もう二度と助けを求めないでください

gacchi(がっち)

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49.つかの間の平和

夜会から一か月半が過ぎ、帝国での生活も落ち着いてきた。

ディアナ様は西の宮の女官長代理となり、女官と侍女の指導を始めた。

二の宮妃だったコリンヌ様とフレゴリ公爵夫人だったバルバラ様は、
どちらも離縁されて生家のアダーニ侯爵家に戻された。

そして、東の宮で嘘の噂を流していた侍女は、
アダーニ侯爵家の手の者だったということもわかったため、
アダーニ侯爵家も社交を十年禁じられることになった。

学園ではサンドラ様がエルドレドに行っただけでなく、
いつも一緒にいたセシリア様も見かけなくなった。

アデリナ様の話では、サンドラ様たちが社交を禁じられたことをきっかけに、
セシリア様の父ガッダ侯爵が娘たちがしていたことを知り、
セシリア様を謹慎させているのだとか。

セシリア様が何かしていたわけではないけれど、
側妃になろうとしていたサンドラ様を無責任に応援していた。

サンドラ様が社交を禁じられ、属国に嫁いだのにも関わらず、
セシリア様が何も罰せられていないことを責められる前に対処したのだろう。

そして、大きな変化があった。
お父様が公爵位を叔父様に引き継ぎ、お母様と一緒に帝国に来ることになった。

お父様の身分はエルドレドの元公爵であり、
帝国の侯爵となったお兄様の家族として帝国貴族の一員でもある。

帝国に来てすぐにマティアス様に面会を申し込んでくれ、
おかげでお父様とお母さまと再会することができた。

「リンネア!!」

「お父様!お母様!」

久しぶりに会えた二人は少し痩せたように見える。
マティアス様に挨拶をした後、三人でゆっくり話すことができた。

一通りお父様とお母様の質問に答えた後、
気になっていたエルドレドの様子を聞いてみる。

「エルドレドは大丈夫なのですか?
 叔父様が優秀なのはわかっていますが、
 お父様が抜けても平気なのでしょうか?」

「わからないな……。
 ドミニクに引き継ぎはしっかりしてきたが、国王に文句を言えるとは思えん」

「お父様以外の公爵二人では難しいのですか?」

「文句を言うだけなら二人がいれば大丈夫だろうが、
 そのあと、国王も含めて四人で話し合う時にドミニクではまとめられないだろう」

それはそうかもしれない。
お父様は三公爵家の中でも年長でまとめ役のような立場だった。
公爵になったばかりの叔父様では難しいかもしれない。

それで困るのはどちらかといえば国王なのだけど。

「国王はよくお父様がいなくなるのを許しましたね?」

「私がいなくなるのはナタニエル様の横暴さが原因だったから、
 国王も文句は言えなかったんだろう。我が家はリンネアもいる。
 それ以上、帝国の不評を買いたくなかったんだろうな」

「そうですか……」

今は帝国の皇太子の婚約者になったとはいえ、
ずっとエルドレドの王太子妃になると思っていた。

今でもなりたいと思っているわけではないが、
自分が王妃になったらいい国にしたいと思っていたから複雑だ。

お父様も三公爵の一人として国に関わっていた。
引退してきたとはいえ複雑なのだろう。
二人して考え込んでいたら、お母様が明るい声を出した。

「そういえば、新しくナタニエル様の婚約者になった令嬢、
 リンネアも知り合いなのだとか?」

「ええ、そうよ。学園で一緒だったの」

「いろいろ帝国でもめて社交を禁じられたという噂はあったけれど、
 エルドレドでは問題なくなじめているわね」

「それなら安心しました。
 少し行き違いというか、思い違いというか……あったようですが、
 エルドレドで幸せになってくれるといいのですが」

「今のところ大丈夫だと思うわ。
 何より、ナタニエル様が大事にしているという話だもの」

「ええ?ナタニエル様が?」

ナタニエル様は自分とアンジェラ様以外はどうでもいいという考えの人だった。
そばに置いていた子爵令嬢ですらあまり大事にされていないように見えた。

それなのにお母様にまでそんな話が聞こえてくるほどだなんて。
何かナタニエル様に起きたのだろうか。

「あくまで聞いた話だけど、アンジェラ様は部屋に閉じこもっているのだとか。
 それなのにナタニエル様は婚約者とよく出かけているそうよ」

「まぁ……それが本当なら驚きます。
 でも、悪いことではないですよね。
 このままうまくいってくれるといいです」

「そうね。このままなら結婚式は今年のうちに行われるかもしれないわ」

「卒業を待たないでするのですか!?」

「そうなるかもしれないって話よ」

ナタニエル様が学園を卒業する前に結婚の噂が出るとは。
卒業までまだ半年以上もあるのに。

それだけ結婚を急ぐ理由が何かあるのかもしれない。
あとでマティアス様に報告しておこう。

そのあとは和やかに話がはずみ、あっという間にお父様たちは帰る時間になってしまった。
名残惜しかったけれど、これからは会おうと思えばすぐに会える。

ついこの間までは学園を卒業したらエルドレドの王太子妃になって、
国のためにこの身をささげて生きるのだと思っていた。
気が付けば婚約解消されて、帝国に送られ、マティアス様の婚約者になって、
家族もみんな帝国に来てしまった。

見えない糸でエルドレドに縛りつけられているような気がしていたけれど、
これでやっとそれがすべて切れた気がした。

執務室まで二人が帰ったことを報告しに行くと、
マティアス様は手紙を読みながら眉間にしわを寄せている。

何か嫌な報告でもあったのだろうか。

「ああ、リンネア。待たせてすまない。
 二人はもう帰ったのか?」

「はい。おかげでゆっくり話すことができました。
 ありがとうございます。
 あの……何かあったのでしょうか?」

「……いや、たいしたことではないのだが、
 夜会の時にユグドレア王国のエンダル侯爵と会ったのを覚えているか?」

ユグドレア王国のエンダル侯爵……
高齢で細身の男性使者を思い出した。

たしかあの時もマティアス様の様子はおかしかった。
きっとユグドレアに助けに行った時に何かあったんだと思っていた。

「覚えています。もしかして、王宮完成の式典ですか?」

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