黒猫令嬢は毒舌魔術師の手の中で

gacchi(がっち)

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20.打ち明ける

「あの……ジルベール様、私の話を聞いてもらえますか?」

ジルベール様にちゃんと言わなくてはいけない。
学園にはドリアーヌがいるのだから。

部屋には私とジルベール様だけ。
マリーナさんは私の夜の支度を終わらせて、部屋から出て行った。

身体が元の大きさに戻ってから、
さすがに入浴と着替えはマリーナさんが手伝ってくれることになった。
それでも、夜はジルベール様と一緒に寝ている。
まだ身体が不安定だから、長い間離れるのは心配だそうだ。

ベッドに入って寝ようとした時、
今までずっと黙っていた事情を説明しようと思った。
このまま学園に編入してしまったら、
ドリアーヌが何かしてくるかもしれない。

「聞こう」

「……私の名前はシャルリーヌ・アンクタン。
 アンクタン伯爵家の長女です。
 あの日、私は妹のドリアーヌに襲われ、
 気がついた時にはあの姿になっていました」

「襲われた理由は?」

「わかりません。どうして?と聞かれた気がしますが、
 逃げるのに必死で何が言いたかったのかわかりませんでした」

「ドリアーヌ嬢は知っている。
 婚約を申し込まれたが断った」

そうだ。別荘を出る日、ドリアーヌはジルベール様に婚約を申し込んでいた。
異母妹のしたことが恥ずかしい。

「ドリアーヌが失礼なことを」

「気にしなくていい。異母妹で仲もよくないのだろう。
 シャルのせいではない。
 伯爵の育て方が悪いのだ」

母親が違うことを知っていたとは。
アンクタン伯爵家は特に裕福でも特別職についているわけでもない。
伯爵家の中でも中位くらいの平凡な家だと思っていた。

「シャルの母方の祖父は二代前の宰相だ。
 ラウルト侯爵家は王弟が婿入りしたこともある名家だ」

「……知りませんでした」

お母様のことは誰にも聞けなかった。
私を産んだことで亡くなったお母様。
そのせいか、母方の親族とは会ったこともない。

「今の侯爵はシャルの従兄にあたる人だ。
 先々代と先代侯爵が立て続けに亡くなったせいで、
 シャルのことまで気にしていられなかったのだと思う」

「嫌われていたわけではないと?」

「嫌ってはないと思うが、シャルの母は二女で、妹もいる。
 伯母たちやその子どものことまで面倒はみれないのだろう。
 急に爵位を継ぐのは本当に大変だから」

「そう、でしたか」

憎まれているのかと思った。
いるはずの祖父や祖母に会ったこともなかったから。
私は産まれたばかりだから、お母様の葬儀の記憶もない。
その時にはきっといたのだと思う。

「俺に素性を話したのは学園に行くからか?」

「はい。ドリアーヌが学園に通っているはずです。
 二学年だと思いますが、それでも会う可能性があるのではと思い」

「そうだな。それは心配していた」

ん?心配していた?

「ああ、シャルがアンクタン伯爵家の令嬢なのはわかっていたよ」

「は?」

「シャルリーヌって名乗ったじゃないか」

「ええ?」

たしかに名乗った。シャルリーヌだと。
え?その時点でわかっていたの?

「あの日、俺はシャルに会いに行ったんだ」

「え?」

「伯爵にシャルリーヌとの婚約を申し込んでいた」

あまりに驚きすぎて何も言えないでいると、
ジルベール様はあの日どうしてあそこにいたのかを教えてくれた。

「伯爵に婚約を申し込んだのは、もう一年近く前のことだ。
 それなのに黒髪のシャルを隠そうと、
 色々と言い訳をしてなかなか会わせてくれなかった。
 だから別荘に会いに行った。
 あの日、シャルに会ったらその場で連れ出す予定だった」

私が別荘にいたのは、ジルベール様に会うためだった?

「やっと会えると思っていたら、出てきたのは異母妹のほうで、
 伯爵は異母妹と婚約したらどうかと言ってきた。
 それを断り、シャルでなくては駄目だと」

思い出した。ドリアーヌが言っていたの。
なんでシャルリーヌなの、って。
あれはどうしてジルベール様に婚約を申し込まれたのが、
私なのかって怒っていたんだ。

「シャルが大やけどを負っていたのは、
 ドリアーヌの火属性で攻撃されたからだろう。
 俺が婚約を申し込んだからじゃないのか?
 すまなかった」

「え。ジルベール様のせいじゃありません。
 怒ったからと言って、攻撃魔術を使ったドリアーヌが悪いのです」

あれからマリーナさんに教わって、
魔術を使う時の制限があることを知った。
魔術院の魔術師でも好きに使っていいわけではない。
ましてや人に攻撃魔術を使うようなことはあってはならないと。

「保護できたのは本当に偶然だった。
 シャルだとわかって、助けられて本当によかったと思ったけれど、
 保護した日にそのことを追及してしまえば、
 シャルはアンクタン家に帰ると言いそうな気がした」

「それは、はい」

帰りたくはなかったけれど、身元がわかられていると知っていたら、
引き留められても家に戻ろうとしただろう。
ジルベール様に迷惑はかけられないと。

あれはただのシャルリーヌだったから、
ジルベール様に甘えられたのだ。

「シャルが俺を信じて話してくれるのを待っていた。
 これを話したってことは、
 もうアンクタン家には帰らないと思っているからだろう?」

「……ここにいます」

ずっとここいいていいって言ってくれた。
学園に通って、卒業して、
ジルベール様の助手になるって決めている。
もうあの家には帰らない。

「うん、あの家に行かなくていい。
 シャルの家はここだから」

「はい」

よかったと安心したら、ぽろぽろと涙がこぼれてくる。
それをぬぐおうとしたら、ジルベール様の手が両頬にふれる。
涙をぬぐってくれるのかなと思ったら、
ゆっくりと唇が重なった。

「………ふぇ?」

「シャルはもう俺の婚約者なんだ。
 アンクタン家には王都に帰ってから連絡してある。
 シャルリーヌは婚約者としてうちに住まわせると」

「えええ?」

キスされたことが頭から飛んでしまうくらい驚いた。
ジルベール様の婚約者になっている?

「だから、シャルの家はここだ」

「んっ」

またキスされる。何か言おうとすると、キスされて言えなくなる。
長いキスが終わる頃には力が入らなくなって、
ジルベール様に抱きしめられる。

「もう隠し事はないか?」

「あ、ありません……」

「それなら、おやすみ」

「……はい」

いつもよりも密着するように抱きしめられて眠る。
ドキドキして眠れないんじゃないかと思ったけれど、
あまりにもいろんなことがありすぎて、
気を失うように眠ってしまっていた。





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