王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)

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2章 旅の始まり

12.怒りの矛先

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「レオ、落ち着け。」

「…ああ、わかってる。」

目の前で黒い布に包まれてリリーが消えた。
どこかへ転移させられたのだろう。
おそらく、リリーはわざと逃げなかった。
犯人の魔術師に会うためだろう。それはわかっている。
それでも、リリーが連れ去られたことに腹が立って仕方ない。

「ジョエル、リリーの行き先はすぐわかる。一緒に来るか?」

「もちろん。犯人はうちの国の者だろう。
 僕が一緒にいたほうが、後々のことを考えたらいいと思う。」

確かに、この国でリリーをさらったとしても、犯人がロードンナ国の者なら、
すぐさま処罰するのは難しい。
だけど、その場を王太子であるジョエルが見ていたと証言したら、
処罰しやすくなるだろう。相手が魔術師ならなおのこと。

「転移してリリーがいる場所に行くことは出来るけど、
 それだと相手に逃げられるかもしれない。
 場所はわかるから、こっそり近づいて様子をうかがう。」

「…いいのか?今すぐ転移していきたいんじゃないのか?」

「そりゃそうだよ。だけど、リリーだって魔術師だ。
 自分の安全は確保できる。
 それよりも、こんなことが何度もあったんじゃ俺の心臓がもたない。
 この一回で確実に相手を捕まえたいんだ。」

今すぐにでも転移したい気持ちをおさえるので精いっぱいだ。
転移を使わないように押さえつけている腕が痛いが、
その痛さが無かったら冷静でいられない。
勢いのまま転移して、リリーを連れて帰りたい。
だけど、リリーは考えがあって、わざと捕まったのだろう。
それを台無しにするのはダメだと思う。
…もちろん、これが終わったら、きっちり説教はするけれど。

「…シオン、あれって大丈夫なのか?
 レオめちゃくちゃ怒ってるよな?」

「姫さんが悪いから仕方ない。
 さっさと終わらせて、姫さん説教しないと。」

「あ、シオンも怒ってるのか…。」

「もちろんです。姫さまにはきっちりお話ししないといけませんね。」

「…。じゃあ、早く迎えに行こうか?」




つながっている糸をたどる感覚でリリーの居場所へと近づいていく。
たどり着いたのは、街の中心地に近い宿だった。
ジョエルがそれに気が付いて、力なくつぶやいた。

「うわ…僕たちが使ってる宿だよ。
 どこまで馬鹿なんだろう…。」


どうやらロードンナ国から来た一行が使っている宿らしい。
ここの一室にリリーがいる。気配がするので間違いない。
ロードンナ国の魔導士がさらったのが発覚したら、
すぐにでも戦争になりかねない事態なのだが、
どこまで予測して動いているのだろうか。




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