初夜で殺して来いと命じられましたが、好きになるなんて想定外です

gacchi(がっち)

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21.信用できない

エンフィア王家から呼び出しの手紙が来たことで、
私はすぐにでも王宮へ向かわなければいけないのかと思っていたが、
イザークは平然とその手紙を無視した。

「無視していいの?」

「大丈夫」

一度目の手紙が届いてから一週間後、また同じ文章の手紙が届いた。
婚約の報告をしに王宮まで来いと。
だが、イザークはまたその手紙を無視する。

それで大丈夫なのか心配していたが、二週間後、ついに王宮から使者が送られてきた。
王宮文官だという男は屋敷の門の中に入れてもらえず、大声で何かを叫んでいた。

「使者を中に入れないの?」

「ああ。このまま対応するからちょっとだけ待ってて」


イザークが対応するというので、レオナと隠れて聞くことにした。
文官はイザークを見て、ようやく対応してもらえると思ったのかほっとした顔になる。
だが、イザークは門を開けようとはしなかった。

「イルミール公爵!これはどういうことですか!?」

「悪いが、本物の使者という証拠がないな」

「証拠ですと!?王家の馬車を使っているのが見えるでしょう!」

文官が乗ってきたのは王家が使用する馬車だったが、イザークはあっさりと否定する。

「いや、その馬車は偽物かもしれないだろう?」

「は?」

「以前、同じような馬車に乗って暗殺者が来たことがあったんだ。
 どう見ても王家の馬車にしか見えなかったし、女官のような女と、
 護衛騎士のような男たちまでいたのに、偽王女だったんだ。
 王家に問い合わせてみたら、そんなものたちは知らないと言われてな。
 それ以来、王家の馬車に見えたとしても信用しないことにしている」


あぁ、そういえば。私が乗ってきたのも同じ王家の馬車だった。
女官と護衛騎士を連れてきたのに、イザークは暗殺されかけた。
普通の貴族なら疑り深くなったとしても仕方ないし、
王家の馬車に見えるだけでは信じることができないのは当然だ。

文官もそのことを思い出したのか、顔から汗がしたたり落ちる。
あわあわと何かを鞄から出したと思ったら、国王からの手紙のようだ。
その手紙を門の隙間からイザークへと手渡す。

イザークはその手紙を開いて読んでいたが、ダメだなと言って突き返していた。

「どうしてですか!」

「陛下の直筆でもなければ、王印も押されていない。
 これでは誰が書いたのかもわからない。
 公爵の俺を王宮まで呼び出すのに正式な手紙じゃないのはおかしいだろう。
 他国の罠かもしれないのに向かうことはできない」

「……はい。そうですよね」

文官としてもおかしいと思ったのか、力なく返事をする。

「俺を呼ぶのであれば正式な手紙を持ってくるんだな」

「……わかりました。失礼いたします」


説得するのをあきらめたのか、肩を落とした文官が乗った馬車は去って行った。

「追い返しちゃって大丈夫?」

「平気。しばらくはこうやって追い返すつもり」

「すぐに王宮に向かうんだと思ってたのに。
 認めさせるんじゃなかったの?」

「行くつもりはあるけど、ラディアが竜人になるまでは行かない。
 竜人になった後なら安心できるけど、今のままだとどうしても不安が残る。
 俺はラディアに何かあるかもしれないのに行く気にはなれない」

「私のためだったんだ」

私が竜人になるまであと二か月ほど。
それまでずっと追い返すって大丈夫なのだろうか。

心配はしていたけれど、それからしばらく使者は来なかった。

「来なくなったね。あきらめたのかな」

「いや、多分何か問題があって来れないんだろう」

「このまま来ないならそれでもいいんだけどね」

イザークの結婚を知った貴族たちからはお祝いの手紙と品が贈られてきた。
個人的なつきあいをしている貴族家はないそうだけど、礼儀として贈ってきたのだろうか。
国王が認めるよりも先に貴族たちが認めているという不思議な状況になっていた。


もうすぐ二か月になる頃、ようやく次の使者が来た。
イザークは前回の使者と同じように対応したが、今回の手紙には王印が押されていた。
だが、イザークは手紙を読んで首をかしげる。

「おかしいな」

「何がでしょうか?」

「俺が国王に報告したのは結婚だ。
 それなのに婚約の報告に来いと書かれている。
 情報が違っているのはおかしいだろう?」

「ですが、これは間違いなく王印で」

「だがなぁ、偽王女の時の手紙にも同じ王印が押されていたんだよな」

「そ、そ、それは……どうしてでしょうね」

しどろもどろになった文官に畳みかけるようにダメ押しをする。

「せめて顔を知っている文官でもいれば信じられるのだがなぁ」

「わ、わかりました!」

この文官は顔見知りではなかったらしい。
手紙をしまうとそそくさと馬車に乗って去って行った。

「知り合いの文官なんているの?」

「いや、いないな」

「じゃあ、またしばらくは来ないかもね」

「ああ」

「そういえば、レオナが私の身体はそろそろ竜人になるだろうって。
 あと一週間もすれば大丈夫だって言ってたよ」

「本当か!」

よほどうれしいのか、私を抱き上げてくるくる回り出したイザークの首に抱き着いた。
うん、なんだかふれあう肌がしっくりくる感じがする。
身体の全部がイザークと同じものでできている気がする。

髪は完全に銀色になったし、目も紫色で落ち着いた。
背も伸びたし、身体も大きくなったと思う。
腕力だけじゃなく、力があふれている気がする。これが竜人の身体なんだ。


「イザーク、これでやっと初夜ができるね!」

「っ。……ラディア、そういうのは」

「違うの?」

「いや、違わないんだけど……」

あとでレオナから叱られたけれど、そういうことじゃないんだろうか。
竜人の身体になったら初夜をするって言ったのはイザークなんだし。

だけど、初夜って大丈夫なのかな。
痛かったり苦しかったりするんだよね。
イザークのものになるのはうれしいけれど、やっぱり少し怖いと思ってしまう。



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