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神の力

10.一花と王子

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金髪碧眼でどことなく頼りなさそうなダニエル王子が、
手を引いて連れてきた令嬢は一花だった。

私や美里が着ているドレスよりもスカートが大きくふくらんだそれは、
どこから見ても完全にウエディングドレスだった。

うれしそうに入場してくる一花に、思わず動きを止めてしまう。
聖女席を示す王子の声でこちらを向いた一花は、無邪気に笑った。
その笑顔を見て、逃げ出したいのに足が動かなくなる。

私が動けなくなったのに気が付いたのか、すぐにキリルが私の前へと立ち、
一花から私が見えないように隠してくれた。

「…もう一人の聖女!?」
「三人目の聖女なのか?」
「黒髪の聖女だと?」

あちこちから貴族が一花を聖女だと勘違いした声が聞こえる。
色素が薄いこの世界の人たちの中で、黒髪黒目の一花は異質に見えた。
その一花が真っ白なドレスをまとい、こちらへと近づいてくる。

逃げ出したくなるのを押さえ、キリルの背中の服をきゅっとつかんだ。

「どういうつもりだ!」

あと少しで普通に会話できる距離になったところで、
キリルがダニエル王子に怒鳴りつけた。
怒鳴りつけられたダニエル王子は一瞬怯んだように見えたが、
すぐに表情を変え、こちらを睨みつけて叫び返した。

「どういうつもりだはこちらのセリフだ。」

「なんだと?」

「同じように向こうの世界から来たイチカを遠ざけて、
 ユウリだけを隔離して何を企んでいる!」

「はぁ?」

「イチカとユウリとユウリの恋人のリツはいつでも三人だったんだ。
 それなのに、こちらに来た日からユウリだけ遠ざけて、
 何を吹き込んだのか知らないがイチカとリツを拒絶させた。
 聖女の意思は尊重されるものなのだろう?
 なぜ、そのような非道な真似をする!」

どうやら王子は一花のいうことを信じ切っているようだ。
私を隔離したキリルは何か企んでいると思われた?

「……ダニエル、お前王子として何を学んできたんだ?」

「キリル、無礼だぞ!
 いくら王位継承権があるからといって、王族にその態度は無いだろう!」

「無礼なのはお前だ。神官隊長は国王よりも上の身分だ。
 当然、王太子にもなっていないお前よりも上なんだぞ。
 そのくらいの常識すらないというのか?」

「そんなの聞いたことが無いぞ!」

「信じられない失態だな…後日、国王に責任を問うが…。
 そのものは聖女ではない上に、聖女に害をなすものだ。
 王宮に預ける時にそう伝えたはずだな。違うか?」

「そのような嘘を信じられるか。
 こんな健気な少女が害をなすわけないだろう。
 お前はユウリだけ隔離して自分の言うとおりに聖女を動かすつもりか?
 それともイチカとリツを人質にして言うことを聞かせているのか!」

「…話にならないな。」

完全に一花の言うことだけを信じている王子に、
キリルはこれ以上話しても理解させるのが難しいと思ったようだ。


「あの…キリルは何もしていません。
 私が一花とは会いたくない、そうお願いしました!」

キリルから説明してもダメなら、自分で誤解を解けば…そう思って声を上げたが、
ダニエル王子は痛ましいものを見るような目でつぶやいた。

「…聖女はもう洗脳されているのか。」

「悠里、やっと会えたのに…どうしてそんな悲しいこと言うの?
 やっぱりその男に変なこと吹き込まれているのね!
 すぐに助けだすから!
 ダニエル王子も手伝ってくれるって約束してくれたの。
 だから、勇気を出して、こちらに戻ってきて…。」

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