26 / 55
26.ロドルフ様の変化
しおりを挟む
「ロドルフ様が話しかけているのも噂になっていました」
「どういう噂?」
「婚約解消したのが惜しくなったのではないか、
また再婚約するのではないかと」
「まさか!」
「ですが、レベッカ様と婚約されたわけではないですからね。
王子妃教育が滞っているとも聞いていますし、
王太子妃教育まで終えているナディア様と復縁したくなるのも当然かと」
「そういう理由で復縁なんてしたくないわ」
いや、どういう理由があったとしても再婚約なんてしたくないけれど。
できれば関わってほしくないと思っているのに、
それからもロドルフ様が私に話しかけてくるのは止まらなかった。
「ナディア」
呼びかけられて振り向くと、ロドルフ様が一人でいた。
レベッカ様は化粧直しにでも行っているのか、
不在の隙をねらって話しかけに来たらしい。
「どうかしましたか?」
「あのさ、やっぱり勝負なんかやめたほうがいいと思うんだ。
お前からシリウス様にそう言えよ。勝負を辞退します、って」
「辞退?」
「だって、勝負してしまったら、
お前は学園を退学になってしまうじゃないか」
「……それを言い出したのはロドルフ様ではないのですか?」
自分から条件を増やしたくせにどういうつもりなのだろう。
「いや、その時はそう思っていたんだけど、
よく考えたらそこまでする必要はないなって。
お前は学園を辞めさせられてしまったら、
クラデル侯爵家から追い出されてしまうんじゃないのか?」
「……それは聞いていませんが、
おそらく追い出されることはないと思います。
アンペール侯爵家と違って」
「そうか……アンペール侯爵家からは追い出されたんだよな。
俺と婚約解消してしまったから」
そうだけど、そうじゃない。
アンペール侯爵家から出たかったのは私だ。
なのに、ロドルフ様は悲しげに目を伏せた。
「なぁ、俺と婚約を……」
「ちょっと!ロドルフ!」
「げ!戻って来たのか、レベッカ」
いつの間にか教室に戻って来ていたレベッカ様が、
ロドルフ様に詰め寄って怒り始めた。
「今、何を言おうとしていたの?
まさかナディアに婚約しようって、
言おうとしたんじゃないでしょうね!」
「いや、その……」
「本当に言おうとしていたのね!
信じられない!いいわ、もうロドルフなんていらない。
私はシリウス様の弟子になって、婚約者にもしてもらうわ!」
「え?シリウス様の婚約者?」
ロドルフ様に呆れたからか、シリウス様の婚約者になると言い出したレベッカに、
教室にいた者たちがざわめきだした。
「ふふふ。弟子になれば、いつだってシリウス様に会える。
一番近くにいれば婚約者に選ばれることだってありえるじゃない」
「そんなわけは……」
その理論で言うと、私がシリウス様の婚約者になってもおかしくないことになる。
だけど、そんなことはまったくない……
ここで気がついた。ないと言えるのか?
レベッカ様がシリウス様にあんな風に抱き寄せられたり、抱き着いたりしていたら。
シリウス様がレベッカ様に心を許したら、婚約者になることだってありえるの?
「もうロドルフなんていらないわ。
ナディア様にあげるから好きにしてちょうだい」
「おい、レベッカ!」
「浮気者なんていらないのよ。もう話かけないでちょうだい。
ああ、勝負の条件を増やしましょう?
一位になった者だけがシリウス様の弟子になれることに。
私以外の弟子なんていらないもの」
「勝手に条件を増やすなよ!」
「いいじゃない。ロドルフと一緒に修行するなんて嫌だもの」
「……俺だって、俺だってお前と一緒にいるのはもうごめんだ!」
言い合いを始めた二人にどうしていいかわからないでおろおろしていると、
教師が教室に入って来て強制的に話は終わる。
その日からロドルフ様とレベッカ様は本当に別れてしまったようで、
二人は別々に行動し始めた。
レベッカ様は王子妃教育にも行かなくなったらしく、
ロドルフ様の妃になることも正式に断ったそうだ。
ロドルフ様はレベッカ様から離れたからか、
私と行動を共にしようとしてきたが、
休憩時間はミリアの教室に逃げ込むことで距離を置いている。
試験まであと三週間。
そろそろ魔力調整は終わる時期だけど、それから魔術の訓練をしなければいけない。
試験のことだけに集中したいのに、悩むことが多すぎて頭が痛い。
いつも通り魔術演習の授業を終え、
ようやく青三と紫一の間を行ったり来たりするところまできた。
「どうしたんだ、ため息ばかりだな」
「本当に間に合うのか心配で」
「お前の魔術の訓練は三日あれば十分だ」
「三日ですか!?」
「ああ、だから心配しなくていい。
青三で安定するまではこのまま続けろ。
それが一番うまくなる近道だ」
「……わかりました」
自信ありげなシリウス様を信じたいけれど、信じ切れない自分がいる。
学園を辞めてしまったら、シリウス様の弟子でなくなったら、
私はどうしたらいいのかわからない。
クラデル侯爵家から追い出されることはないと思っているけれど、
何もできないまま置いてもらえるのもつらい。
焦ってもできることは限られている。
それからも魔術演習の授業は時間いっぱい魔力調整に費やす。
早く安定させなくてはと思えば思うほど魔力は乱れる。
やっと魔力が青三で安定したのは、試験の一週間前だった。
「どういう噂?」
「婚約解消したのが惜しくなったのではないか、
また再婚約するのではないかと」
「まさか!」
「ですが、レベッカ様と婚約されたわけではないですからね。
王子妃教育が滞っているとも聞いていますし、
王太子妃教育まで終えているナディア様と復縁したくなるのも当然かと」
「そういう理由で復縁なんてしたくないわ」
いや、どういう理由があったとしても再婚約なんてしたくないけれど。
できれば関わってほしくないと思っているのに、
それからもロドルフ様が私に話しかけてくるのは止まらなかった。
「ナディア」
呼びかけられて振り向くと、ロドルフ様が一人でいた。
レベッカ様は化粧直しにでも行っているのか、
不在の隙をねらって話しかけに来たらしい。
「どうかしましたか?」
「あのさ、やっぱり勝負なんかやめたほうがいいと思うんだ。
お前からシリウス様にそう言えよ。勝負を辞退します、って」
「辞退?」
「だって、勝負してしまったら、
お前は学園を退学になってしまうじゃないか」
「……それを言い出したのはロドルフ様ではないのですか?」
自分から条件を増やしたくせにどういうつもりなのだろう。
「いや、その時はそう思っていたんだけど、
よく考えたらそこまでする必要はないなって。
お前は学園を辞めさせられてしまったら、
クラデル侯爵家から追い出されてしまうんじゃないのか?」
「……それは聞いていませんが、
おそらく追い出されることはないと思います。
アンペール侯爵家と違って」
「そうか……アンペール侯爵家からは追い出されたんだよな。
俺と婚約解消してしまったから」
そうだけど、そうじゃない。
アンペール侯爵家から出たかったのは私だ。
なのに、ロドルフ様は悲しげに目を伏せた。
「なぁ、俺と婚約を……」
「ちょっと!ロドルフ!」
「げ!戻って来たのか、レベッカ」
いつの間にか教室に戻って来ていたレベッカ様が、
ロドルフ様に詰め寄って怒り始めた。
「今、何を言おうとしていたの?
まさかナディアに婚約しようって、
言おうとしたんじゃないでしょうね!」
「いや、その……」
「本当に言おうとしていたのね!
信じられない!いいわ、もうロドルフなんていらない。
私はシリウス様の弟子になって、婚約者にもしてもらうわ!」
「え?シリウス様の婚約者?」
ロドルフ様に呆れたからか、シリウス様の婚約者になると言い出したレベッカに、
教室にいた者たちがざわめきだした。
「ふふふ。弟子になれば、いつだってシリウス様に会える。
一番近くにいれば婚約者に選ばれることだってありえるじゃない」
「そんなわけは……」
その理論で言うと、私がシリウス様の婚約者になってもおかしくないことになる。
だけど、そんなことはまったくない……
ここで気がついた。ないと言えるのか?
レベッカ様がシリウス様にあんな風に抱き寄せられたり、抱き着いたりしていたら。
シリウス様がレベッカ様に心を許したら、婚約者になることだってありえるの?
「もうロドルフなんていらないわ。
ナディア様にあげるから好きにしてちょうだい」
「おい、レベッカ!」
「浮気者なんていらないのよ。もう話かけないでちょうだい。
ああ、勝負の条件を増やしましょう?
一位になった者だけがシリウス様の弟子になれることに。
私以外の弟子なんていらないもの」
「勝手に条件を増やすなよ!」
「いいじゃない。ロドルフと一緒に修行するなんて嫌だもの」
「……俺だって、俺だってお前と一緒にいるのはもうごめんだ!」
言い合いを始めた二人にどうしていいかわからないでおろおろしていると、
教師が教室に入って来て強制的に話は終わる。
その日からロドルフ様とレベッカ様は本当に別れてしまったようで、
二人は別々に行動し始めた。
レベッカ様は王子妃教育にも行かなくなったらしく、
ロドルフ様の妃になることも正式に断ったそうだ。
ロドルフ様はレベッカ様から離れたからか、
私と行動を共にしようとしてきたが、
休憩時間はミリアの教室に逃げ込むことで距離を置いている。
試験まであと三週間。
そろそろ魔力調整は終わる時期だけど、それから魔術の訓練をしなければいけない。
試験のことだけに集中したいのに、悩むことが多すぎて頭が痛い。
いつも通り魔術演習の授業を終え、
ようやく青三と紫一の間を行ったり来たりするところまできた。
「どうしたんだ、ため息ばかりだな」
「本当に間に合うのか心配で」
「お前の魔術の訓練は三日あれば十分だ」
「三日ですか!?」
「ああ、だから心配しなくていい。
青三で安定するまではこのまま続けろ。
それが一番うまくなる近道だ」
「……わかりました」
自信ありげなシリウス様を信じたいけれど、信じ切れない自分がいる。
学園を辞めてしまったら、シリウス様の弟子でなくなったら、
私はどうしたらいいのかわからない。
クラデル侯爵家から追い出されることはないと思っているけれど、
何もできないまま置いてもらえるのもつらい。
焦ってもできることは限られている。
それからも魔術演習の授業は時間いっぱい魔力調整に費やす。
早く安定させなくてはと思えば思うほど魔力は乱れる。
やっと魔力が青三で安定したのは、試験の一週間前だった。
1,591
あなたにおすすめの小説
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる