顔面崩壊美少年 ~叶視点~

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叶視点

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生きるのに必要な基礎能力のパラメーター。
勉強とか、運動とか、芸術とか、コミュニケーション能力とか。
俺は生まれつき、その能力値のほとんどが低かった。
勉強も嫌いだったし、運動も大の苦手。
特殊な技能もなければ、好きな事や趣味もない。
何をやっても平均以下で、
努力するほどの情熱を持てる趣味や特技もない。
ダメな子供。落ちこぼれの子供。
だけど、そんな俺にもただひとつだけ、人に勝るものがあった。

――それは、『顔』だ。

俺は、生まれつき、人より顔が整っていた。
何をやっても上手くできない子供だったけど、
唯一顔だけは大人たちから誉められた。
母はいつも俺を『かわいい』と言ってくれるし、
母の友人たちからも『かわいい』『美少年』と言って持て囃された。
子供同士の間では、女みたいだとからかわれることも多かったけれど。
でも、それでも、『容姿』は俺にとって唯一の『褒められること』だったから……。

テストではいつも平均点以下で、
かけっこをしてもいつもビリで、
音楽もお絵かきも上手く出来ない俺の、
唯一、他人から認められるモノ。

それが、容姿、顔面、美貌……

だから俺は、自分の『美』に固執するようになった。
それしか他人に勝てるものがなかった。
それでしか、誉めて貰えなかった。
それでしか、評価して貰えなかった。
それでしか、認めて貰えなかった。
だから俺は、自分の美しさだけは、何があっても手放せない。
俺が美しい事は、俺の唯一の価値だった。
なにをやってもダメな俺に、神様が唯一与えてくれたもの。
それがなくなったら、今度こそ俺は終わりだ。
何も価値がなくなる。
だから、それだけは絶対失ってなるものか。

――だけど、美しさは永遠ではない。

俺は美少年でなくてはならないが、
美少年で居られる時間は限られている。
『美少年』は永遠ではない。
それこそ不老不死にでもなれたら別だが、
人間として現実を生きる俺に、そんな事は無理だった。

『美少年』はいつか失われる。
大人になれば、スラっとしていた身体もごつくなる。
大人になれば、つるつるだった肌に体毛が生える。
大人になれば、醜くなる。
大人になれば…………
大人になれば…………
大人になれば………………!!

人間である限り、老いからは逃げられない。
いや、そもそも何かの事故でいきなり顔が崩れるなんて事だって有り得るのだ。
とにかく、俺が永遠に美少年でいるなんて事は絶対に不可能だ。

醜くなれば、俺は価値がなくなる。
誰からも誉めて貰えなくなる。
それがひたすらに恐ろしかった。


――それから、当然俺の人間関係は上手くいかない。
自分の美に絶対的な自信を持っていた俺は、
どうにもならない老いへの焦りと恐怖のせいもあって、
他人に対して傲慢な態度しか取れなかった。


かなえくん、凄く綺麗だね」


クラスメイトにそう言われても、俺は


「当たり前じゃん?」


そんな風にしか答えられなかった。
当然、俺はクラスメイトから嫌われた。
傲慢で高飛車な態度しか取れなかったので、
みんなから嫌われるのは当然と言える。

そんな俺でも、一人だけ親友が居た。
草壁幹久くさかべみきひさという、幼馴染みだ。
幹久とは家が近所で、幼稚園に入る前から一緒に遊んでいた。

幹久は気が弱く、俺の傲慢な俺のワガママに付き合ってくれる唯一の人間だ。
自分の意見を言えない幹久は、俺にとって都合が良かった。
性格の悪い俺と友達で居てくれるのは、幹久だけだった。
だから俺は…… 彼が、好きだった。
好きだったけど…………

好きだった筈なのに、
俺はいつしか、自分の苛立ちを彼にぶつけるようになった。


老いの恐怖と、俺を嫌うクラスメイト達への不満、
素直になれない、愚かな自分自身への怒り、
美貌しか誉めてくれなかった大人たちへの余憤……。


――それら全てを、幹久へぶつけた。


幹久は気が弱く、怒らないので、苛立ちをぶつけるのに丁度良かった。
おまけに彼は、お世辞にも容姿が整っているとは言えなかったので、
それも俺にとっては都合が良かった。

幹久は勉強も運動も得意でなく、俺と同じように何も持ってない人間だった。
それに加えて、俺とは正反対に容姿も最低辺と来た。
見下すのに、丁度良いおともだちだった。
俺以上に『ダメ』で『何も持ってない』、落ちこぼれ。
正真正銘、価値のない人間。
俺は幹久をそんな風に見下していたんだ。
だからこそ、彼の事が『好き』でもあったのだと思う。
自分より能力のある人間の事は、どうしても好きにはなれないから。

我ながら最低だと思う。それは分かっている。
自分自身が一番の悪であり、愚かな事を分かっている。

だけどそれすら認めたくなかった俺は、誤魔化す様に幹久を虐げた。
嫌がる彼を無理矢理犯して、自分の怒りと欲望をぶつけた。

――俺は本当に、最低最悪だ。
そう思うのに、彼に当たるのをやめられない。

彼を無理矢理犯したあとは、いつも罪悪感だけが残った。
セックスの興奮と快楽が収まったあとに、ようやく我に返る。
そして『なんて事をしてしまったんだ』と後悔する。
後悔したって、遅いのに。
もう、戻れないのに。
彼を傷付けた事実は、消えないのに。

セックスの時、幹久はいつも痛がって泣いていた。
受け入れて貰えない事にむかついて、乱暴に彼を乱した。
自分の欲望の為だけに腰を動かして、彼には屈辱と苦痛だけを与えた。
幹久と俺の行為は、ただの俺の自慰だ。
相手の事なんか全くおかまいなしの、自分勝手な行為。

その行為が、俺の暴言が、ワガママが……
幹久の心を蝕み、壊していたなんて、その頃の俺は気付かなかった。




幹久に全てを打ち明けられた今だからこそ、気付いた。
今になって、ようやく目を逸らしていた事実を見る事ができた。
遅すぎる。全てが遅すぎる。
もう全て壊れてしまった後なのに。

俺の顔はもう戻らないし、
幹久との関係だって、修繕できない。
もう治せない。もう戻れない。

俺の行いが、幹久の全てを傷付けた。
幹久の事を大事に出来なかった愚かな俺……
あまりにも馬鹿で、吐き気がする。

今回の件、幹久は悪くない。
幹久が俺の事を怨み、復讐したいと思うのは当然だ。

俺は彼に『ブス』だとかの暴言を吐き、
嫌がってるのにいつも無理矢理犯して、
時には殴ったりも蹴ったりもして来た。

それがどれほど幹久を傷付けていたことか。
今になってやっとその事実と向きあうなんて遅すぎる。

幹久はもう壊れてしまったんだ。
俺が壊してしまった。
俺が傷付けた。
だから、俺が顔を失ったのは、俺への罰。
当然の報いだった。当然の結果なのだ。

美貌を失って、唯一の友達まで失った。
もう俺には何も残ってない。
正真正銘、何も持ってない。
この手の中は、ついに空っぽになってしまった。

俺さえ居なければ、幹久は普通に暮らせた。
普通にクラスメイトと話して、
普通に女の子と恋愛をして、
暴言を吐かれる事もなく、暴行されることもなく、
普通に平凡な幸せを手に入れる事ができたはずだ。

俺が居なければ、幹久は罪を犯すことだってなかった。
そんな事をさせてしまって、ごめんなさい。
今更謝っても、全てが遅すぎるのだけど。

俺は自分の不幸の沼に、無理矢理彼を引き摺り込んだのだ。
いや、そもそも俺は不幸などではなかった。
自ら不幸を背負い込んでいただけじゃないか。
それなのに自分を不幸だと、恵まれてないと思いこむなんて馬鹿か。

――ああ、俺は…………

産まれて来なければ、良かったな。
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