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29.理解できない(レイモン)
次の日、玄関ホールで騒いでいる声が聞こえた。
「お待ちください!旦那様に叱られます!」
「嫌よ。早く馬車を出しなさい!」
「ですが!」
「行くって言ってるでしょう!」
行ってみると言い合っていたのはシュゼットと家令だった。
高齢の家令が汗をかきながら必死でシュゼットを止めている。
シュゼットが制服姿なのは、学園に行こうとしているのか?
昨日、謹慎するように父上に言われたはずだが。
「シュゼット、何をしているんだ」
「あ、お義兄様。聞いて!何度言っても馬車を出してくれないの!
お義兄様からも馬車を出すように言ってくれる!?」
「馬車を出してどこにいくつもりだ」
「どこって、学園に決まっているじゃない。
もう、遅れてしまうわ!」
「謹慎していろと父上から言われていないのか?」
「謹慎?ああ、部屋にいなさいって?
昨日はちゃんと部屋にいたわよ」
そういうことか……。
「謹慎というのは、その日だけのことではない。
一度言われたら謹慎が解けるまで部屋にいなければいけないんだ。
学園になんて行けるわけないだろう」
「ええ?嫌よ!せっかくサミュエルとお姉様を会わせられたのに。
仲良くなってもらって、ジェラルド様を解放してもらうのよ!」
「まて、お姉様とはなんだ」
嫌な予感がして聞いたら、シュゼットは何も考えていないような顔で答える。
「だから、お姉様よ?ジュリアンヌ様はお姉様なんでしょう?」
「ふざけるな。ジュリアンヌはお前の姉ではない」
「でも、お義兄様の妹で、私とも半分血がつながって……」
「二度と、それを口に出すな。汚らわしい」
「汚らわしい……?」
まさかジュリアンヌを姉と呼ぶとは。
もしや、本人に向かってそう呼びかけたのか?
……だから、レドアル公爵家は王家に申し立てしたのか。
ジュリアンヌをお姉様と呼ばれ、ジェラルドが激怒したに違いない。
これはレドアル公爵家は本気でイフリア公爵をつぶしに来たな。
「いいから、お前はずっと部屋にいろ。外に出ることは許さない」
「え?いつまで?」
「しばらくだ。一か月かかるかもしれない」
「一か月も部屋にいたらおかしくなってしまうわ!
それにジェラルド様に会えなくなるじゃない!」
「どちらにしても、もう二度と会えないと思え」
「は?どういうこと?」
「もういい、こいつを部屋に戻せ。
無理やりでかまわない。許可は俺が出す」
「え?ちょっと離して!!お義兄様!ねぇ、どういうこと!?」
使用人たちの手でシュゼットは部屋に戻されていく。
疲れ切った家令に声をかける。
「部屋の前に見張りをつけておけ。愛人が何を言っても開けなくていい」
「よろしいのですか?」
「責任は俺が取る。父上が何か言ってきたとしたら、
俺に連絡を寄越してくれ」
「……わかりました」
処罰結果が出るまでは一か月以上かかるかもしれない。
なぜなら、ことによっては伝統派が消えるからだ。
俺にとっても好都合だが、一か月で間に合うか……。
すぐに動かなくてはならないな。
三週間後、また執務室に呼ばれると、無言の父に書状を差し出された。
こんなに早くに審議が終わって処罰が決まったのかと思えば、
二つある選択肢から一つを選べと書いてあった。
イフリア公爵が愛人との婚姻を無効だと認めるのであれば、
公爵として残ることを許す。
その場合、愛人と娘とは縁を切ってアジェ伯爵家に戻すこと。
もう一つは、公爵位を息子レイモンに渡すこと。
その場合、現公爵は愛人と娘と共にアジェ伯爵家に戻ること。
……この二つの選択肢を決めたのは王太子のアドルフ様だろうな。
さすが、意地が悪い。あとで礼を言っておこう。
さて、父上はどちらを選ぶのか。
「それで、決めたのですか?」
「……決められるわけがない」
「そうですか。とりあえず愛人には話しておいた方がいいのでは?
愛人と娘はどちらにしても伯爵家に戻ることになるのですから」
「……そうだな」
眉間に深く刻まれたしわ。目の下にははっきりとしたクマ。
この三週間、覚悟はしていただろうに、それでも決められないのか。
公爵家の一人息子だったから仕方ないのだろうが、
この人は公爵には向いていなかった。
だから、伝統派は形だけのものになってしまっている。
少しして、呼ばれたマゼンタが執務室に入ってきた。
父上だけでなく、俺もいることに驚いたようだった。
「ヴィクトル、どうしたの?」
「……三週間前、シュゼットが失言をしたことは話したな?」
「ええ、謹慎していたようだけど、そろそろいいんじゃない?
シュゼットも反省したようだし、学園に行きたがっているわ」
全然反省どころか、何が悪かったのかわかっていないシュゼットは、
毎日学園に行こうとして使用人たちに止められていた。
俺が許可を出しているから、部屋から出さないようにしてある。
そうでなければ、家令が心労で倒れるところだった。
「謹慎は解けるが……」
「まぁ、よかったわ。
ねぇ、シュゼットは本当にジェラルドを気に入ったみたい。
昔はいろいろとあったけど、婚約させてあげることはできないの?」
「っ!!」
レドアル公爵家に婚約を申し出ろと言うマゼンタに開いた口が塞がらない。
イフリア公爵家と仲が悪くなった原因である本人がそれを言うか。
「あんたさぁ、馬鹿なのか?」
「なんですって!?」
「お待ちください!旦那様に叱られます!」
「嫌よ。早く馬車を出しなさい!」
「ですが!」
「行くって言ってるでしょう!」
行ってみると言い合っていたのはシュゼットと家令だった。
高齢の家令が汗をかきながら必死でシュゼットを止めている。
シュゼットが制服姿なのは、学園に行こうとしているのか?
昨日、謹慎するように父上に言われたはずだが。
「シュゼット、何をしているんだ」
「あ、お義兄様。聞いて!何度言っても馬車を出してくれないの!
お義兄様からも馬車を出すように言ってくれる!?」
「馬車を出してどこにいくつもりだ」
「どこって、学園に決まっているじゃない。
もう、遅れてしまうわ!」
「謹慎していろと父上から言われていないのか?」
「謹慎?ああ、部屋にいなさいって?
昨日はちゃんと部屋にいたわよ」
そういうことか……。
「謹慎というのは、その日だけのことではない。
一度言われたら謹慎が解けるまで部屋にいなければいけないんだ。
学園になんて行けるわけないだろう」
「ええ?嫌よ!せっかくサミュエルとお姉様を会わせられたのに。
仲良くなってもらって、ジェラルド様を解放してもらうのよ!」
「まて、お姉様とはなんだ」
嫌な予感がして聞いたら、シュゼットは何も考えていないような顔で答える。
「だから、お姉様よ?ジュリアンヌ様はお姉様なんでしょう?」
「ふざけるな。ジュリアンヌはお前の姉ではない」
「でも、お義兄様の妹で、私とも半分血がつながって……」
「二度と、それを口に出すな。汚らわしい」
「汚らわしい……?」
まさかジュリアンヌを姉と呼ぶとは。
もしや、本人に向かってそう呼びかけたのか?
……だから、レドアル公爵家は王家に申し立てしたのか。
ジュリアンヌをお姉様と呼ばれ、ジェラルドが激怒したに違いない。
これはレドアル公爵家は本気でイフリア公爵をつぶしに来たな。
「いいから、お前はずっと部屋にいろ。外に出ることは許さない」
「え?いつまで?」
「しばらくだ。一か月かかるかもしれない」
「一か月も部屋にいたらおかしくなってしまうわ!
それにジェラルド様に会えなくなるじゃない!」
「どちらにしても、もう二度と会えないと思え」
「は?どういうこと?」
「もういい、こいつを部屋に戻せ。
無理やりでかまわない。許可は俺が出す」
「え?ちょっと離して!!お義兄様!ねぇ、どういうこと!?」
使用人たちの手でシュゼットは部屋に戻されていく。
疲れ切った家令に声をかける。
「部屋の前に見張りをつけておけ。愛人が何を言っても開けなくていい」
「よろしいのですか?」
「責任は俺が取る。父上が何か言ってきたとしたら、
俺に連絡を寄越してくれ」
「……わかりました」
処罰結果が出るまでは一か月以上かかるかもしれない。
なぜなら、ことによっては伝統派が消えるからだ。
俺にとっても好都合だが、一か月で間に合うか……。
すぐに動かなくてはならないな。
三週間後、また執務室に呼ばれると、無言の父に書状を差し出された。
こんなに早くに審議が終わって処罰が決まったのかと思えば、
二つある選択肢から一つを選べと書いてあった。
イフリア公爵が愛人との婚姻を無効だと認めるのであれば、
公爵として残ることを許す。
その場合、愛人と娘とは縁を切ってアジェ伯爵家に戻すこと。
もう一つは、公爵位を息子レイモンに渡すこと。
その場合、現公爵は愛人と娘と共にアジェ伯爵家に戻ること。
……この二つの選択肢を決めたのは王太子のアドルフ様だろうな。
さすが、意地が悪い。あとで礼を言っておこう。
さて、父上はどちらを選ぶのか。
「それで、決めたのですか?」
「……決められるわけがない」
「そうですか。とりあえず愛人には話しておいた方がいいのでは?
愛人と娘はどちらにしても伯爵家に戻ることになるのですから」
「……そうだな」
眉間に深く刻まれたしわ。目の下にははっきりとしたクマ。
この三週間、覚悟はしていただろうに、それでも決められないのか。
公爵家の一人息子だったから仕方ないのだろうが、
この人は公爵には向いていなかった。
だから、伝統派は形だけのものになってしまっている。
少しして、呼ばれたマゼンタが執務室に入ってきた。
父上だけでなく、俺もいることに驚いたようだった。
「ヴィクトル、どうしたの?」
「……三週間前、シュゼットが失言をしたことは話したな?」
「ええ、謹慎していたようだけど、そろそろいいんじゃない?
シュゼットも反省したようだし、学園に行きたがっているわ」
全然反省どころか、何が悪かったのかわかっていないシュゼットは、
毎日学園に行こうとして使用人たちに止められていた。
俺が許可を出しているから、部屋から出さないようにしてある。
そうでなければ、家令が心労で倒れるところだった。
「謹慎は解けるが……」
「まぁ、よかったわ。
ねぇ、シュゼットは本当にジェラルドを気に入ったみたい。
昔はいろいろとあったけど、婚約させてあげることはできないの?」
「っ!!」
レドアル公爵家に婚約を申し出ろと言うマゼンタに開いた口が塞がらない。
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