もう二度と助けを求めないでください

gacchi(がっち)

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56.ユグドレアの王宮

「立てこもったとしても、平民の家には食料が貯めてあるわけではない。
 数日で食べるものがなくなり、一部の者は門を開けて外に逃げた」

「門を開けて?もしかして、そこから魔獣が王都内に?」

「そうだ。そして、王宮に逃げ込もうとした平民たちが王宮の門を壊し、
 魔獣も王宮内へ入り込んだ。
 王宮内は倒れている平民で埋め尽くされているように見えた。
 騎士たちは魔獣と平民を殺そうとしていた……」

「っ!?」

「王宮内では王族や高位貴族が立てこもっていた。
 そんなところに平民を入れるわけにはいかない、そう考えたのだろう。
 平民たちは食料をわけてほしいと訴えに行ったようだが、
 門を開けてもくれなかったから暴動を起こしていた」

「暴動が起きるのも当然だと思います。
 立てこもるのであれば、食料を少しずつ分け与えるべきだと思います。
 少なくともあの壁の中に一緒に立てこもるのであれば」

行き場のない上級平民たちが飢えてしまえば、
暴動が起きる可能性くらい簡単に予測できるはずだ。

「リンネアの言うとおりだ」

「食料を分けられないくらい困窮していたのですか?」

「いや、そうではない。
 いつ助けがくるかわからないから、少しでも分けたくなかったんだろう」

「ああ、そういうことですか」

ユグドレアの王家は帝国に使者を送れなかった。

それに気がついた時にはすでに魔獣に囲まれて、
使者を出すどころではなかったのかもしれないけれど、
それでは助けが来るかどうかもわからなかったはずだ。

魔獣に囲まれている状態がいつまで続くかわからないのであれば、
食料は少しも減らせない、そう考えたから平民を排除した。
騎士に命じて平民を殺させようとしたのもそのせいなのか。

「王宮に押しかけてきていた平民の多くが倒れていたが、
 そのほとんどは魔獣に襲われたのではなく騎士に切られた傷だった」

「なんということを……」

「俺たちは騎士と平民を傷つけないように魔獣を討伐しなければいけなかった……。
 あれが魔獣だけなら、王都の中に入り込んでいなければ、もっと早く討伐できた」

「そんな状況では仕方ないと思います」

「仕方ない……そうかもな」

慰めだと思われたのか、マティアス様は少しだけ微笑んだ。
もう今更何を言ったところで過去は変わらないと思っているのかもしれない。

気まずくなるのを避けようとしたのか、
マティアス様は窓の外を指さして話題を変えた。

「ほら、中の門をくぐれば貴族の屋敷だ。
 平民の家とは全く違うだろう」

「はい……帝国の貴族の屋敷とあまり変わらない大きさですね」

「俺もそう思う」

属国の中でも一番貧しい国と言われているユグドレアの貴族の屋敷が、
こんなに大きくて手の込んだ造りをしているとは思わなかった。

「ここは壊されなかったのですか?」

「いや、半数近くが被害にあっていたはずだ。
 貴族は王宮内に逃げ込んだから、建物にいたのは使用人ばかりだったようだが」

「これも建て直したということですか……」

どこにそのようなお金があるのかと思う。
平民があんなにも食料を求めているというのに。

「……そろそろユグドレアとの関係をはっきりさせないといけないようだな」

「もしや帝国から支援しているのですか?」

「支援はしていない。だが、税は免除していた。
 その結果がこれではな……」

続いて門をくぐったら、きらびやか建物が見えた。
これがユグドレアの王宮……。

「どれだけ金を使って建て直したのやら」

「……なんというか、言葉になりません」

こんなことにお金をかけるのであれば、帝国までの道を舗装すべきだ。
それが自分たちの国を守ることになると、どうして気づかないのか。

怒りなのか、呆れなのか、マティアス様が王宮を見る目が冷たい。
おそらく私も似たような表情をしていることだろう。

「……さぁ、そろそろ着く」

「はい」

王宮内に入り、ひときわ大きな建物の前で馬車が止まる。
扉を開けてマティアス様が先に降り、私を降ろしてくれる。

そこにしゃがれた老人のような声がかかった。

「おおぉ!皇太子殿下!よう来てくださった!」

「……ああ、国王か」

見れば小柄でふくよかな男性が立っていた。
ずいぶんと高齢のようだが、眼光は鋭い。
この男性がユグドレアの国王……

「これはこれはお綺麗な婚約者様ですな!
 ささ、どうぞ中へおはいりください。
 部屋を用意してあります」

「ああ」

国王自らが案内するのか奥へと歩き始める。
マティアス様が差し出してくれた手を取って、そのあとに続いた。

王宮内に入ると廊下や壁には美術品が飾られている。
ただ一体感はなく、集めたものを並べてあるだけに感じる。
国王は自慢したかったのか、あれこれ説明をしようとしたが、
マティアス様が疲れているからと制止した。

「……そうですか。では、またあとで。
 晩餐の用意をさせておりますので」

「ああ、わかった」

美術品の説明のためにいたのか、国王は使用人に案内を任せると去っていく。

使用人が部屋まで案内してくれたが、マティアス様と私の部屋は別だった。

婚約者なので同室のほうがおかしいのだけど、
野営中はずっと同室だったので離れるのも不思議な感じがする。

案内された部屋に入ろうとしたら、マティアス様に止められる。

「いや、リンネアもこちらに」

「え?」

「同じ部屋にいてほしい」

「……わ、わかりました」

使用人は驚いていたようだけど、礼をして去っていった。
部屋に入ってマティアス様と二人になると、思わずため息をついてしまう。

「大丈夫か?国王の態度に驚いたんじゃないか?」

「ええ、少し」

「おそらく晩餐の間もあんな感じだろう。
 まともに話は聞かなくていい」

「わかりました」

用意された部屋は東の宮の私室ほどではないけれど広い。
応接間から寝室が見えたけれど、ベッドが一つしかない。
……まさか、同じベッドで眠ることになる?

ドキドキしているとマティアス様は廊下にいる騎士に何か話していた。

「カルラを連れてくるように命じた。
 晩餐用のドレスに着替える前に湯あみしたいだろう?」

「あ、そうですね」

野営中は湯あみができなかった。
湯で身体を拭いて清めていたけれど、髪は汚れている。
晩餐用に髪を結う前に湯あみをしなければいけない。


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