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聖女としての働き

11.協力者

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「悠里、ようやく会えた。
 ここから一緒に逃げよう?」

「嫌よ。」

即答で拒否すると、さすがに律は笑顔から困った顔に変わる。
それでも、私が本当に嫌がっているとは思っていないようだ。

「心配しなくてもいい。
 協力してくれる人がいるんだ。
 ここを出てもちゃんと生活できる。
 もう変なやつらにつかまらないように守ってもらえる。
 だから、行こう?」

やっぱり私がここにいるのは仕方なくだとか、脅されているんだと思っている?
そのことは不思議ではなかったが、律の言葉に引っかかる。

協力してくれる人?守ってもらえる?
律が貴族牢から出て、ここに入り込めたのはその協力者がいるから?


「ねぇ、その協力者って誰?
 その人が律をここまで連れてきたの?」

「誰って、ここを出ればすぐに会えるよ。
 大丈夫、優しい人だって。」

「そんなのわかんないじゃない。
 どうしてその協力者を信じられるのよ。」

「だって、その人は俺と悠里のことを応援してくれるって。
 引き離されて可哀そうだって同情してくれたんだ。
 その人も好きな人と引き離されて悲しかったからって。
 何の利益もないのに協力してくれるって言うんだし、
 そんな人なら信じられるだろう?」

応援して、同情してくれた?その人はどうして律のことを知っているの?
律の話を聞けるような人物が協力者?
貴族牢で監視していることを知っている誰か?

聖女に敵対している人なのかはわからないが、
その人が聖女に近い場所にいるのは間違いない。
私と美里の情報でも詳しいことは知られていないはずなのに、
一緒に来た律のことを知っているのは関係者しかありえない。

さすがに一花のことは王子のせいで知られてしまっているようだけど…。

いったい誰なんだろうと考えこんでいると、律が焦ったように声をひそめた。

「さぁ、いつまでもここにいるのはまずい。
 誰かに見つかってしまう。急がないと。
 早く行こう。」

「……。」

どうしようか。
いざとなれば大声で叫ぶしかないが、この付近には隊員がいない。
走って逃げても律には追い付かれてしまう。
せめて剣を持ったままだったら、振り回して威嚇できたのに。

「さ、行こう。」

手をつかまれそうになって、とっさによける。
どうしても律にふれられたくない。
よけられたことで律は一瞬だけ悲しそうな顔をしたけど、すぐに微笑みに変わった。

「ふれられるのが苦手なのはわかってる。
 さわらないから、行こう。ほら。」

そういえば、昔から無理に手をつながれるようなことは無かった。
私と一緒にいたがること以外は、優しい幼馴染だったと思う。
あんなことがなければ、私に執着することがなければ、普通の人間だった。

…今はおとなしく従っておいたほうがいいかもしれない。
無理に逃げようとすれば、律も私を逃がさないように捕まえるだろう。

行く方向を示して手招きする律に、仕方なくついていく。
どこか隙を見て逃げるか、隊員を探そう。
私が歩き始めたのを見て、律はほっとして前を向いた。

そこから少し歩いたところで、さっきの女性に出会った。
走り回って私を探していたのか、息が上がっている。

「あぁ、見つけたのね、よかった。
 すぐに逃げるわよ。」

この女性が協力者かと思ったけれど、他にもいるはずだ。
この二人だけで神官宮に入れるとは思わない。
それに…いつもならいるはずの場所に隊員がいない。
もしかして、神官宮の隊員を動かせるような人が背後にいる…?

「どうやって逃げる気なの?
 ここは神官宮だから、簡単には出れないでしょう?
 外とつながっているところには必ず隊員がいるんだから。」

「心配しなくてもいいわ。
 今なら誰もいないから。
 黙ってついてきて。」

「ふぅん。」

間違いなく、協力者がいる。おそらくこの神官宮にも。
キリルとカインさんを慕う人ばかりのこの神官宮に、そんな人がいるなんて。
信じられない思いでいっぱいになる。

律と女性が逃走経路を話し合っているのを見て、
少しずつ歩くスピードを遅くする。
二人との距離が離れていくの確認して気配を消そうとした。
今なら逃げられる?どこにいけば助けを呼べる?
美里たちがいる訓練場からはかなり離れてしまった。

この近くには王宮へと続く小道がある。
今ならそこへ逃げられるかもしれないけれど…。
王宮へと逃げても、どこにいけばいいのかわからない。

でも、このままついていくわけにはいかない。
このままついていったら、連れ去られてしまう可能性が高い。
決断を迫られていた。


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