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葛城信彦は大人しいヤツだった。
同じクラスだけど、話したことはほとんどない。
虐められているというわけではなさそうだけど、
あまり友達も居ないみたいで、いつも一人で居る。
一人で、つまらなそうに、暗い顔をしていることが多いような男だった。
悪い言い方をしてしまえば、根暗、という言葉が似合う。
男にしては髪が長く、特に前髪は顔がほとんど隠れるくらい長かった。
それが、更に、彼の暗さに拍車をかけている。
それから、どうやら身体が弱いようで、体育の授業は見学が多い。
昨日あんなことがあって、学校へ来るだろうかと心配していたが、
葛城はちゃんと学校へ来ていた。
俺が朝練を終えて教室に入った時には既に、彼は自分の席に座っていた。
――良かった。安心した。
俺が『アレ』を見ちゃったせいで不登校にでもなったら申し訳ないもんな。
「――ッ」
葛城と、目が合ってしまった。
気になって、じろじろ見すぎていたかもしれない。
慌てて目を逸らす。葛城は椅子を引き、席を立った。
席を立ち、何処かへ逃げて行くのかと思ったが、葛城は俺のほうへ来た。
俺の席まで歩いて来て、俺の机をトントンと細い指で叩く。
「な、なに?」
「あ、あの、朝倉文世くん、だよね? ちょっと話せない? だめ?」
「い、いや俺は……
ホームルーム始まるし、今はちょっと……」
今までこれと言って話したことなんかなかったのに、
いきなり『話がしたい』なんて、話題は昨日のことで間違いない。
正直気まずいし、俺からは何も話すことなんてない。
例え、コイツが背番号10番のサッカーユニフォーム……
この学校で一番イケメンだと話題の佐々木先輩のユニフォームでオナニーをしていたとしても、
俺はそれを言いふらしたりしない。
「ちょっとでいいから。お願いだよ」
「わ、分かったよ……」
無視するのもかわいそうなので、話だけは聞いてやることにした。
言い訳があるなら聞いてやるから、好きなだけどうぞ。
元から言いふらす気なんてないし、何か言いたいなら聞いてやる。
葛城と一緒に教室を出て、男子トイレに入った。
「あの、朝倉くん、昨日のこと覚えてる?」
「お前が佐々木先輩のユニでオナニーしてたことなら忘れたよ」
「なっ……!?」
葛城の顔が、一瞬で耳まで真っ赤になる。
ついからかっちゃったけど、可哀そうだったかもしれない。
「お、お願いだから誰にも言わないで……!
僕、佐々木先輩のことが、す、す、好き、なんだけど……
昔から僕はなんかちょっとストーカー気質なんだ。
好きな人のあとを付けたり持ち物を盗んだりしちゃうんだ。
あと勝手に写真撮ったりとか……
ダ、ダメだよね、ごめんなさい。あんなことして、僕って変態だよ。
でもほんとに誰にも言わないで……」
「い、言わないから落ち着けよ。からかってごめんってば」
「ほんと? ほんとに内緒にしておいてくれる?」
「う、うん。俺そんな意地悪じゃねーから安心しろ」
「弱味握ったと思ってない? お金を要求したりしない?」
「しねーよ! 俺、そんなヤツに見えるか?」
「ううん、見えない。寧ろ、その、けっこうカッコイイよ。
君はハンサムだよね。運動神経も良いみたいだし」
「ハンサムて……」
「佐々木先輩と同じサッカー部でしょ?
先輩、格好いいよね。優しいし」
「………………うん。そうだな。
えっと、お前は、その、同性愛者……なの?」
「…………う、うん。
君のこと信用してるから、特別に言うけど……
昔から男の子しか好きになれないんだ。
これも絶対、内緒にしててよ? 誰にも言わないでね?」
「あ、ああ……
でも、同性愛うんぬんじゃなくてさ、
学校でオナニーするのとか持ち物盗んだりするのはどうかと思うぞ……」
「!? そ、そうだよね、ごめん、やめるよ。
男の子同士だから、堂々とアピールとか告白とかできなくて……
だからどうしてもコソコソしちゃうんだ。
……気持ち悪いよね、ごめんなさい」
「…………気持ちは分かるよ」
そう、気持ちはよく分かるんだ。
だって俺も、同じだから。
コイツにだったら、打ち明けてもいいのかな。
打ち明けたら、コイツも少しは安心したり気が晴れたりするだろうか。
「あ、あの、俺もさ……
…………さ、佐々木先輩のことが好きなんだ」
「えっ」
「そ、その、先輩、カッコイイ、よな」
俺が性的な興味を抱くのは、昔から男性だった。
しっかり恋というものをしたのは佐々木先輩が初めてだけど。
男の人の身体が好きだったし、
同性と付き合ってみたいとか、エッチをしてみたいとか思う。
同年代の友人たちが異性に抱くような感情と欲望を、俺は同性にしか抱けない。
でも、それを他の人に言ったら、笑われてしまうかもしれない。
変に気を使われるのも嫌だし、誰にも知られたくなかった。
だから、ずっと隠していた。俺の秘密だった。
「そう、なんだ。僕と同じような人、はじめて会った」
「うん、俺も。だからお前になら言ってもいいかなって思ったんだ」
「そ、そっか……ね、ねえ、あの、さ…………」
葛城が、少しそわそわした感じで何か言おうとしている。
口を開いたり閉じたりして、何か言おうか言うまいか悩んでいるみたいだった。
「なんだよ?」
「あの、え、エッチってしたことある?」
「は!? ないよ!」
「君ってゲイ? バイ?」
「女の人を恋愛対象として見たことない」
「…………エッチなこと、してみたくならない?
いつも一人でしてるの?」
「そりゃ、まあ…… オナニーくらいするけど……」
何を言い出すかと思えば、こんな話だなんて……。
同じクラスの男子たちも毎日下ネタで笑ってるし、
俺たちくらいの年ごろってそういう時期なんだろうか。
勿論、俺だってオナニーくらいするしそういうことに興味はあるけど。
「あの、ぼ、僕と、エッチしてくれない!?」
「ええぇ!?」
「僕、男の子とエッチなことしてみたいんだ。
気になるんだ。他の男の子の身体とか、どういう風に自慰してるのかなとか……
なんか、そういうことが、気になって仕方ないんだよ。
でも『普通』の男の子って、当たり前に女の子が好きでしょ?
だから…… 僕、その、君と…………」
「…………」
――普通、か。
「別に恋人になって欲しいってわけじゃないんだ。
一緒に、その、自慰とか出来たらなって……」
「お前、とんでもないこと言ってるけど……」
「……やっぱダメ、かな?」
「……………………いいよ」
「ほ、ほんと!?」
「……うん」
自分の中に、底のない性欲が溜まっているのを感じる。
友人たちの中には、もう彼女が居るヤツも居る。
俺は同性が好きだから、そんな風に彼女を作ることができない。
学生でなくなれば同性愛者の出会いの場も増えるのだろうけど、
学生の身ではそんな出会いは望めない。
ましてや、佐々木先輩と……
好きな人とお付き合いが出来るなんてことは、まず有り得ない。
悔しいけど、それが現実だった。
LGBTがメディアなんかに取り上げられ、概念が広まり、
昔と比べたら差別や偏見は減ったのだと思う。
だけどそれと、好きな人と両想いになれるかという部分は別だ。
「ね、ねえ、一時間目サボっちゃおうよ。
それでさ、ここ、トイレだし……」
「う、うん……」
同じクラスだけど、話したことはほとんどない。
虐められているというわけではなさそうだけど、
あまり友達も居ないみたいで、いつも一人で居る。
一人で、つまらなそうに、暗い顔をしていることが多いような男だった。
悪い言い方をしてしまえば、根暗、という言葉が似合う。
男にしては髪が長く、特に前髪は顔がほとんど隠れるくらい長かった。
それが、更に、彼の暗さに拍車をかけている。
それから、どうやら身体が弱いようで、体育の授業は見学が多い。
昨日あんなことがあって、学校へ来るだろうかと心配していたが、
葛城はちゃんと学校へ来ていた。
俺が朝練を終えて教室に入った時には既に、彼は自分の席に座っていた。
――良かった。安心した。
俺が『アレ』を見ちゃったせいで不登校にでもなったら申し訳ないもんな。
「――ッ」
葛城と、目が合ってしまった。
気になって、じろじろ見すぎていたかもしれない。
慌てて目を逸らす。葛城は椅子を引き、席を立った。
席を立ち、何処かへ逃げて行くのかと思ったが、葛城は俺のほうへ来た。
俺の席まで歩いて来て、俺の机をトントンと細い指で叩く。
「な、なに?」
「あ、あの、朝倉文世くん、だよね? ちょっと話せない? だめ?」
「い、いや俺は……
ホームルーム始まるし、今はちょっと……」
今までこれと言って話したことなんかなかったのに、
いきなり『話がしたい』なんて、話題は昨日のことで間違いない。
正直気まずいし、俺からは何も話すことなんてない。
例え、コイツが背番号10番のサッカーユニフォーム……
この学校で一番イケメンだと話題の佐々木先輩のユニフォームでオナニーをしていたとしても、
俺はそれを言いふらしたりしない。
「ちょっとでいいから。お願いだよ」
「わ、分かったよ……」
無視するのもかわいそうなので、話だけは聞いてやることにした。
言い訳があるなら聞いてやるから、好きなだけどうぞ。
元から言いふらす気なんてないし、何か言いたいなら聞いてやる。
葛城と一緒に教室を出て、男子トイレに入った。
「あの、朝倉くん、昨日のこと覚えてる?」
「お前が佐々木先輩のユニでオナニーしてたことなら忘れたよ」
「なっ……!?」
葛城の顔が、一瞬で耳まで真っ赤になる。
ついからかっちゃったけど、可哀そうだったかもしれない。
「お、お願いだから誰にも言わないで……!
僕、佐々木先輩のことが、す、す、好き、なんだけど……
昔から僕はなんかちょっとストーカー気質なんだ。
好きな人のあとを付けたり持ち物を盗んだりしちゃうんだ。
あと勝手に写真撮ったりとか……
ダ、ダメだよね、ごめんなさい。あんなことして、僕って変態だよ。
でもほんとに誰にも言わないで……」
「い、言わないから落ち着けよ。からかってごめんってば」
「ほんと? ほんとに内緒にしておいてくれる?」
「う、うん。俺そんな意地悪じゃねーから安心しろ」
「弱味握ったと思ってない? お金を要求したりしない?」
「しねーよ! 俺、そんなヤツに見えるか?」
「ううん、見えない。寧ろ、その、けっこうカッコイイよ。
君はハンサムだよね。運動神経も良いみたいだし」
「ハンサムて……」
「佐々木先輩と同じサッカー部でしょ?
先輩、格好いいよね。優しいし」
「………………うん。そうだな。
えっと、お前は、その、同性愛者……なの?」
「…………う、うん。
君のこと信用してるから、特別に言うけど……
昔から男の子しか好きになれないんだ。
これも絶対、内緒にしててよ? 誰にも言わないでね?」
「あ、ああ……
でも、同性愛うんぬんじゃなくてさ、
学校でオナニーするのとか持ち物盗んだりするのはどうかと思うぞ……」
「!? そ、そうだよね、ごめん、やめるよ。
男の子同士だから、堂々とアピールとか告白とかできなくて……
だからどうしてもコソコソしちゃうんだ。
……気持ち悪いよね、ごめんなさい」
「…………気持ちは分かるよ」
そう、気持ちはよく分かるんだ。
だって俺も、同じだから。
コイツにだったら、打ち明けてもいいのかな。
打ち明けたら、コイツも少しは安心したり気が晴れたりするだろうか。
「あ、あの、俺もさ……
…………さ、佐々木先輩のことが好きなんだ」
「えっ」
「そ、その、先輩、カッコイイ、よな」
俺が性的な興味を抱くのは、昔から男性だった。
しっかり恋というものをしたのは佐々木先輩が初めてだけど。
男の人の身体が好きだったし、
同性と付き合ってみたいとか、エッチをしてみたいとか思う。
同年代の友人たちが異性に抱くような感情と欲望を、俺は同性にしか抱けない。
でも、それを他の人に言ったら、笑われてしまうかもしれない。
変に気を使われるのも嫌だし、誰にも知られたくなかった。
だから、ずっと隠していた。俺の秘密だった。
「そう、なんだ。僕と同じような人、はじめて会った」
「うん、俺も。だからお前になら言ってもいいかなって思ったんだ」
「そ、そっか……ね、ねえ、あの、さ…………」
葛城が、少しそわそわした感じで何か言おうとしている。
口を開いたり閉じたりして、何か言おうか言うまいか悩んでいるみたいだった。
「なんだよ?」
「あの、え、エッチってしたことある?」
「は!? ないよ!」
「君ってゲイ? バイ?」
「女の人を恋愛対象として見たことない」
「…………エッチなこと、してみたくならない?
いつも一人でしてるの?」
「そりゃ、まあ…… オナニーくらいするけど……」
何を言い出すかと思えば、こんな話だなんて……。
同じクラスの男子たちも毎日下ネタで笑ってるし、
俺たちくらいの年ごろってそういう時期なんだろうか。
勿論、俺だってオナニーくらいするしそういうことに興味はあるけど。
「あの、ぼ、僕と、エッチしてくれない!?」
「ええぇ!?」
「僕、男の子とエッチなことしてみたいんだ。
気になるんだ。他の男の子の身体とか、どういう風に自慰してるのかなとか……
なんか、そういうことが、気になって仕方ないんだよ。
でも『普通』の男の子って、当たり前に女の子が好きでしょ?
だから…… 僕、その、君と…………」
「…………」
――普通、か。
「別に恋人になって欲しいってわけじゃないんだ。
一緒に、その、自慰とか出来たらなって……」
「お前、とんでもないこと言ってるけど……」
「……やっぱダメ、かな?」
「……………………いいよ」
「ほ、ほんと!?」
「……うん」
自分の中に、底のない性欲が溜まっているのを感じる。
友人たちの中には、もう彼女が居るヤツも居る。
俺は同性が好きだから、そんな風に彼女を作ることができない。
学生でなくなれば同性愛者の出会いの場も増えるのだろうけど、
学生の身ではそんな出会いは望めない。
ましてや、佐々木先輩と……
好きな人とお付き合いが出来るなんてことは、まず有り得ない。
悔しいけど、それが現実だった。
LGBTがメディアなんかに取り上げられ、概念が広まり、
昔と比べたら差別や偏見は減ったのだと思う。
だけどそれと、好きな人と両想いになれるかという部分は別だ。
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