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5.夜明け前のできごと
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急に現れた王弟アルフレッド様に出ようと言われても、
すぐに行動する気にはならない。
夢で見た騎士なのは間違いない。
無造作に後ろで結ばれた黒髪。そして、こちらを見る闇のような瞳。
顔立ちは整っているようだが、表情からは感情が見えない。
お兄様よりも年上だと思うけれど、まだ十代にも見える。
私とは身長差がありすぎて、見上げると首がつらい。
ベルコヴァ王国は同盟国だけど、この人を信じていいのだろうか。
王弟だと言われても、本当にこの人が王弟なのか確かめようがない。
従っていいものなのか迷っていたら、
アルフレッド様はその意味を勘違いしたようだ。
「ああ、そうか。その姿で出ることはできないか。
そこの侍女、ルーチェ姫を着替えさせてくれ。
俺は部屋の外に出ていよう」
「え……」
言われてみれば夜着姿のままだった。
半年、同じものを着続けているせいでくたびれた夜着。
こんな姿をアルフレッド様に見られたのが恥ずかしくて仕方ない。
「ルーチェ様、こちらへ」
慌ててリマが私を隠すようにして衝立の裏へと逃がしてくれる。
日中に着ているワンピースに着替えたけれど、
これもくたびれてしまっていて、とても王女の服とは思えない。
……いえ、もう私は王女ではなかった。
囚われてからは平民と同じ立場なはず。
どのような服でも恥ずかしいと思う必要はなかった。
「そろそろ準備ができただろうか」
「ええ」
着替えたリマと手をつないだままアルフレッド様に近づく。
ふと見れば、アルフレッド様の周りで精霊が遊んでいる。
アルフレッド様はそれには気づいていないけれど、
どうやら悪い人ではないようだ。
「では、行こう。外宮に捕らえた者を集めてある。
ルーチェ姫に、確認をお願いしたい」
「確認?」
捕らえた者というのは、まさか。
「捕らえた者が本当にその者なのか、
俺ではわからないから」
「……わかりました」
半年ぶりに塔の階段を下りる。
塔の周りにはたくさんの騎士たちが集まっていた。
すべてベルコヴァの騎士で、アルフレッド様を待っていたようだ。
「殿下、準備はできております」
「ああ、わかった。ルーチェ姫、こちらだ」
「はい」
アルフレッド様の後をついていくと、外宮の大広間に向かっている。
夜会以外で使われることはないが、場所だけは知っていた。
開かれたままの扉から大広間に入ると、
そこにはたくさんの人が騎士によって捕らえられていた。
座ったまま手を後ろにして縄で結ばれている。
あちこちで嘆いている声が聞こえる。
その集団の中でもきらびやかな服装の一団が目に入る。
そこには叔父様が捕まえられていた。
今の状況が認められないのか、騎士に悪態をついている。
その隣には騎士団長、そして叔父様についた貴族たち。
少し離れた場所に叔母様、そしてアナベルとコレット。
他にも貴族の家族が捕らえられているようだ。
「ルーチェ姫には申し訳ないが、身元確認をお願いする。
シブリアンはどの男だろうか」
その名前が聞こえたのか、叔父様がびくりとしたのが見えた。
こちらを振り向いた不安そうな顔が私を見つけ、驚いた顔になる。
軽く顔を左右に振ったのは、言うなということだろうか。
……言わない理由はないけれど。
「あそこにいます。あそこの金色の髪に琥珀目の男がそうです」
「っ!!」
「あの男か。騎士団長はどの男だ」
「騎士団長は……」
聞かれるがままに答えていく。
ここに捕らえられたのは、叔父様に着いた者たちだけのようだ。
どうして隣国の者たちが叔父様たちを捕らえたのだろうか。
「ルーチェ姫、これよりベルコヴァ王国がアントシュ国王の代理としてこの国を治める」
「え?」
「アントシュ国王はベルコヴァ国王と協定を結んでいた。
お互いの国を守るための協定だ。
今、アントシュ国王がどこに連れて行かれたのか捜索している。
王太子に関しても同じだ。
二人が戻ってくるまで、ベルコヴァの者が一時的に国を預かる」
「……お父様とお兄様が戻って来るまで。
本当に戻って来るのですか?」
「確実だとは言えないが、全力で探している。
俺は見つかると思っているよ」
「……わかりました。
この国を、お父様たちをよろしくお願いします」
「ああ、わかった」
まさか、お父様がベルコヴァ国王とそんな協定を結んでいたなんて。
でも、これでアントシュ王国は助かる。
このまま叔父様が国王でいたらどうなっていたことか……
「ルーチェ!俺はそんなことは認めないぞ!
この国は俺が国王になったんだ!
この無礼な者たちをベルコヴァへ帰せ!」
「そうよ!何を勝手に認めているのよ!
ルーチェなんてもう王女でもなんでもないのよ!」
「この縄を解きなさい!こんなこと許されるわけないわ!」
叔父様たちが私へ向かって叫んでいる。
だが、捕縛されている状況では何も怖くない。
騒いでいる声を無視してアルフレッド様に問いかける。
「アルフレッド様、叔父様たちはどうなるんですか?」
「そうだな。王位簒奪に関わった者は処刑になるだろう」
「処刑だと!!」
処刑されると予想していなかったのか、
叔父様は青くなって後ろへ倒れた。
「それは家族もですか?」
直接、王位の簒奪に関わった叔父様が処刑になるのはわかる。
では、叔母様たち家族はどうなるのだろうか。
「ベルコヴァ王国の法なら家族も処刑になるが。
ルーチェ姫はどうしたい?」
「私ですか?」
アントシュ王国ではどうのような法だっただろうか。
思い出そうとして黙り込んだ私に、
叔母様が聞いたこともないような優しい声で呼びかけて来る。
「る、ルーチェはそんなひどいことはしないわよね?」
「そ、そうよ。私たち姉妹みたいに仲が良かったでしょう?」
「そうよ。ルーチェとは従姉妹じゃない。ひどいことしないでくれるわよね?」
この半年間一度も会いにこなかった叔母様だけではなく、
ずっと嫌がらせを続けていたアナベルとコレットの発言に呆れてしまう。
「アルフレッド様……奴隷として売ることはできますか?」
すぐに行動する気にはならない。
夢で見た騎士なのは間違いない。
無造作に後ろで結ばれた黒髪。そして、こちらを見る闇のような瞳。
顔立ちは整っているようだが、表情からは感情が見えない。
お兄様よりも年上だと思うけれど、まだ十代にも見える。
私とは身長差がありすぎて、見上げると首がつらい。
ベルコヴァ王国は同盟国だけど、この人を信じていいのだろうか。
王弟だと言われても、本当にこの人が王弟なのか確かめようがない。
従っていいものなのか迷っていたら、
アルフレッド様はその意味を勘違いしたようだ。
「ああ、そうか。その姿で出ることはできないか。
そこの侍女、ルーチェ姫を着替えさせてくれ。
俺は部屋の外に出ていよう」
「え……」
言われてみれば夜着姿のままだった。
半年、同じものを着続けているせいでくたびれた夜着。
こんな姿をアルフレッド様に見られたのが恥ずかしくて仕方ない。
「ルーチェ様、こちらへ」
慌ててリマが私を隠すようにして衝立の裏へと逃がしてくれる。
日中に着ているワンピースに着替えたけれど、
これもくたびれてしまっていて、とても王女の服とは思えない。
……いえ、もう私は王女ではなかった。
囚われてからは平民と同じ立場なはず。
どのような服でも恥ずかしいと思う必要はなかった。
「そろそろ準備ができただろうか」
「ええ」
着替えたリマと手をつないだままアルフレッド様に近づく。
ふと見れば、アルフレッド様の周りで精霊が遊んでいる。
アルフレッド様はそれには気づいていないけれど、
どうやら悪い人ではないようだ。
「では、行こう。外宮に捕らえた者を集めてある。
ルーチェ姫に、確認をお願いしたい」
「確認?」
捕らえた者というのは、まさか。
「捕らえた者が本当にその者なのか、
俺ではわからないから」
「……わかりました」
半年ぶりに塔の階段を下りる。
塔の周りにはたくさんの騎士たちが集まっていた。
すべてベルコヴァの騎士で、アルフレッド様を待っていたようだ。
「殿下、準備はできております」
「ああ、わかった。ルーチェ姫、こちらだ」
「はい」
アルフレッド様の後をついていくと、外宮の大広間に向かっている。
夜会以外で使われることはないが、場所だけは知っていた。
開かれたままの扉から大広間に入ると、
そこにはたくさんの人が騎士によって捕らえられていた。
座ったまま手を後ろにして縄で結ばれている。
あちこちで嘆いている声が聞こえる。
その集団の中でもきらびやかな服装の一団が目に入る。
そこには叔父様が捕まえられていた。
今の状況が認められないのか、騎士に悪態をついている。
その隣には騎士団長、そして叔父様についた貴族たち。
少し離れた場所に叔母様、そしてアナベルとコレット。
他にも貴族の家族が捕らえられているようだ。
「ルーチェ姫には申し訳ないが、身元確認をお願いする。
シブリアンはどの男だろうか」
その名前が聞こえたのか、叔父様がびくりとしたのが見えた。
こちらを振り向いた不安そうな顔が私を見つけ、驚いた顔になる。
軽く顔を左右に振ったのは、言うなということだろうか。
……言わない理由はないけれど。
「あそこにいます。あそこの金色の髪に琥珀目の男がそうです」
「っ!!」
「あの男か。騎士団長はどの男だ」
「騎士団長は……」
聞かれるがままに答えていく。
ここに捕らえられたのは、叔父様に着いた者たちだけのようだ。
どうして隣国の者たちが叔父様たちを捕らえたのだろうか。
「ルーチェ姫、これよりベルコヴァ王国がアントシュ国王の代理としてこの国を治める」
「え?」
「アントシュ国王はベルコヴァ国王と協定を結んでいた。
お互いの国を守るための協定だ。
今、アントシュ国王がどこに連れて行かれたのか捜索している。
王太子に関しても同じだ。
二人が戻ってくるまで、ベルコヴァの者が一時的に国を預かる」
「……お父様とお兄様が戻って来るまで。
本当に戻って来るのですか?」
「確実だとは言えないが、全力で探している。
俺は見つかると思っているよ」
「……わかりました。
この国を、お父様たちをよろしくお願いします」
「ああ、わかった」
まさか、お父様がベルコヴァ国王とそんな協定を結んでいたなんて。
でも、これでアントシュ王国は助かる。
このまま叔父様が国王でいたらどうなっていたことか……
「ルーチェ!俺はそんなことは認めないぞ!
この国は俺が国王になったんだ!
この無礼な者たちをベルコヴァへ帰せ!」
「そうよ!何を勝手に認めているのよ!
ルーチェなんてもう王女でもなんでもないのよ!」
「この縄を解きなさい!こんなこと許されるわけないわ!」
叔父様たちが私へ向かって叫んでいる。
だが、捕縛されている状況では何も怖くない。
騒いでいる声を無視してアルフレッド様に問いかける。
「アルフレッド様、叔父様たちはどうなるんですか?」
「そうだな。王位簒奪に関わった者は処刑になるだろう」
「処刑だと!!」
処刑されると予想していなかったのか、
叔父様は青くなって後ろへ倒れた。
「それは家族もですか?」
直接、王位の簒奪に関わった叔父様が処刑になるのはわかる。
では、叔母様たち家族はどうなるのだろうか。
「ベルコヴァ王国の法なら家族も処刑になるが。
ルーチェ姫はどうしたい?」
「私ですか?」
アントシュ王国ではどうのような法だっただろうか。
思い出そうとして黙り込んだ私に、
叔母様が聞いたこともないような優しい声で呼びかけて来る。
「る、ルーチェはそんなひどいことはしないわよね?」
「そ、そうよ。私たち姉妹みたいに仲が良かったでしょう?」
「そうよ。ルーチェとは従姉妹じゃない。ひどいことしないでくれるわよね?」
この半年間一度も会いにこなかった叔母様だけではなく、
ずっと嫌がらせを続けていたアナベルとコレットの発言に呆れてしまう。
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