浮気された聖女は幼馴染との切れない縁をなんとかしたい!

gacchi(がっち)

文字の大きさ
14 / 142
キリルside

4.おかえりなさい

しおりを挟む
神官宮に住まいを移して、もう一年が過ぎていた。

異世界から訪れるという聖女についても、
何代目かの神官隊長が書いた聖女の説明書というもので繰り返し勉強した。

聖女の魂はこの世界に帰ってくるものではあるが、
聖女自身にはこの世界の記憶がない。
異世界という違う世界から来るのだから、戸惑い嘆き悲しむ者もいるという。

この世界に戻ってこられるのは清い魂である上に魔力も多い者だ。
だからこそ、聖女の魂は異世界でも狙われることが多いらしい。
そのため聖女がこの世界に帰ってくるときに、
寄生する魂がついてきてしまうことも間々あるという。

二代前の聖女が帰ってきた状況の記録では、
聖女に叔父が襲い掛かっていた時にこの世界に転移してきたという。
すぐさま叔父は引き離され、犯罪者として牢に放りこまれることになった。

ごくまれに聖女の味方が一緒に転移してくることもあるそうだが、
ほとんどの場合は敵に襲われ、身の危険を感じた時に転移してくるらしい。

もし…俺の聖女が誰かを連れてきた時には、速やかに引き離そうと決意した。


「キリル隊長。」

「なんだ?」

「また面会の申請が来ておりますが、どうなさいますか?」

「…ゲルガ侯爵家なら断ってくれ。」

「かしこまりました。」

またリリアナ嬢か。
婚約解消してしばらくはおとなしくしていたようだが、
一年が過ぎてから何度も俺に会いたいと面会の申請が来る。

神官隊長は一年を過ぎれば印を捨てることもできる。
高位貴族であれば婚約者と交わり、印を捨てて元の身分に戻る者がほとんどだ。
おそらくリリアナ嬢は俺もそうすると思っているのだろう。

別れ際にあれだけきつく言ったことは、
リリアナ嬢の中では無かったことになっているに違いない。
婚約解消した後の夜会やお茶会では、
俺を一途に想い役目が終わるのを待っていると話していたようだ。

あれほど令息たちと浮名を流していたけれど、今はそれもない。
だからと言って遊んでいたのが無かったことにはならず、
事情を知っているものたちには冷たい目で見られているらしい。


あの日、あの浮気現場を見ることがなかったとしたら、
その思いにほだされていたかもしれないけれど。
俺を慕っていると言ったあの唇を他の男に簡単に許すのを見て、
気持ち悪いと思ってしまった以上…リリアナ嬢を愛することはできない。
早くあきらめてくれることを祈るしかなかった。



神官宮の執務室を出て訓練場へと向かって歩いていると、
遠くから誰かが俺を呼ぶ声が聞こえた。

この神官宮で大声をあげるなんて…通常はあり得ない。
何か緊急事態が起きたのか?

「俺はここだ!何用だ!?」

「あぁ、こちらに!キリル隊長、聖女の間が光っています!
 今、神官隊員が向かったところです。
 キリル隊長も早く向かってください!」

「…っ!!わかった!」

聖女の間が光ってる!?聖女が訪れたのか!
踵を返して走り出したが、それをとがめるものなどいなかった。


聖女の間にたどり着くと、男の怒声が聞こえてきた。
泣き声に近いような女の声も。
どちらもこの場に転移してきたことを責めているようだ。

「ここはどこなんだ!責任者は誰だ!
 俺たちをどうするつもりなんだ!」

「私たちを帰して!!」

背の高い男と、黒髪の小さな女が神官隊員につかみかかって文句を言っている。
この二人は聖女ではない。魂が汚れているのが見える…。
俺に視線で確認してきた隊員に顔を横に振って違うと伝える。

…では、聖女はどこに。
聖女の間をのぞくと、奥に一人横たわっているのが見える。
転移で力を使い切ったのか、意識が無いようだ。
あぁ、彼女だ。俺の対。ようやく…ようやく会えた。

騒いでいるものたちは興奮しすぎていて、俺が来たことに気が付かなった。
男と少女が他の隊員に気を取られているうちに、するりと中に入る。
部屋の奥へと入り、まだ横たわっている聖女の後ろからゆっくりと近づく。

俺の魔力に反応して、聖女との間に細い糸がつながれる。
何の儀式もしていないから、ただつながっているだけの細い細い線。
そこから力が伝わっていくと、聖女が気を取り戻したのがわかった。


ゆっくりと起き上がって周りを見渡した後、
ため息をつきそうなほどがっかりした様子の聖女に声をかける。

「あの…具合は大丈夫?」

「え?」

「シー静かに。向こうに気が付かれたくない。
 いい?今から質問するけど、首を振って答えてくれる?」

こちらを向いた聖女に、目が合ったとたん、心臓がつかまれるほどに心を奪われる。
光をまとったような薄茶色の髪に、大きく開かれたまっすぐな瞳。
左右対称の人形のような整った顔立ちに小さめなくちびる。
真っ白な肌が、少しだけ赤みがさして…見つめ合う。

急に話しかけた俺に驚きながらも、真剣な顔してうなずいてくれた。

ようやく会えた。俺の聖女。
まずは…寄生する魂から離してあげないと。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

処理中です...