浮気された聖女は幼馴染との切れない縁をなんとかしたい!

gacchi(がっち)

文字の大きさ
55 / 142
神の力

9.めんどくさい令嬢(カイン)

しおりを挟む
最初からこの夜会はおかしかった。
前もって日程の相談もなく夜会の開催を決めたこともそうだが、
王族から再三の面会要請が来ていた。

ただの面会要請で理由があればいいのだが、そうではなかった。
王宮へ謁見にこい、というものだった。

ありえない。
むしろお前たちが聖女に謁見を願い出るのが当然だというのに。
まさか王族が誰一人入場しないで聖女を迎えるとは。
これほどまでに何も知らされていないとは思わなかった。

あれらが身内だと思うと、本当に嫌になる。

飲み物が欲しいと無邪気に言うミサトに癒されながら、
手を取って飲み物が置かれたテーブルへと向かう。

ミサトやユウリに俺やキリルの身分を教えていないのには理由がある。
このお披露目の夜会で隊長が出た家に下手なことをさせないために、
身分を伝えるのは夜会の後だと決められている。

昔、お披露目の夜会で自分の両親に挨拶させた隊長がいたとかで、
このような規定がつくられている。

もちろん俺やキリルがそんな馬鹿なことをするわけがないが、
それとは別に俺はミサトに話したくないと思っていた。

優しいミサトのことだから、俺の身内だとわかったら優しくしようとするだろう。
だけど俺はそんなことは望んでいない。

むしろ、こんなバカなことをしでかした今となっては、
身内だと知られていないうちに軽蔑してくれたほうがいいとさえ思う。



「どれにする?」

「この黄色いのはジュース?」

「リンゴのお酒だね…ジュースはこっちだけど、リンゴでいいの?」

「うん、これにする。カインは?」

「同じのにするよ。じゃあ、戻ろうか。」

振り返ったところで、進路をドレスの集団にふさがれていた。
一人の令嬢が前に立ち、後ろに三人ほど令嬢が付き添っている。
顔を見て、めんどくさいのにあったと思わず顔をしかめそうになる。


「カイン様、お久しぶりですわね。
 ずっとお会いしたいと公爵家に願い出ていましたけれど、
 まさか神官宮にいらっしゃったとは思いませんでしたわ。」

「そこをどいてくれ。」

「カイン様、お忙しいのですね…。
 ええ、そのことは十分にわかっております。
 わたくし、隊長のお仕事を終えるのをお待ちしております。
 カイン様のためなら、いくらでもお待ちしますわ。」

「…そこをどけ。」

全く俺の話を聞こうとしない令嬢にうんざりする。
こいつはいつもこうだ。
俺が何を言っても、自分が言いたいことしか言わない。
もう無視して立ち去ろうとしたら、追いすがるように声が重なる。

「お待ちください!カイン様の隣に立ち、
 この国の王妃として支えていけるのはわたくしだけです!」

「は?カイン、国王なの?」

思わず発言してしまったのだろう。
ミサトがしまったって顔している。

「そこの女。カイン様を呼び捨てにするなんて、なんて無礼な。
 聖女が平民だというのは本当のようですわね。
 まさかカイン様が尊い方だというのを知らないとは。控えなさい。」

「…っ。」

睨みつけられて怯えたのか、黙ってしまったミサトを抱き寄せる。
ミサトのそんな顔は見たくない。
腕の中に抱くと、少しだけミサトの顔が緩んでほっとする。

「カイン様、そのような下賤のものにふれてはいけません!」

「下賤なのはお前だ!バルバラ。」

「え?」

半ば怒鳴るように非難すると、きょとんとした顔でこちらを見る。
本当にこの国のものはどうなっているんだ。
王族だけじゃなく貴族まで教育が足りていないというのか。


「聖女という立場は王族よりも上だ。
 国王よりも上だというのは、六か国条約によって決められている。
 それに、もともと貴族社会のないところから帰ってくるとはいえ、
 これだけの魔力を持つ魂だ。
 こちらに生まれていれば、侯爵家以上に生まれていたことは間違いない。」

「え?…でも…」

「本来ならば、王族もそろってから聖女をお迎えするのが常識だというのに、
 この国の王族は腐ってしまったようだな。」

周りがざわつくが、もう気にしない。
どっちにしろどちらが上か言って聞かせなくてはいけない。
少しでも賢いものがいれば、すぐに態度を改めるだろう。


「それにしても、モンペール公爵家も落ちたものだ。」

「なぜですか!カイン様!」

「俺は一度たりともお前に名を呼ばせる許可を与えていない。
 王子として召したことも無ければ、お茶を共にしたことすらないというのに、
 王妃か…偉く出たものだ。
 ダニエルが王太子になると言われているというのに、国を割る気なのか?」

「ですが…皆もカイン殿下が素晴らしい王になると…。
 だからわたくしは王妃となって支えようと…。」

「お前など必要ない。美しくも賢くもなく、立場もわきまえない。
 これでどうして王妃になれると思えるんだ。」

「…そんな…。」

崩れ落ちそうになったのを後ろの令嬢たちが支えて、何とか立たせる。
少し離れたところでモンペール公爵がおろおろしているのが見えて、声をかける。

「モンペール公爵!見てないで引き取りに来い!」

「も、申し訳ございません!!」

「二度と、このようなことが無いように、領地で学びなおさせろ。
 いいか?聖女の前に顔出すことがないように徹底しろ。」

「はっ…申し訳…」

「いいから、引き取って帰れ!」

バタバタと公爵家の者たちが広間に入ってきて、令嬢を抱えるように連れだしていく。
年老いて後妻から産まれた女の子だからと言って甘やかして育てたのは公爵の責任だ。
聖女を下賤のもの呼ばわりした責任もきっちりとってもらわなければならない。

未婚の令嬢の発言だからと甘く見ることはしない。
こういうことを見逃すことで聖女の危険が増えることを知っているからだ。

「ミサト、大丈夫か?」

「…カインが怒るの初めて見たよ。
 カインのほうこそ、大丈夫?まずいことになってない?」

「大丈夫だよ。戻ろうか。」

「うん。」

聖女の席に戻ろうとして気が付いた。
ユウリの表情が抜け落ちたようになっていて、キリルが背に隠そうとしている。

何が起きている?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

処理中です...