悪役推し令嬢はこじらせ男子を攻略したい

福北ヒトデ

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第二章 カイ攻略

唐突な願い出

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「……ここだけの話ですが、私のお友達がカイに恋をしているようなのです」

 私はレイチェルをダシにすることにした。
 決して噓を言っているわけではない。

「アンタの友達? あの平民の?」

 アレクシスが一瞬目を細める。
 アレクシスはやはり、聖女候補であるステラの様子が気になるらしい。

 私は首を横に振って、否定した。

「いえ、レイチェルさんという男爵家のご令嬢です。一緒に食事をしているお友達の一人ですよ」
「――ああ。あの女子会とかいうやつか。そういえば言っていたな」

 急に興味を失ったように、アレクシスが全身の力を抜いた。

「そのレイチェルさんが、カイの様子が気になって、食事もまともに手がつかない有様なんです。カイのためというよりは、レイチェルさんの不安を取り除くために調べてみたいんですよ」
「はあ、女の友情というわけか? よくわからんが……まあ、いいか」

 アレクシスはどうでもよさそうに肩をすくめて、カイを調べることに許可を出してくれた。
 それでも、私がまたなにかしでかさないか不安なようで、きっちり釘を刺すことは忘れない。

「ただあまりことを荒立てるなよ。下手に大事にでもしたら、恥をかくのはカイだからな。俺の側近を困らせないでやってくれ」
「はい、わかってます。調べてみるだけですよ」

 よかった。理由を聞かれて一瞬ひやりとしたが、これでおおっぴらにカイの件を調べられる。

 アレクシスは、後ろに控えていたヴィンセントに振り返って尋ねた。
 この室内にいるメンバーの中で、一番カイと親しいのはヴィンセントだ。

「ヴィンセントは、カイからなにか聞いているか?」
「申し訳ございません。本日カイと接触する機会がございませんでしたので、詳しくはなにも」
「そうか……」
「カイの様子を知りたいのでしたら、騎士見習いたちに聞いた方がいいかもしれませんね。ここ数日、カイと一番接しているのは彼らでしょうから」

 ふむ、と返事のような、ただの相槌のような声を上げて、アレクシスが腕を組む。
 わざわざ騎士たちに聞くようなことでもないのでは、と思案しているのかもしれない。

 そこへ、入口の扉が開かれ、誰かが入室してきた。
 噂をすればなんとやら、カイ本人がやってきたのだ。

 アレクシスはカイの姿を見かけると、わざわざ運動場や騎士寮に向かう必要もなくなったことにホッとし、カイに声をかける。

「ああ。ちょうどよかった、カイ。お前に聞きたいことが――」
「……アレクシス様」

 主人の言葉を遮る無礼を働くカイに、アレクシスは一瞬不快そうに眉根を寄せる。
 だが次の瞬間、アレクシスはカイの異変に気付いたようだ。

 アレクシスの服や髪は乱れたままだ。姿勢は老人のように折れ曲がり、終始うつむいている。
 目は泣きはらしたのか真っ赤に充血し、声に覇気がまったくない。
 快活で健康的な普段のカイとは、似ても似つかない。レイチェルがなにかおかしいと、必死に訴えるのもうなずける。

 カイはうつむいた視線をわずかに上げると、アレクシスに力なくこう言った。

「お願いです。……おれを側近から外してください」
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