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59.秘術と治癒術
「王族を離れる時に、もう二度と戻れないと言われたはずだ」
「だが!娘は秘術を使える!
……王族として認めてもらってもいいと思うんだ」
秘術を使える?使えるのは帝国の王族だけなのに……。
王弟の息子であるマッケート様ですら使えないのに、
この娘は使えるというの?
驚いていたのは私だけで、マティアス様は表情を変えなかった。
「秘術か……使えるのは治癒術のみだろう」
「どうしてそれを……いや、治癒術だって秘術だろう?」
「ああ、そうか。皇太子教育を終える前に王族でなくなったのか。
だから知らないんだな」
「な、何をだ?」
「帝国の王族に王女は生まれてこない。
女が生まれてくるとしたら、それは国を出た王族から生まれた子だ」
「王女は生まれない?王族の子に変わらないだろう!
何が違うというんだ!?」
「帝国の外で生まれた子は本当の秘術は使えない。だが、治癒術は使える。
だから、その国の王族か貴族に囲われて帝国に戻ることはない」
「……は?」
ああ、マティアス様が言うことがわかってしまう。
治癒術を持っていても戦うすべがなく、
帝国の王族が守ってくれるわけでもない。
そんな権力者にとって都合のいい存在が知られたら、
さらわれていいように使われてしまうだけだろう。
「私が使えるのが治癒術だけだと何か悪いの?
ユグドレアの王様にはすっごく喜んでもらえたよ?」
「……使ってみせたのか」
「ええ。この王宮に最初に来た時、怪我人がたくさんいたから、
片っ端から治していったの。みんなに感謝されたわ」
「ユーリイス、どうして娘にそんな真似をさせたんだ!?」
「いや、王族に戻るなら……もう隠さなくていいかと思って……」
おそらく王宮内に入れた時点で、帝国の王族に戻れると確信したのだろう。
だから帝国の王族だと誤解されても否定しなかった。
ユグドレアの国王と顔見知りだったとしても、
もう自分は王族ではないと言う機会はいくらでもあったはずなのに。
「俺が二人のことを帝国の王族ではないと言えば、
すぐさま監禁されて一生ここで飼われることになるだろう。
その場合は、奴隷にされるだろうな」
「はぁ?どうしてよ!」
「あの強欲なユグドレアの国王のことだ。
平民で治癒術が使えるものがいたら奴隷にするに決まっている」
「私には帝国の王族の血が流れているのよ!?」
「関係ない。俺は、帝国はお前たちを保護しない」
「そんな!なんとかしてもらえないか?」
「そうよ!私たちはこんなに頑張ったのにひどいわ!」
ようやく自分たちの立場が理解でき始めたのか、
二人は焦った声でマティアス様に訴える。
「頑張った?嘘だな」
「え?」
「ユーリイス、魔獣の大発生が起きた時、何をしていたんだ?」
「……娘を守っていた」
「王都内で?」
「……馬車で壁の外に逃げた」
「だろうな。平民街にいたのなら、真っ先に狙われたはずだ。
娼館を買い上げて、経営していたのだろう?
金と食料があるところは危険だと自分たちだけ逃げ出したな?」
「それは……平民たちが押し掛けてくる前に逃げるのは仕方ない」
「秘術で戦えるのに、魔獣の大発生は見ないふりして、か?」
「……」
そうか。この人が王兄なら、秘術が使える。
魔獣の大発生の直後から魔獣を討伐できるものがいたならば。
被害は抑えられていたのでは……。
「王兄だったユーリイスがユグドレアにいたと知られたならば、
帝国が責められることになるだろう。
戦えるものがいたのに、どうして十二日も魔獣を放置したんだと」
「……一人で魔獣の大発生に立ち向かうなんて」
「秘術が使えるのならばできるはずだ。
王族だったのなら、できないとは言わせない」
「私は……戦うのがあまり好きじゃない」
「帝国の王族ならば、拒否は認められない。
それが王族としての義務だからだ。
義務も果たさずに保護してくれだなんておかしな話だ。
王族に戻ったとしたら、いくらでも属国に派遣されることになる。
皇帝以外は戦うことを避けられないのは知っているはずだ」
「……」
本当に戦うのが嫌なのか、顔をゆがめて黙り込む。
それを見た娘が肩に手を置いて激しくゆらす。
「ちょっと!お父様!しっかりしてよ!
どうして戦わなかったからって責められなきゃいけないの!?
私たちのおかげで助かった人があんなにいたじゃない!」
「あ、ああ……だが」
「それについても言っておこう。
治癒術は原則王族以外に使ってはいけないことになっている。
なぜなら、治療されるものの魔力をかなり消費するからだ。
怪我は治ったとしても、魔力が少ないものなら魔力の代わりに寿命を消費する。
多くの人を治療したのなら、早死にするものも出てくるだろうな」
「早死に……そんなの」
そんな条件があったなんて。魔獣の大発生の怪我人の多くは平民だ。
ほとんど魔力がない平民に治癒術をかけたのなら、
寿命を減らしてしまったことになる……。
さすがに自分の罪の重さに震えているのかと思ったが、
娘は顔をあげてマティアス様をにらんだ。
「そんなの知らなかったんだから、しょうがないじゃない!」
「だが!娘は秘術を使える!
……王族として認めてもらってもいいと思うんだ」
秘術を使える?使えるのは帝国の王族だけなのに……。
王弟の息子であるマッケート様ですら使えないのに、
この娘は使えるというの?
驚いていたのは私だけで、マティアス様は表情を変えなかった。
「秘術か……使えるのは治癒術のみだろう」
「どうしてそれを……いや、治癒術だって秘術だろう?」
「ああ、そうか。皇太子教育を終える前に王族でなくなったのか。
だから知らないんだな」
「な、何をだ?」
「帝国の王族に王女は生まれてこない。
女が生まれてくるとしたら、それは国を出た王族から生まれた子だ」
「王女は生まれない?王族の子に変わらないだろう!
何が違うというんだ!?」
「帝国の外で生まれた子は本当の秘術は使えない。だが、治癒術は使える。
だから、その国の王族か貴族に囲われて帝国に戻ることはない」
「……は?」
ああ、マティアス様が言うことがわかってしまう。
治癒術を持っていても戦うすべがなく、
帝国の王族が守ってくれるわけでもない。
そんな権力者にとって都合のいい存在が知られたら、
さらわれていいように使われてしまうだけだろう。
「私が使えるのが治癒術だけだと何か悪いの?
ユグドレアの王様にはすっごく喜んでもらえたよ?」
「……使ってみせたのか」
「ええ。この王宮に最初に来た時、怪我人がたくさんいたから、
片っ端から治していったの。みんなに感謝されたわ」
「ユーリイス、どうして娘にそんな真似をさせたんだ!?」
「いや、王族に戻るなら……もう隠さなくていいかと思って……」
おそらく王宮内に入れた時点で、帝国の王族に戻れると確信したのだろう。
だから帝国の王族だと誤解されても否定しなかった。
ユグドレアの国王と顔見知りだったとしても、
もう自分は王族ではないと言う機会はいくらでもあったはずなのに。
「俺が二人のことを帝国の王族ではないと言えば、
すぐさま監禁されて一生ここで飼われることになるだろう。
その場合は、奴隷にされるだろうな」
「はぁ?どうしてよ!」
「あの強欲なユグドレアの国王のことだ。
平民で治癒術が使えるものがいたら奴隷にするに決まっている」
「私には帝国の王族の血が流れているのよ!?」
「関係ない。俺は、帝国はお前たちを保護しない」
「そんな!なんとかしてもらえないか?」
「そうよ!私たちはこんなに頑張ったのにひどいわ!」
ようやく自分たちの立場が理解でき始めたのか、
二人は焦った声でマティアス様に訴える。
「頑張った?嘘だな」
「え?」
「ユーリイス、魔獣の大発生が起きた時、何をしていたんだ?」
「……娘を守っていた」
「王都内で?」
「……馬車で壁の外に逃げた」
「だろうな。平民街にいたのなら、真っ先に狙われたはずだ。
娼館を買い上げて、経営していたのだろう?
金と食料があるところは危険だと自分たちだけ逃げ出したな?」
「それは……平民たちが押し掛けてくる前に逃げるのは仕方ない」
「秘術で戦えるのに、魔獣の大発生は見ないふりして、か?」
「……」
そうか。この人が王兄なら、秘術が使える。
魔獣の大発生の直後から魔獣を討伐できるものがいたならば。
被害は抑えられていたのでは……。
「王兄だったユーリイスがユグドレアにいたと知られたならば、
帝国が責められることになるだろう。
戦えるものがいたのに、どうして十二日も魔獣を放置したんだと」
「……一人で魔獣の大発生に立ち向かうなんて」
「秘術が使えるのならばできるはずだ。
王族だったのなら、できないとは言わせない」
「私は……戦うのがあまり好きじゃない」
「帝国の王族ならば、拒否は認められない。
それが王族としての義務だからだ。
義務も果たさずに保護してくれだなんておかしな話だ。
王族に戻ったとしたら、いくらでも属国に派遣されることになる。
皇帝以外は戦うことを避けられないのは知っているはずだ」
「……」
本当に戦うのが嫌なのか、顔をゆがめて黙り込む。
それを見た娘が肩に手を置いて激しくゆらす。
「ちょっと!お父様!しっかりしてよ!
どうして戦わなかったからって責められなきゃいけないの!?
私たちのおかげで助かった人があんなにいたじゃない!」
「あ、ああ……だが」
「それについても言っておこう。
治癒術は原則王族以外に使ってはいけないことになっている。
なぜなら、治療されるものの魔力をかなり消費するからだ。
怪我は治ったとしても、魔力が少ないものなら魔力の代わりに寿命を消費する。
多くの人を治療したのなら、早死にするものも出てくるだろうな」
「早死に……そんなの」
そんな条件があったなんて。魔獣の大発生の怪我人の多くは平民だ。
ほとんど魔力がない平民に治癒術をかけたのなら、
寿命を減らしてしまったことになる……。
さすがに自分の罪の重さに震えているのかと思ったが、
娘は顔をあげてマティアス様をにらんだ。
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