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19.私に必要な知識
「うちの図書室、か」
「あ」
しまった。まだ私が伯爵令嬢だって言ってないのに。
家に図書室があるなんて、貴族くらいなものなのに。
どうしようと焦っていたら、ジルベール様に頭をなでられた。
「お前が貴族だというのはわかっている。
平民とは話す言葉が違うからな」
「え?そうなのですか?」
「ああ。貴族の屋敷に仕える平民はそのために教育を受けている、
平民の中でも上級市民と言われる者たちだ。
だから、最初からシャルが貴族令嬢だというのはわかっていた」
平民と言葉が違うなんて、知らなかった。
屋敷にいる平民とも違うのなら、私は普通の平民に会ったことがない。
それなら最初から貴族令嬢だと知って保護してくれていたことになる。
どうして事情を無理やり聞き出さなかったんだろう。
もめ事に巻き込まれる可能性があるのに。
「最初に会った時、大やけどをして死にかけていた。
シャルも家に帰りたいとも言わなかった。
お前を殺そうとしたのは、家族なんだろう?」
「……はい」
「そんな泣きそうな顔するな。
俺がもうそんなことはさせないし、
シャルはずっとここにいていいんだ」
「ずっと?いいのですか?」
「ああ」
よかった。いつかは追い出されるんじゃないかって不安だった。
家のことが知られたら困るんだと思っていたし、
身体が元にもどれば研究対象でもなくなるからって。
「シャルは俺の助手にする予定だ。
マリーナに勉強をみるようにと言ったのはそのためだったのだが」
「シャル様は今の時点で卒業以上の学力をお持ちです。
ですが、礼儀作法はもう少し練習したほうがいいと思いますし、
一般的な常識は覚える必要があると思います」
「そのようだな。
足りないと思うところをみてやってくれ」
「かしこまりました」
次の日からもジルベール様の塔に通い、
マリーナさんに勉強をみてもらう。
勉強というよりは、高位貴族の礼儀作法だったり、
お金の使い方や平民の暮らしについてなどの、
この国に住む者なら誰でも知っていることを学んだ。
私にとってはどれも知らないことばかりで、
あのまま閉じこもっていたら死ぬまで知らなかったかもしれない。
ジルベール様はずっと私の解呪方法を探していたようで、
数日おきにいろんな解呪を試された。
そうして一か月が過ぎた。
夕食を取った後も、ジルベール様は何かを書きつけていた。
昨日あたりからずっとこんな感じだったので、
私はおとなしく背中にもたれかかって本を読んでいた。
「よし、これで半分くらいは解呪できるはずだ」
「半分ですか?」
「いろんな原因が重なって、こうなっている。
そのうちの一つの原因を解こう。
シャル、ここに座っていて」
「はい」
ベッドの上に降ろされたから、その真ん中に座る。
ジルベール様が何かを唱えると、私の頭上に輪っかが浮かび上がった。
古語と言われた文字が書かれていたが、他の言語も混ざっているようで読めない。
魔術のことも学び始めたけれど、
ジルベール様が使う魔術は高度すぎてまだ理解できない。
マリーナさんはわかるのか、目を輝かせて見ている。いいなぁ。
いくつかの輪が私の身体を通り抜け、消えていく。
終わったのかなと思ったら、身体が大きくなっていくのがわかった。
「わぁっ」
「大丈夫だから、落ち着け」
「は、はい」
少しずつ、視線が高くなっていく。
ジルベール様に近づいて、そして止まった。
「まだ小さい。失敗したのか?」
「……いえ、これで普通の大きさです」
もともと私が小柄だと知らないからか、
ジルベール様は失敗したと思ったらしい。
申し訳なくて、恥ずかしくなる。
「あぁ、そうなのか。じゃあ、とりあえずは成功だな」
「はい!ありがとうございます!」
ハッと気がついて服を確認してみたけど、どこも破れていない。
さすがに小柄だといっても、三歳の大きさとは比べ物にならないと思うのに。
あちこち服を見ていたからか、ジルベール様が笑っている。
「その服、普通の服だと思っていたのか?」
「え?」
「マリーナが糸から作っているんだ。
普通のわけがない。
大きさが変わっても大丈夫なようにできている」
「えええ!?マリーナさん、すごい!」
「ふふふ。ありがとうございます。
シャル様の元の大きさがわかりませんでしたので、
倍の大きさになっても大丈夫なように作っておきました」
「わぁぁ。ありがとうございます!」
よかった。マリーナさんの服じゃなかったら、
また全裸で慌てるところだった……。
さすがに元の大きさに戻ったのに、それは止めてほしい。
これで一人で歩けると思って、
ベッドから降りようとしたら、なぜか抱き上げられた。
「え?」
「身体の大きさは戻ったが、猫耳と尻尾はそのままだからな。
歩く練習してからじゃないと無理だろう」
「ええぇ?」
鏡を見たら、本当に猫耳は残ったまま。
大きさは元に戻ったために違和感がある。
「猫耳も戻ることってできるんでしょうか」
「そのうちな。
害があるわけじゃないから、それほど心配する必要はない」
「それなら」
心配しなくていいのなら、考えないことにしよう。
ジルベール様なら、きっと解呪してくれるだろうし。
「大きさが戻ったのなら、学園に通ってみるか」
「え?」
「編入試験を受ければ、間に合うだろう」
「ええええ?へ、編入?私、通うんですか!?」
ジルベール様の助手になるためには、
短期間でも学園に通わなくてはいけないそうで、
そのために勉強をさせていたと言われ、マリーナさんにもうなずかれる。
「手続きをしてきますね。試験は問題ないでしょうから」
「ああ、頼む」
こうして編入試験を受けさせられた結果、
私は無事に三学年に編入することになった。
半年ほど通えば卒業できるらしい……けれど。
「あの……ジルベール様、私の話を聞いてもらえますか?」
ジルベール様にちゃんと言わなくてはいけない。
学園にはドリアーヌがいるのだから。
「あ」
しまった。まだ私が伯爵令嬢だって言ってないのに。
家に図書室があるなんて、貴族くらいなものなのに。
どうしようと焦っていたら、ジルベール様に頭をなでられた。
「お前が貴族だというのはわかっている。
平民とは話す言葉が違うからな」
「え?そうなのですか?」
「ああ。貴族の屋敷に仕える平民はそのために教育を受けている、
平民の中でも上級市民と言われる者たちだ。
だから、最初からシャルが貴族令嬢だというのはわかっていた」
平民と言葉が違うなんて、知らなかった。
屋敷にいる平民とも違うのなら、私は普通の平民に会ったことがない。
それなら最初から貴族令嬢だと知って保護してくれていたことになる。
どうして事情を無理やり聞き出さなかったんだろう。
もめ事に巻き込まれる可能性があるのに。
「最初に会った時、大やけどをして死にかけていた。
シャルも家に帰りたいとも言わなかった。
お前を殺そうとしたのは、家族なんだろう?」
「……はい」
「そんな泣きそうな顔するな。
俺がもうそんなことはさせないし、
シャルはずっとここにいていいんだ」
「ずっと?いいのですか?」
「ああ」
よかった。いつかは追い出されるんじゃないかって不安だった。
家のことが知られたら困るんだと思っていたし、
身体が元にもどれば研究対象でもなくなるからって。
「シャルは俺の助手にする予定だ。
マリーナに勉強をみるようにと言ったのはそのためだったのだが」
「シャル様は今の時点で卒業以上の学力をお持ちです。
ですが、礼儀作法はもう少し練習したほうがいいと思いますし、
一般的な常識は覚える必要があると思います」
「そのようだな。
足りないと思うところをみてやってくれ」
「かしこまりました」
次の日からもジルベール様の塔に通い、
マリーナさんに勉強をみてもらう。
勉強というよりは、高位貴族の礼儀作法だったり、
お金の使い方や平民の暮らしについてなどの、
この国に住む者なら誰でも知っていることを学んだ。
私にとってはどれも知らないことばかりで、
あのまま閉じこもっていたら死ぬまで知らなかったかもしれない。
ジルベール様はずっと私の解呪方法を探していたようで、
数日おきにいろんな解呪を試された。
そうして一か月が過ぎた。
夕食を取った後も、ジルベール様は何かを書きつけていた。
昨日あたりからずっとこんな感じだったので、
私はおとなしく背中にもたれかかって本を読んでいた。
「よし、これで半分くらいは解呪できるはずだ」
「半分ですか?」
「いろんな原因が重なって、こうなっている。
そのうちの一つの原因を解こう。
シャル、ここに座っていて」
「はい」
ベッドの上に降ろされたから、その真ん中に座る。
ジルベール様が何かを唱えると、私の頭上に輪っかが浮かび上がった。
古語と言われた文字が書かれていたが、他の言語も混ざっているようで読めない。
魔術のことも学び始めたけれど、
ジルベール様が使う魔術は高度すぎてまだ理解できない。
マリーナさんはわかるのか、目を輝かせて見ている。いいなぁ。
いくつかの輪が私の身体を通り抜け、消えていく。
終わったのかなと思ったら、身体が大きくなっていくのがわかった。
「わぁっ」
「大丈夫だから、落ち着け」
「は、はい」
少しずつ、視線が高くなっていく。
ジルベール様に近づいて、そして止まった。
「まだ小さい。失敗したのか?」
「……いえ、これで普通の大きさです」
もともと私が小柄だと知らないからか、
ジルベール様は失敗したと思ったらしい。
申し訳なくて、恥ずかしくなる。
「あぁ、そうなのか。じゃあ、とりあえずは成功だな」
「はい!ありがとうございます!」
ハッと気がついて服を確認してみたけど、どこも破れていない。
さすがに小柄だといっても、三歳の大きさとは比べ物にならないと思うのに。
あちこち服を見ていたからか、ジルベール様が笑っている。
「その服、普通の服だと思っていたのか?」
「え?」
「マリーナが糸から作っているんだ。
普通のわけがない。
大きさが変わっても大丈夫なようにできている」
「えええ!?マリーナさん、すごい!」
「ふふふ。ありがとうございます。
シャル様の元の大きさがわかりませんでしたので、
倍の大きさになっても大丈夫なように作っておきました」
「わぁぁ。ありがとうございます!」
よかった。マリーナさんの服じゃなかったら、
また全裸で慌てるところだった……。
さすがに元の大きさに戻ったのに、それは止めてほしい。
これで一人で歩けると思って、
ベッドから降りようとしたら、なぜか抱き上げられた。
「え?」
「身体の大きさは戻ったが、猫耳と尻尾はそのままだからな。
歩く練習してからじゃないと無理だろう」
「ええぇ?」
鏡を見たら、本当に猫耳は残ったまま。
大きさは元に戻ったために違和感がある。
「猫耳も戻ることってできるんでしょうか」
「そのうちな。
害があるわけじゃないから、それほど心配する必要はない」
「それなら」
心配しなくていいのなら、考えないことにしよう。
ジルベール様なら、きっと解呪してくれるだろうし。
「大きさが戻ったのなら、学園に通ってみるか」
「え?」
「編入試験を受ければ、間に合うだろう」
「ええええ?へ、編入?私、通うんですか!?」
ジルベール様の助手になるためには、
短期間でも学園に通わなくてはいけないそうで、
そのために勉強をさせていたと言われ、マリーナさんにもうなずかれる。
「手続きをしてきますね。試験は問題ないでしょうから」
「ああ、頼む」
こうして編入試験を受けさせられた結果、
私は無事に三学年に編入することになった。
半年ほど通えば卒業できるらしい……けれど。
「あの……ジルベール様、私の話を聞いてもらえますか?」
ジルベール様にちゃんと言わなくてはいけない。
学園にはドリアーヌがいるのだから。
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