もう二度と助けを求めないでください

gacchi(がっち)

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55.魔獣の森

初日に遅れが出た分はその後二日で進むことができ、
あと一日でユグドレアの王都に着くところまでやってきた。

大きな森の中に入ったらしく、まだ日中だというのに薄暗い。
日の光が入らないほど木が密集している。

「この森を抜けたら王都だ」

「王都の近くにこんなに大きな森があるのですね」

「ここが魔獣の森だ」

「ここが!?」

ユグドレアの魔獣の森といえば、魔獣の大発生が起こる場所……。
その中の道を通っていくのは大丈夫なのだろうか。

「普段は小さな魔獣しか出てこない。
 人がいる場所は警戒して寄ってこないんだ」

「魔獣は凶暴な生き物なんだと思っていました」

「魔獣の大発生中はそうだ。あれは魔力に酔っているんだ」

「魔力に酔う……?」

「実際にはどうなのかわからないが、そう見えた。
 おそらく何らかの原因があって、魔獣の魔力に影響が出る。
 そうなると魔力が多いものを襲おうとする」

「魔力を欲しがっているという事でしょうか?」

「たぶん、そうだ。ユグドレアの平民はほとんど魔力はない。
 だから、魔獣たちは一斉に王都にいる貴族を目指して暴走する」

「まぁ……」

この森が王都に近いというのなら、被害が大きいのもわかる。
どうして王都を魔獣の森から離れた場所にしなかったのだろう。

「安全な場所に王都を移すことはできないのですか?」

「難しいだろうな。魔獣自体は貴重な資源だ。
 肉は食料になり、内臓は薬になり、毛皮や角は飾りにもなる。
 貧しいユグドレアでは価値があるものなんだ。
 王都から離れてしまえば手に入りにくくなるだろう」

「それで……危険な場所でも離れないのですね」

「離れろと言っても、王族が離れないだろうな」

「命のほうが大事だと思いますが……」

「王都に着けばわかる。王族や貴族が死ぬことはめったにない」

「え?」

それはどういうことなんだろう。
気になったけれど、小さな魔獣が飛び出してきたために話は止まった。

結局、その森を抜けるまで四度ほど魔獣と遭遇した。
どれも小さい魔獣だったために騎馬隊が簡単に討伐できたようだ。

森を抜けた時にはもう日が暮れかけていた。

「このまま行けば夜になる前に王宮に着けるだろう」

「もうすぐですね」

すっかり日が落ちた頃、少し離れた場所に灯りが見える。
あれが王都だろうか。

近づいていくと、大きな壁の上に灯りがついていた。
その壁には大きな扉。

「あれはユグドレアの王都の壁だ。
 巨大な壁が王都をぐるりと囲むようにして守っている」

「だから魔獣が王都に入り込まないのですね」

「……壁の外側に建物があるのはわかるか?」

「建物?」

暗くなっているのではっきりとは見えないが、
小さな小屋のようなものが壁の周りにたくさんあった。

「小屋のようなものがありますね」

「あれは王都の中に入れない平民たちの家だ」

「まぁ……平民は壁の中に入れてもらえないのでしょうか」

「中に入った後も平民の家がある。上級平民と呼ばれる者たちだ。
 もう一つ門をくぐると貴族たちの屋敷、最後の門の奥に王宮がある」

車列が来たことに気づいたのか、大きな扉がぎぎぎぃと音を立てて動いている。
ゆっくりと開いた後、馬車はその門を通過した。

マティアス様が言うとおり、中にも小さな建物が立ち並んでいる。
奥に行くにつれて建物が大きく立派なものになっていく。

「……魔獣の大発生が起きたとわかった瞬間、ユグドレアの国王はすべての門を閉じさせた。
 騎士に魔獣の討伐を命じることなく、自分たちの身を守らせた」

「まぁ……なんてこと」

「魔獣を恐れるあまり、帝国へ緊急の使者を出すことも忘れて、
 王宮内に閉じこもっていたんだ」

「それでは助けはどうやって……」

「ユグドレアにも帝国の監視はいる。
 その者たちが門が閉じる前に出発し、帝国まで知らせに来たんだ。
 帝国に着いた時、発生から四日たっていた」

ここまで来るのに帝国から五日たっている。
知らせに走ったものはまともに休憩も取らずに馬を走らせたのだろう。

「物資を用意し救助に駆けつけたが、その時には発生から十二日が過ぎていた。
 その時には魔獣は王都に入り込み、王宮の一部が破壊されていた。
 あちこちで救助に来るのが遅いと責められた」

「人員をそろえて物資を準備させるのには時間がかかります。
 仕方がないことではありませんか」

「ああ、しかも。正式な救助要請は来ていない。
 そう告げたら向こうも黙っていたが」

「呆れてしまいます」

逃げることに必死で救助要請も出していない王家が、
助けに来たマティアス様を責めるのはおかしな話だ。

「王都内に魔獣が入り込んできていた原因は、
 王都内にいた平民が原因だ」

「平民が?」

「立てこもったとしても、平民の家には食料が貯めてあるわけではない。
 数日で食べるものがなくなり、一部の者は門を開けて外に逃げた」

「門を開けて?もしかして、そこから魔獣が王都内に?」

「そうだ。そして、王宮に逃げ込もうとした平民たちが王宮の門を壊し、
 魔獣も王宮内へ入り込んだ。
 王宮内は倒れている平民で埋め尽くされているように見えた。
 騎士たちは魔獣と平民を殺そうとしていた……」

「っ!?」



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