消えた令息が見えるのは私だけのようです

gacchi(がっち)

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27.解決

そのアントンに会いたくて来たのに、アントンはいない。
前回は一緒に談話室で話をしたのに、今日はどこにいるんだろう。

「今日はアントンはどうしたのですか?」

「もうじき戻って来ると思うわ。
 今日は魔術訓練の日だから、それが終わったら来てもいいと言ってあるの。
 アントンは休みたがっていたけれど、訓練相手もいることだしね。
 あぁ、ほら、走ってくる音がするわ」

言われてみれば、廊下を走っている音が聞こえる。
公爵令息が廊下を走るなんて後で怒られるだろうけれど、
満面の笑みで談話室に入って来たアントンの顔を見ると怒る気になれない。

「姉様!」

「アントン、訓練お疲れ様。すごい汗ね?」

訓練のせいなのか走って来たからなのか、汗だくのアントンにハンカチを渡す。
恥ずかしそうにしながらもハンカチで汗を拭くと、にっこり笑った。

「姉様が来たってことは、うまくいったってことですよね?」

「やっぱりアントンだったのね」

聞き出そうとする前に、公爵が書類を持って談話室に入ってくる。
テーブルの上に書類を置くと、あぁとため息をついた。

「父上、どうしたのですか?」

「……いや、婚約の書類を提出しようと思ったのだが、
 アロルドの署名が必要なのを忘れていた……。
 さすがに私が署名しておくわけにもいかないな」

「それは大丈夫です」

「え?」

「アロルド、もういいわよね?」

「ああ」

もう隠す必要はないだろうとアロルドに声をかける。
アロルドが腕輪に魔力を流すと、ぱぁっと光り輝いて姿を現す。
さっきからずっとソファに座っていたのだが、ようやく姿が見えるようになり、
オーケルマン公爵家の三人が驚きの声をあげた。

「アロルド!」
「帰って来たの!?」
「兄様!お帰りなさい!」

「ただいま、帰りました。
 父上、詳しい話は後にしてもいいでしょうか。
 早く婚約の書類を提出したいので」

「あ、ああ。そうだな。
 これは早いほうがいい」

まずはオーケルマン公爵家の当主として公爵が署名し、
アーンフェ公爵家の当主として私が署名する。
その後で、婚約するものとして私とアロルドが署名する。
アーンフェ公爵家にアロルドが婿入りするので、アロルドが下に署名している。

「よし、ロニー!馬車を用意してくれ。王宮へ向かう。
 これはすぐに受理させてくる。アロルド、話は帰って来てから聞かせてくれ」

「私も行きますわ。今度こそ、文句なしに受理させるんだから!」

「父上、母上、お願いします」

書いたばかりの書類を持って公爵夫妻は部屋から出て行った。
後に残ったのは私とアロルド、そしてアントン。

「えへへ~。おめでとうございます!
 兄様と姉様がやっと婚約出来てうれしいです!」

「アントン、お前のおかげではあるが、こっちは大変な思いをしたんだぞ?」

「ごめんなさい、兄様。精霊たちが大丈夫だっていうから安心して……」

「アントン、精霊はね、加減がわからないのよ。
 だから、何かをお願いする時は気をつけなきゃいけないの。
 精霊は人間じゃないから、何がダメなのかわからないのよ」

「……はい。気をつけます」

しょんぼりしてしまったアントンは可哀そうに思うけれど、
精霊にお願いする時は本当に気をつけなければいけない。
今回だって、アロルドは存在が消えかけていた。
精霊王が助けてくれなかったらどうなっていたかわからない。

「そうだ。アントン。俺の影を持っていないか?」

「あ、ちょっと待っててください」

影に心当たりがあるのか、アントンは急いで団欒室から出て行った。
また廊下を走っている音がする。
オーケルマン公爵家では当たり前のことなのか、アロルドは気にしていないようだ。

「廊下を走っているけど、怒らなくていいの?」

「……そのうち、転移できるようになったら走らなくなる」

「そういう問題なの?」

「多分、大丈夫。うちは変わっているから」

そういう問題なのかともう一度言いたくなったけれど、それもそうかと思う。
公爵家ごとに常識は違う。
アーンフェ公爵家だって普通の公爵家ではない。
アントンが普通の貴族令息らしくなくてもかまわないのだろう。

「お、おまたせ…しまし……た」

急いで団欒室に戻って来たのか、
アントンは息切れしたまま何かをアロルドに渡す。

「これは、絵?」

横から見たら、アロルドの絵だった。とても精巧に描かれている。
アロルドが受け取ったら、絵は少しずつ光になって消えていく。
その光はすべてアロルドの中に吸い込まれ、絵は消えて無くなった。

「これで姿が戻ったの?」

「あぁ、腕輪の力は使っていない。けど、見えているよな?アントン」

「はい、見えてます。あぁ、やっぱりこの絵に姿を隠してあったんですね。
 精霊にお願いしたら、兄様に鏡を渡すようにって言われて。
 何が起きるのかわからないまま、鏡を封筒に入れて部屋に置いておいたんです」

「何が起きるかわからないまま試すなよ」

「はぁい。でも、あのままだと姉様が第三王子と結婚させられちゃうと思って」

「まぁ、そうだな。今回のことはうまくいったから俺からは叱らないでおく。
 でも、父上たちには全部話すからな?」

「ええ!?……そんなぁ」

涙目になったということは、怒られるようなことをした自覚があるのだろう。
考えてみれば三か月以上もアロルドは行方不明だったわけで。
何も知らなかった公爵夫妻はどれだけ心配したかわからない。
これはきっちり叱られたほうがアントンのためになる。

それから二時間後、公爵夫妻が王宮から戻って来て、
無事に書類が受理されたことを知らされる。

「あぁ、陛下は昨日から離宮に行ったそうだ。宰相も。
 とりあえず、王太子が国王代理に第二王子が宰相代理になった。
 ちゃんとした即位は災害復旧を終えてからにするということだ。
 これでこの国もまともになるだろう」

「そうですか。王太子と第二王子が。安心しました」

しっかりした王妃に育てられた二人が国の中心となるのなら、
この国は安定するだろう。
陛下が勝手に変えてしまったことも、そのうち元に戻されると思う。

「第三王子と第二妃も離宮に送られる予定になっている。
 問題のある使用人ごと送るそうだから王宮もすっきりするな。
 これから爵位を取り上げされる貴族家も出てくるはずだ」

「陛下に従うふりで好き勝手していた貴族家も多いですからね。
 爵位を取り上げられて当然です」

陛下が好き勝手していた十年の間に無茶苦茶なことをしていた貴族家は、
真面目な王太子が取りつぶすことになるだろう。

「エルヴィラ、もう夜になるから屋敷まで送っていくよ」

「うん……」


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