君が死んだ夏、銀色の猫。

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2 独占欲と制服

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それから俺は、夏生に親友として認識されるようになった。
休み時間のたびに隣のクラスから1組へと遊びに来て、勝手に何かをぺらぺら喋って、
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴れば2組へと帰っていく。
夏生は完璧な容姿を持っていたが、その性格から周りから疎まれ、友達が居なかった。
美形であったお陰か、直接的ないじめに遭うことはなかったみたいだけど。
それでも夏生を友人にしたいと思う人間は居らず、そのせいで俺にべったりとなついた。
星彩館学園は男子校だから、女子生徒に囲まれるということもなかった。
俺だけが、夏生を拒絶しなかった。
俺は、夏生の持つ浮世離れした雰囲気に魅かれていた。
夏生なら、俺を非日常の世界へ連れ出してくれそうだと思った。
窮屈な暮らしにうんざりしていたから、夏生にどこかここじゃない場所へ連れて行って欲しい。
どうか俺を、特別な世界へ誘ってくれ。
当時の俺は本気でそんな風に思っていたけれど、夏生には俺をどこかへ連れ出す力なんてない。
だって夏生は、無力な子供だったのだから。
俺も子供だったから、そのことに、気づけなかった。


一緒に過ごすうちに、夏生は俺に対して強い執着を見せるようになっていった。
あの美少年は、異常に独占欲が強かったのだ。


「アイツ誰だよ。なに話してたの。八重、今日から僕以外と喋るの禁止ね」


俺がクラスメイトと話をしていると、夏生にそう言われた。


「僕以外の友達なんか要らないでしょ。僕だけ居れば充分でしょ?」


夏生にそう言われて、従ったけれど……。
だけど、だんだんとその執着が疎ましくなる。

――当たり前だ。

交流関係を他人に制御されるなんて、誰だって嫌になるさ。
それでも俺はそれに従って、夏生以外の人間を遠ざけた。
わざと不愛想に振舞って、自分から孤立した。
そうやって、宝井夏生は俺こと佐竹八重の、唯一の友人になった。
だけどさ、やっぱり無理だよな。
人間一人を、自分だけのものにしようだなんて……。
そんなのどうやっても、出来っこないのに。


夏生は、制服が好きだった。
日曜日に一緒に遊ぶ時も、必ずと言っていいほど制服を着てきた。
もちろんあの古風な学生帽もいつも被っていた。
だから俺の脳内に浮かぶ夏生の姿はいつだって学ランを着ていて、アイツの私服姿は思い出せない。
何故休みの日まで制服なのかと聞くと、彼は、


「なんでって、似合うでしょ?
 僕は学ランってとても美しいと思うんだ。
 僕の美しさを引き立ててくれる一番の服がこれなんだよ。
 それに、学ランって子供しか着ないでしょ?
 まだ僕が大人ではなく、学生であるという証明になるから、
 だから僕は学生服ってものが好きなんだ。
 この帽子もイケてると思わない? 僕、学校が好きなんだよ」

当時の俺は、そんな風に言われて妙に納得してしまった。
確かに夏生には、星彩館の学帽と学ランがよく似合っていたから。
それに、今の時代で学帽を制服としてる学校なんて、ほとんどない。
だからこの学生帽を被っていれば、名門私立の星彩館の生徒だとすぐに分かって貰える。
この当たりの地域では、星彩館学園はそれはもう有名な学校だった。
その学校に通っているというだけで、一目おかれるような、そんな男子校。
俺は父親に名門私立に通うことを押し付けられているだけだったから、
星彩館の生徒だと一目で分かるこの帽子も、堅苦しい学ランも、大嫌いだったけど。

――だけど、この制服を着た夏生は好きだった。
黒一色の学ランに、銀色の髪や赤い目が映えて、とても綺麗だったから。
今まで生きてきた中で、夏生ほどの美少年は、見たことがなかった。
きっと、これからも、夏生以上に美しい男になんか、出会わないだろう。
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