これが運命ではなかったとしても

gacchi(がっち)

文字の大きさ
9 / 57

9.襲撃の相手

しおりを挟む
朝起きたら目の前にアルフレッド様の寝顔があった。
かなり驚いたけれど、なんとか声を上げずにすんだ。

静かな寝息を立てて寝ているアルフレッド様。
そのせいか、いつもよりも年齢が近く感じる。

起きている時は落ち着いていて、しっかりしているように見える。
お兄様よりも年上だけど、まだ十九歳って言っていた。
それなのにたくさんの騎士を従えて、こんな他国まで助けに来て。

黒髪黒目のアルフレッド様はまつげもやっぱり黒いんだ。
なんて思いながら見ていたら、見過ぎていたのだろうか。
アルフレッド様が起きてしまった。

「……ああ、そうか。昨日、そのまま寝てしまったのか。
 今のうちに自分のテントに戻った方がいい。
 こんなところで寝ているのを乳母に見つかったら騒ぎになるだろう」

「あ、そうでした。戻ります」

アルフレッド様とテントで二人きりで寝ていたなんて知られたら、
リマは卒倒してしまうかもしれない。

外で警戒している騎士に見つからないように自分のテントに戻ると、
幸いなことにまだリマは起きていなかった。

その日、朝食を終えて馬車に乗ったら、
めずらしいことにアルフレッド様に話しかけられる。
昨日の夢の詳細が知りたいらしい。

「話していた男たちはベルコヴァ国の者だと思います」

「どうしてわかった?」

「話し方です。
 ベルコヴァの人は少し音が高くなって、発音がはっきりしますから」

「ああ……そういえばそうか」

アントシュとベルコヴァは話す言葉は同じなのだが、
話し方にそれぞれ特徴があった。
アントシュは低く、ささやくように話す。

ベルコヴァの話し方は小鳥のさえずりのようだと表現されることもある。

「ベルコヴァの者は話し方がうるさいからな」

「そんなことはないと思いますが、違いははっきりしています。
 多分、話していたのは五人か六人だったと思いますが、
 全員はテントに入ってきていないですよね?」

「そうだな。切りつけたのは三人。
 そのうち一人は逃がしてしまった」

では、三人か四人が逃げたことになる。

「切りつけた二人は……殺してしまったのですか?」

「ああ。ああいう者たちは訓練しているから、
 拷問したとしても依頼人を話さない。
 生かして捕らえてしまうと、
 ここから先、城に戻るまで連れて行かなくてはならなくなる。
 そうすれば騎士に監視させることになって、
 我々の警備がますます手薄になってしまう」

「……そうですね。そうなれば向こうが喜ぶだけでしょうね」

「そういうことだ」

おそらく逃げた者たちはまた襲撃してくるだろう。
ベルコヴァの城まではあと十日以上もかかる。
その間に狙って来るに違いない。

「また何か思い出したら教えてくれ」

「わかりました」

その日の夜は向こうも警戒したのか何もなかった。
私にできることは何かあれば精霊に知らせてほしいとお願いするだけ。

数日間、何もなかったことにほっとしていると、
ようやく国境までやってきた。

森の中を走っているのだから、窓から見える景色は変わらない。
だが、騎士たちの話し方ははっきりとベルコヴァの話し方に変わっていた。

「みなさん、アントシュでは話し方を変えていたんですね」

「ベルコヴァの騎士だとわかれば警戒される。
 皆には気をつけるように言っていた。
 ……ベルコヴァの話し方は正直言ってうるさい。
 あのままでよかったんだがな」

「王弟なのにそんなことを言っていいんですか?」

「人前では言わない。
 だが、城についたらルーチェもそう思うはずだ。
 女性の話し方は耐えられないほどうるさい」

「……それは覚悟しておきます」

アルフレッド様が本当にうんざりするように言うので、
ベルコヴァの女性と話す時は覚悟しておこうと思う。

「ルーチェはうるさくなくていい……」

ぼそりとつぶやいたアルフレッド様に、
もしかして最初のほうに壁を感じたのはそのせいかもと思う。

アルフレッド様はうるさい令嬢たちと話すのが苦手なのだろう。
私はアントシュの話し方だからあまり気にならないようだし、
馬車の中ではほとんど話さない状況だ。

こうして愚痴を言ってくれるほど気を許してくれるようになったのはうれしい。

国境をこえてから二日後。
また精霊の夢を見た。

木々の中に隠れるようにして男たちが密会している。

「この間はどうして失敗したんだ」

「わからない。毎日寝ていないわけじゃないだろうし」

「警戒していたとしても、そう何日も続かないだろう」

「起きていた場合は何もせずに去ろう」

「そうだな。よし、配置につくぞ」

また襲撃するんだ!
すぐに飛び起きてアルフレッド様のテントにもぐりこむ。

毛布を掛けて寝ているアルフレッド様の肩をゆすると、
私だと気づいてすぐに起き上がる。

「また襲撃か?」

「そうです。起きていれば止めると言っていました」

「わかった……寝ているふりをしよう。ルーチェは毛布の中に隠れて」

「はい」

私が毛布の中に隠れると、アルフレッド様は剣を持って入り口近くへと向かう。
少しして、誰かがテントの入り口をそっと開けた。

「……寝ているようだ」

「よし、いけ」

小さな声でやり取りしているのが聞こえる。
毛布の中にいるのがアルフレッド様だと思っているようだ。

息をひそめてじっとしていると、
また剣が何かにぶつかる音と悲鳴が聞こえた。
バタバタと走る音……また逃がした。

「全員は仕留められなかったか。
 おい、誰かいるか!」

「……アルフレッド様!また襲撃ですか!?」

「ああ。こいつらも処分しておいてくれ」

「わかりました」

「警備については調べておけ」

「はいっ」

二度も襲撃できるなんて、こちらの警備の情報が洩れているとしか思えない。
味方の中に敵がいるなんて……嫌な状況だ。

テントに戻って来たアルフレッド様が私をのぞきこむ。

「……今日は震えていないな。大丈夫か?」

「アルフレッド様が倒すと思っていたので、
 今日は心配していませんでした」

「そうか。今日も教えてもらって助かった。
 ありがとう」

「どういたしまして」

アルフレッド様ほど強かったら、
寝ていたとしても負けなかったかもしれない。
それでも役に立てたことがうれしくて、ゆるむ顔を毛布で隠す。

「今は騎士たちが警戒しているから見つからずに戻るのは無理だろう。
 また早朝に起こすから、それまで眠ればいい」

「はい」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!

柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」 『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。 セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。 しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。 だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

処理中です...