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4章 王妃と側妃
1.リーンハルト国王
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レオルドが廊下へ出て行った後、
泣きながら部屋の物をあちこちに投げているジョセに、ため息をついてしまう。
こんな結果を求めていたわけじゃなかったんだがな。
第一王子として生まれたが育ててくれたのは乳母で、
周りにいるのは文官と女官だった。
女王である母は忙しく、ほとんど顔を見ることも無かった。
父が誰なのか、しばらくは知ることも無かった。
父、と呼んでいいのかは未だにわからない。
母の王配だったシュベルト侯爵のことは知っていた。
だが、父として俺に関わってきたことは一度も無い。
一つ年下の弟とはたまに会っていた。王族教育が一緒だったからだ。
歳の差はあったが、弟レオルドのほうがはるかに優秀で、
むしろ俺の進度に合わせてもらっていたような気がする。
弟は王子だが王家のものではない。
それもよくわからなかった。
5歳の時、中庭でレオルドがシュベルト侯爵に叱られていた。
遠慮なしに頭を拳骨で殴られているのを見て、驚いた。
第二王子であるレオルドを殴れる臣下がいていいのかと。
そばにいた女官に聞くと、気まずそうにレオルド王子の父ですからと答えた。
何を言われたのかわからなかった。
レオルドの父ならば、俺の父でもあるのかと聞けば、そうですと言う。
だけど俺に父がいるなんて話は聞いたことがなかった。
めったに会えない母に会えるように女官長に頼んだら、
めずらしくすぐ会うことができた。
今思えばシュベルト侯爵のことを聞くとわかっていたからだろう。
「リーンハルト、あなたに父はいません。」
母はそう言った。
俺に父はいない。でも、レオルドには父がいる。なぜだ?
「リーンハルトの母は私ですが、レオルドの母は私ではありません。
レオルドは成人するまで王子の肩書はありますが、王子ではありません。
リーンハルトだけが国王になる権利を持つのです。
レオルドと比べてはいけません。
あの子が、あの子たちが持つ幸せを、少しだけ分けてもらっているのです。
だから、同じように物事を考えてはいけないのです。
あなたに父はいません。母だけで我慢してください。」
悲しそうな母に、それ以上聞くことは出来なかった。
俺に父はいない。シュベルト侯爵は俺の父ではない。そう理解した。
レオルドはおとなしい弟だった。
黙って本を読んでいるか、部屋にこもっているような子だった。
シュベルト侯爵が消えるまでは。
俺が8歳の時だった。シュベルト侯爵の妻が亡くなったと聞いた。
シュベルト侯爵の妻というのは、レオルドの母のことだった。
一度も王宮に来たことが無いのか、見たことはなかった。
シュベルト侯爵は妻の葬儀の後、妻の遺体と一緒に消えた。
何が起こっていたのか、俺は女官たちの噂から知ることになった。
幼馴染同士の婚約を壊し、無理やり王配にしたこと、
そのせいでシュベルト侯爵の妻が死を選んでしまったこと。
女王にはどうしようもなかったことだと、女官たちは同情していた。
母が俺たちは幸せを分けてもらっていると言った意味がよくわかった。
レオルドの、レオルドの家族の幸せを壊したのは母と俺の存在だろう。
母を亡くし、父に置いて行かれたレオルドは、
その日から別人のように性格が変わってしまった。
泣きながら部屋の物をあちこちに投げているジョセに、ため息をついてしまう。
こんな結果を求めていたわけじゃなかったんだがな。
第一王子として生まれたが育ててくれたのは乳母で、
周りにいるのは文官と女官だった。
女王である母は忙しく、ほとんど顔を見ることも無かった。
父が誰なのか、しばらくは知ることも無かった。
父、と呼んでいいのかは未だにわからない。
母の王配だったシュベルト侯爵のことは知っていた。
だが、父として俺に関わってきたことは一度も無い。
一つ年下の弟とはたまに会っていた。王族教育が一緒だったからだ。
歳の差はあったが、弟レオルドのほうがはるかに優秀で、
むしろ俺の進度に合わせてもらっていたような気がする。
弟は王子だが王家のものではない。
それもよくわからなかった。
5歳の時、中庭でレオルドがシュベルト侯爵に叱られていた。
遠慮なしに頭を拳骨で殴られているのを見て、驚いた。
第二王子であるレオルドを殴れる臣下がいていいのかと。
そばにいた女官に聞くと、気まずそうにレオルド王子の父ですからと答えた。
何を言われたのかわからなかった。
レオルドの父ならば、俺の父でもあるのかと聞けば、そうですと言う。
だけど俺に父がいるなんて話は聞いたことがなかった。
めったに会えない母に会えるように女官長に頼んだら、
めずらしくすぐ会うことができた。
今思えばシュベルト侯爵のことを聞くとわかっていたからだろう。
「リーンハルト、あなたに父はいません。」
母はそう言った。
俺に父はいない。でも、レオルドには父がいる。なぜだ?
「リーンハルトの母は私ですが、レオルドの母は私ではありません。
レオルドは成人するまで王子の肩書はありますが、王子ではありません。
リーンハルトだけが国王になる権利を持つのです。
レオルドと比べてはいけません。
あの子が、あの子たちが持つ幸せを、少しだけ分けてもらっているのです。
だから、同じように物事を考えてはいけないのです。
あなたに父はいません。母だけで我慢してください。」
悲しそうな母に、それ以上聞くことは出来なかった。
俺に父はいない。シュベルト侯爵は俺の父ではない。そう理解した。
レオルドはおとなしい弟だった。
黙って本を読んでいるか、部屋にこもっているような子だった。
シュベルト侯爵が消えるまでは。
俺が8歳の時だった。シュベルト侯爵の妻が亡くなったと聞いた。
シュベルト侯爵の妻というのは、レオルドの母のことだった。
一度も王宮に来たことが無いのか、見たことはなかった。
シュベルト侯爵は妻の葬儀の後、妻の遺体と一緒に消えた。
何が起こっていたのか、俺は女官たちの噂から知ることになった。
幼馴染同士の婚約を壊し、無理やり王配にしたこと、
そのせいでシュベルト侯爵の妻が死を選んでしまったこと。
女王にはどうしようもなかったことだと、女官たちは同情していた。
母が俺たちは幸せを分けてもらっていると言った意味がよくわかった。
レオルドの、レオルドの家族の幸せを壊したのは母と俺の存在だろう。
母を亡くし、父に置いて行かれたレオルドは、
その日から別人のように性格が変わってしまった。
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