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7.王都を出て
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ベルコヴァへ向かう馬車の列は王都の街中を走っている。
初めて自分の目で見る街を馬車の窓から眺める。
お父様は王宮から外に出られない私を可哀想に思ったのか、
絵師に描かせた絵をたくさん見せてくれた。
その中には王都の街並みもあったけれど、実際に見るのはやはり違う。
だけど、叔父様のせいで国が荒れたからか、
街中を歩いている平民はほとんど見なかった。
「……熱心に見ているが、面白いのか?」
「えっと……王宮の外に出るのは初めてなんです」
急にアルフレッド様から話しかけられて驚いた。
王宮を出てからずっと、アルフレッド様は黙ったままで、
視線もそらされたままだった。
ベルコヴァ国王の命令で私を保護しなければいけないのだろうけど、
本当は関わりたくないのだと思っていた。
「王宮の外に出るのが初めて?」
「はい。私は精霊付きと言われていました。
精霊付きのことは知っていますか?」
「……ああ、わかっている」
「幼い私が感情のまま精霊に命令をしてしまって、
他者を傷つけることがないようにと、王宮の奥に閉じ込められて育ったんです。
十歳になって、ようやく外宮まで行けるようになりましたが、
十五歳になって学園に通い始めるまでは王宮から出られない予定でした」
「そこまでしなければ危険なのか?」
それはどうだろうか。
これまで精霊が人を傷つけたことはない。
リマにわがままを言って困らせたことは数えきれない。
それでも精霊はリマを傷つけなかった。
ああ、だけど。
お父様とお兄様に毒を盛られた時。
私を捕まえようとした騎士を精霊は傷つけた。
「私に危害を加えようとするものは傷つけるようです。
ですが、そんなことをすれば精霊も傷ついてしまいます。
私は精霊にそのようなことは命じたくありません」
「そうか……では、ルーチェ姫を守れば、
精霊が人間に攻撃することはないということか」
納得するようにうなずいたアルフレッド様に、
そういえばお願いがあるのを思い出した。
「あの……アルフレッド様」
「どうかしたか?」
「私をルーチェ姫と呼ぶのは止めてもらってもいいですか?
ルーチェと呼んでください」
「そのほうがよければそうしよう」
また会話が途絶えたので、窓の外を見る。
いつの間にか王都は抜け、何もない道を進んでいた。
しばらく飽きもせずに窓の外を眺めていたが、
馬車が速度を落としてガタンと止まる。
「休憩する場所に着いたんだ。ルーチェも外に出よう。
できるだけ身体を動かしておいた方がいい」
「わかりました」
アルフレッド様の手を借りて馬車から降りる。
ずっと座っていたから、お尻だけでなく体全体が痛い。
騎士たちがせわしなく動いているので、
邪魔にならないようにと人の少ない場所に行こうとしたら、
アルフレッド様に止められる。
「なるべく俺から離れないでくれ」
「あ、はい。ごめんなさい」
「いや、少し散歩しようか」
言われるままにアルフレッド様の後ろをついていく。
少し歩くと、キラキラ光る小さな小川が見えた。
「川!?本当に!?」
駆け寄ろうとしたら、地面に生えていた草に足を取られる。
「あっ!」
「おいっ……危ないな」
転んでしまいそうになった私をアルフレッド様が片手で抱き留めてくれた。
「ご、ごめんなさいっ。本物の川を見るのも初めてで……」
「だろうな。……見せてやるからおとなしくしろ」
「あ、はい」
私を立たせてくれるのかと思ったら、
アルフレッド様はそのまま私を抱き上げた。
まるでお父様が私を抱き上げていたように、
縦抱きにして川へと近づいていく。
「こうすれば見えるだろう」
「……はい。ありがとうございます」
背の高いアルフレッド様に抱きかかえられていると、
川の中まではっきりと見える。
「あ、魚が泳いでます。あそこにも!」
「そうか。よかったな」
初めて見る魚が泳いでいる姿にはしゃいでしまい、
少ししてから恥ずかしくなった。
「あの……はしゃいでしまってごめんなさい」
「かまわない。まだ小さいんだ。これくらいは甘えておけ」
まだ小さいって言われたけど、もうすぐ十三歳になるのに。
でも、アルフレッド様はいくつなんだろう。
「アルフレッド様は何歳ですか?」
「俺は十九歳。ルーチェの六個上だな」
「十九歳……」
意外と若かった。
それに私の年齢も把握していることに驚いた。
聞かれてなかったと思うけど、どうして知っているんだろう。
「そろそろ馬車へ戻ろう」
「はい」
戻るのならおろしてもらおうと思ったけれど、
アルフレッド様は私を抱えたまま歩き出した。
もしかして、私の歩幅にあわせてゆっくり歩くのは大変だったのだろうか。
あっという間に馬車についてしまった。
馬車の中に乗ると、また会話はなくなる。
あまり話しかけないほうがいいのかもしれないと、
私も黙ったまま窓の外をながめていた。
三度目の休憩になって、今日はここで野営すると言われた。
外で眠るのどころか、王宮の外で眠るのも初めてだ。
私のために用意されたテントはアルフレッド様のテントの隣。
使用人の馬車に乗っていたリマも到着してテントの中へ入って来た。
「ルーチェ様、問題はなかったですか?」
「ええ、何も」
「ですが、アルフレッド様と二人きりだったのでは?」
「そうだけど、大丈夫よ。
むしろ、アルフレッド様に私の面倒をみさせてしまったわ」
「ええ?」
最初は嫌われているのかと思うくらい、
アルフレッド様との間に壁を感じていた。
だけど、途中からはそんな感じはしなくて、
面倒見のいいひとにしか思えなくなった。
アルフレッド様は女性は嫌いだけど、子どもなら大丈夫だとか?
初めて自分の目で見る街を馬車の窓から眺める。
お父様は王宮から外に出られない私を可哀想に思ったのか、
絵師に描かせた絵をたくさん見せてくれた。
その中には王都の街並みもあったけれど、実際に見るのはやはり違う。
だけど、叔父様のせいで国が荒れたからか、
街中を歩いている平民はほとんど見なかった。
「……熱心に見ているが、面白いのか?」
「えっと……王宮の外に出るのは初めてなんです」
急にアルフレッド様から話しかけられて驚いた。
王宮を出てからずっと、アルフレッド様は黙ったままで、
視線もそらされたままだった。
ベルコヴァ国王の命令で私を保護しなければいけないのだろうけど、
本当は関わりたくないのだと思っていた。
「王宮の外に出るのが初めて?」
「はい。私は精霊付きと言われていました。
精霊付きのことは知っていますか?」
「……ああ、わかっている」
「幼い私が感情のまま精霊に命令をしてしまって、
他者を傷つけることがないようにと、王宮の奥に閉じ込められて育ったんです。
十歳になって、ようやく外宮まで行けるようになりましたが、
十五歳になって学園に通い始めるまでは王宮から出られない予定でした」
「そこまでしなければ危険なのか?」
それはどうだろうか。
これまで精霊が人を傷つけたことはない。
リマにわがままを言って困らせたことは数えきれない。
それでも精霊はリマを傷つけなかった。
ああ、だけど。
お父様とお兄様に毒を盛られた時。
私を捕まえようとした騎士を精霊は傷つけた。
「私に危害を加えようとするものは傷つけるようです。
ですが、そんなことをすれば精霊も傷ついてしまいます。
私は精霊にそのようなことは命じたくありません」
「そうか……では、ルーチェ姫を守れば、
精霊が人間に攻撃することはないということか」
納得するようにうなずいたアルフレッド様に、
そういえばお願いがあるのを思い出した。
「あの……アルフレッド様」
「どうかしたか?」
「私をルーチェ姫と呼ぶのは止めてもらってもいいですか?
ルーチェと呼んでください」
「そのほうがよければそうしよう」
また会話が途絶えたので、窓の外を見る。
いつの間にか王都は抜け、何もない道を進んでいた。
しばらく飽きもせずに窓の外を眺めていたが、
馬車が速度を落としてガタンと止まる。
「休憩する場所に着いたんだ。ルーチェも外に出よう。
できるだけ身体を動かしておいた方がいい」
「わかりました」
アルフレッド様の手を借りて馬車から降りる。
ずっと座っていたから、お尻だけでなく体全体が痛い。
騎士たちがせわしなく動いているので、
邪魔にならないようにと人の少ない場所に行こうとしたら、
アルフレッド様に止められる。
「なるべく俺から離れないでくれ」
「あ、はい。ごめんなさい」
「いや、少し散歩しようか」
言われるままにアルフレッド様の後ろをついていく。
少し歩くと、キラキラ光る小さな小川が見えた。
「川!?本当に!?」
駆け寄ろうとしたら、地面に生えていた草に足を取られる。
「あっ!」
「おいっ……危ないな」
転んでしまいそうになった私をアルフレッド様が片手で抱き留めてくれた。
「ご、ごめんなさいっ。本物の川を見るのも初めてで……」
「だろうな。……見せてやるからおとなしくしろ」
「あ、はい」
私を立たせてくれるのかと思ったら、
アルフレッド様はそのまま私を抱き上げた。
まるでお父様が私を抱き上げていたように、
縦抱きにして川へと近づいていく。
「こうすれば見えるだろう」
「……はい。ありがとうございます」
背の高いアルフレッド様に抱きかかえられていると、
川の中まではっきりと見える。
「あ、魚が泳いでます。あそこにも!」
「そうか。よかったな」
初めて見る魚が泳いでいる姿にはしゃいでしまい、
少ししてから恥ずかしくなった。
「あの……はしゃいでしまってごめんなさい」
「かまわない。まだ小さいんだ。これくらいは甘えておけ」
まだ小さいって言われたけど、もうすぐ十三歳になるのに。
でも、アルフレッド様はいくつなんだろう。
「アルフレッド様は何歳ですか?」
「俺は十九歳。ルーチェの六個上だな」
「十九歳……」
意外と若かった。
それに私の年齢も把握していることに驚いた。
聞かれてなかったと思うけど、どうして知っているんだろう。
「そろそろ馬車へ戻ろう」
「はい」
戻るのならおろしてもらおうと思ったけれど、
アルフレッド様は私を抱えたまま歩き出した。
もしかして、私の歩幅にあわせてゆっくり歩くのは大変だったのだろうか。
あっという間に馬車についてしまった。
馬車の中に乗ると、また会話はなくなる。
あまり話しかけないほうがいいのかもしれないと、
私も黙ったまま窓の外をながめていた。
三度目の休憩になって、今日はここで野営すると言われた。
外で眠るのどころか、王宮の外で眠るのも初めてだ。
私のために用意されたテントはアルフレッド様のテントの隣。
使用人の馬車に乗っていたリマも到着してテントの中へ入って来た。
「ルーチェ様、問題はなかったですか?」
「ええ、何も」
「ですが、アルフレッド様と二人きりだったのでは?」
「そうだけど、大丈夫よ。
むしろ、アルフレッド様に私の面倒をみさせてしまったわ」
「ええ?」
最初は嫌われているのかと思うくらい、
アルフレッド様との間に壁を感じていた。
だけど、途中からはそんな感じはしなくて、
面倒見のいいひとにしか思えなくなった。
アルフレッド様は女性は嫌いだけど、子どもなら大丈夫だとか?
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