消えた令息が見えるのは私だけのようです

gacchi(がっち)

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20.王宮の終わり

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アーンフェ公爵家の父親と令嬢を呼び出し、
当主の変更を確認できたことで国王は安心しきっていた。

前国王に無理やり決められた結婚した王妃と、
王妃が産んだ王太子と第二王子とは顔を合わせるのも嫌だった。
自分で選んだ妃が産んだ息子ベッティルのことは可愛がっていたが、
どう見ても自分と同じで馬鹿だと思っていた。

家庭教師から逃げ回っているとの報告は聞いていたので、
馬鹿なのは仕方ないとは思っていたが。

そんなベッティルがわざわざ苦労しなくても良いように、
公爵家の婿として結婚できるようにしてやったのに。
まさか自分とは関係のない学園の卒業式典で、
婚約破棄を言い渡すほど愚かだとは思っていなかった。

あの後、ベッティルを呼び出して話を聞けば簡単な話だ。
自分の選んだ女と結婚したいと。イザベラというのがその相手らしい。
いくらなんでも平民の女と結婚したいと言われても難しい。
あきらめさせようかと思ったが、
アーンフェ公爵家のブランカの企みだと言われ、話を聞くことにした。

エルヴィラと婚約破棄をした後は、
アーンフェ公爵家を妹のブランカに継がせ、
イザベラは公爵家の養女とした上でベッティルに嫁がせる。

四大公爵家の娘を嫁にしたとなれば王族として残る権利ができる。
アーンフェ公爵家からの支援も約束されている。

なるほど。それならば許してやってもいいと思った。
聞けばエルヴィラは自分の大嫌いな王妃にそっくりだった。

美人とはいえ、愛想も無く、馬鹿にしたような目で見てくる。
政略結婚だから仕方ないという態度。こっちが嫌だと思っているというのに。
これではベッティルが嫌がるのも無理はない。

国王になれないベッティルでは側妃で好きな女を娶るということもできない。
婚約破棄するのも当然だと思ってしまった。


幸い、話し合いはうまくいった。
これでエミールがアーンフェ公爵になり、その後ブランカを跡継ぎとする。
イザベラを養女に迎え、ベッティルの卒業と同時に結婚させる。
計画が順調にいったのは初めてで、意外と自分も捨てたもんじゃないと笑った。

大事な息子を悲しませずにうまくいった喜びで、
その日の夕食はとっておきのワインを出して楽しんだ。

翌朝、さすがに飲み過ぎたようで頭が重い。
目が覚めたら辺りは暗かった。まだ朝じゃないんだろうか。
呼び鈴を鳴らすと侍従が入ってくる。

「まだ朝じゃないのか?」

「いいえ、とっくに朝になっています。昨日の夕方からひどい大雨で……」

「なに?雨だと?」

エルヴィラが当主変更の儀を行った時は晴天が続いたと言っていたのに。
そう思ったが、一か月もあれば雨の日もあるのが当然だろう。
気にすることなく起きて朝食をとることにした。


いつもどおりに昼過ぎから謁見室に向かう。
何も用はないけれど、行かないと何かあった時に言い訳できない。
一日一回、謁見室に行って変わりはないかと聞いて帰る。
これが国王としての唯一の仕事だ。

「宰相、変わりは……」

無いかと聞く前に扉を閉めて帰りたくなった。
謁見室には騎士団長と王太子が待ち構えていた。
どう見ても怒っている顔で。……これはまずそうだ。

「おはようございます、陛下。ゆっくりとした朝ですなぁ」

「父上、なにやらアーンフェ公爵家の当主変更の儀が行われているとか?
 どういうことでしょうか。しっかり説明してもらえますね?」

「あ、ああ」

騎士団長は四大公爵家の当主でもある。武術のバルテウス家だ。
王太子妃の父親でもあるので、王太子にしてみれば義理の父親になる。

武術のバルテウス家の生まれなのに、王太子妃のクリスティーナは美しく賢い。
その才能を前国王に気に入られ、王太子妃に選ばれたが、
こざかしい性格が王妃にそっくりだった。

せっかく王妃を離宮に行かせ静かになったと喜んでいたというのに、
その代わりに王太子と王太子妃がうるさくなっていく。
事務的な仕事などは勝手にやらせているが、国王の座を譲る気はない。
譲ってしまったら好き勝手できなくなってしまうのが嫌だからだ。

ずっと避けていた王太子と騎士団長がそろって謁見室に来ているとは。
本気で怒っている雰囲気を感じ取って涙目で宰相を見ると、
もうすでに宰相は言い負かされたようで青い顔をしている。
どうしよう。どうやって逃げよう。

「そうですか。エルヴィラ嬢が当主を変更してもいいと」

「そ、そうだ。令嬢が当主になるなんて無理だろう。
 私のせいじゃないぞ?」

「……。当主変更の儀を行っていいと許可を出したのは陛下です。
 それをお忘れなく」

「なんでだ?」

「おそらく、この雨は止みません」

「は?」
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