと、私は静かに安堵した。
***
そうして始まった奇妙な女子会は、初めこそギクシャクしたものだったが、時が経つにつれて少しずつ打ち解け始めていた。
特にレイチェルが、フルーツサンドに感動してくれてから、会話が弾みだしたと思う。やはり、甘い物の威力というのはなかなかバカにできない。
「あの、ルシール様。わたくし思ったのですけれど、フルーツサンドの中身だけでなく、このパンまで甘くありませんこと? わたくしが普段いただいているものより、甘くてとても柔らかいような……」
「ふふ、さすがレイチェルさんですね。実は、学院に出入りしているパン業者と取引して、最上級のパンを卸してもらっているのですよ。アレクシス王子もクリスティアン王子もお気に入りの一品です」
「まあ、王族までですか!」
この学院に入学してからすぐ、私は食堂に向かっていた。
残念ながら、この世界の食事事情は、日本出身の私としては到底満足できるものではなかったからだ。
特に主食であるパンが、固くてマズいのである。
西洋によくある黒パンと呼ばれるもので、少し酸味のある味自体には食べ続ければ慣れてくるが、ゴムみたいな固さだけはどうしても慣れなかった。
そこで私は、リンゴの皮から頑張って天然酵母を作り出したのだ。
初めの頃は腐らせたりして、父であるギルグッド侯爵に呆れられたりしたが、温度が鍵になるとわかってからは、一気にうまくいくようになった。酵母液から泡がぶくぶく出てきたときの感動は、今でも忘れられない。
また怪しいことをしているのではと疑うアレクシスには、酵母入りのパンを食べさせたら「美味しいではないか!」と、コロッと意見を翻した。
そして同じようにクリスティアンにも食べさせると、いつの間にか私の周囲は酵母入りパンでないと満足できない体になってしまったのだ。
学院に出入りするパン業者に酵母入りパンを作らせ始めたのは、たしかクリスティアンからだったはずだ。
このパンは画期的であるため、王族が許可を出すまで広めるのを禁じられているが、発案者である私が家族や友人に振る舞う分くらいは許可をもらっている。
しかしゆくゆくは、もっといろんなパンが食べたい。シュトーレンやチーズ入りパンなど、もっとバリエーションを増やすつもりなのは、まだ誰にも内緒である。
「えっと……レイチェルさんを呼んだのは、私が急用などでいないときに、代わりにステラさんと一緒に食事をしてくれれば嬉しいと思ったからなんですけど……」
「え?」
「……もしかして侍女からは、なんの説明もありませんでした?」
こくり、とレイチェルがうなずく。
私の背中に冷たい汗が流れた。
「ルシール様から昼食に同席するように言われているので、来て欲しいとだけ……。入学式でわたくし、ルシール様が上級貴族だと知らずに失礼な態度を取ってしまったので、てっきり叱責されるものとばかり……」
私は内心、天を仰ぐ。
しまった。侍女にはレイチェルを呼んで欲しいと頼んだが、たしかに事情を説明しろとは言っていない。
レイチェルからしたら、なんの説明もなしに上級貴族からいきなり食事に誘われれば、怒られるかもしれないと思って当然だ。ここに来るまで、相当気をもませてしまっただろう。
やらかしてしまった……。アレクシスに知られたら絶対怒られる案件だ、これ。
「ご、ごめんなさい。私の連絡不足です……。今日は単に女子同士でお茶会をしたかっただけなんです」
「そ、そうなんですね」
「もしかして、迷惑でしたか? でもごめんなさい。私、他に頼める人が思い浮かばなくて……。一応、アレクシス王子やクリスティアン王子に頼むことも考えたんですけど……」
「え!? いえいえ! 王子殿下の手をわずらわせるなんて、とんでもないです!」
レイチェルが高速で首を横に振る。
レイチェルの価値観は、典型的な下級貴族のものだ。王族に平民の相手をさせるなど、とんでもないと考えているのがわかる。逆に、貴族内の上下関係に詳しくないステラの方が堂々としているくらいだ。
引きつった笑顔を浮かべながら、レイチェルが承諾してくれた。
「わ、わたくしで良ければ、喜んでご一緒させていただきます。ステラさんもよろしくね」
「ありがとうございます、レイチェル様。平民にこんなに優しくしてくれる貴族様なんて、お二人が初めてです」
純粋無垢な笑顔を浮かべながら、ステラはレイチェルの参加を歓迎してくれる。
すれ違いはあったがひとまず問題は解決できたと、私は静かに安堵した。
***
そうして始まった奇妙な女子会は、初めこそギクシャクしたものだったが、時が経つにつれて少しずつ打ち解け始めていた。
特にレイチェルが、フルーツサンドに感動してくれてから、会話が弾みだしたと思う。やはり、甘い物の威力というのはなかなかバカにできない。
「あの、ルシール様。わたくし思ったのですけれど、フルーツサンドの中身だけでなく、このパンまで甘くありませんこと? わたくしが普段いただいているものより、甘くてとても柔らかいような……」
「ふふ、さすがレイチェルさんですね。実は、学院に出入りしているパン業者と取引して、最上級のパンを卸してもらっているのですよ。アレクシス王子もクリスティアン王子もお気に入りの一品です」
「まあ、王族までですか!」
この学院に入学してからすぐ、私は食堂に向かっていた。
残念ながら、この世界の食事事情は、日本出身の私としては到底満足できるものではなかったからだ。
特に主食であるパンが、固くてマズいのである。
西洋によくある黒パンと呼ばれるもので、少し酸味のある味自体には食べ続ければ慣れてくるが、ゴムみたいな固さだけはどうしても慣れなかった。
そこで私は、リンゴの皮から頑張って天然酵母を作り出したのだ。
初めの頃は腐らせたりして、父であるギルグッド侯爵に呆れられたりしたが、温度が鍵になるとわかってからは、一気にうまくいくようになった。酵母液から泡がぶくぶく出てきたときの感動は、今でも忘れられない。
また怪しいことをしているのではと疑うアレクシスには、酵母入りのパンを食べさせたら「美味しいではないか!」と、コロッと意見を翻した。
そして同じようにクリスティアンにも食べさせると、いつの間にか私の周囲は酵母入りパンでないと満足できない体になってしまったのだ。
学院に出入りするパン業者に酵母入りパンを作らせ始めたのは、たしかクリスティアンからだったはずだ。
このパンは画期的であるため、王族が許可を出すまで広めるのを禁じられているが、発案者である私が家族や友人に振る舞う分くらいは許可をもらっている。
しかしゆくゆくは、もっといろんなパンが食べたい。シュトーレンやチーズ入りパンなど、もっとバリエーションを増やすつもりなのは、まだ誰にも内緒である。
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