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63.予想外の行動
「何かあったのですか?」
「ああ。ユーリイスとクララの報告を聞いていた」
「あの二人の……」
「王都から出る前に、自分たちが住んでいた娼館に寄ったらしい」
「え……?寄った?帝国の馬車でですか?」
「そうだ」
「そんな……」
なんてことを……帝国の馬車で寄り道するなんて……。
自分たちが帝国と関わりがあると教えるようなもの。
特にユーリイス様が王族だったということは、
ユグドレアの者には知られてはいけないのに。
「しかも、あのままの髪色で行ったらしい」
「それでは帝国の王族だと思われてしまうのでは!?」
「……髪色だけでもそうだろうが、クララは自分で帝国の王族だと言ったそうだ」
「なんてことを……」
まさか自分で言うなんて。
めまいがしそうで額に手をあてた。
「娼館の者たちには今まで店を放っておいて何をしていたんだと責められ、
自分たちは帝国の王族だから保護されていたんだと説明したらしい。
しかも、娼館は自分の店だから営業したいのなら営業権を買い取れと言って、
多額の金を奪ってから移動したと」
「お金を奪った……自分たちが見捨てて逃げたのにですか!?」
「一か月の金では足りない、だから調達したんだ、何が悪い、
と騎士たちには言ったらしい」
今まで王宮で豪勢な暮らしをしていたのなら、
一か月暮らせるお金では足りないと思うのは仕方ないけれど、
平民として暮らすのなら多額のお金を持っているのは危険だ。
マティアス様もそう考えて一か月分しか渡さなかったのだと思う。
「騎士たちはどうして言うことを聞いてしまったのでしょうか」
「銀色の髪に逆らうのは難しかったそうだ」
「ああ、そういうことですか……それは責められませんね」
帝国の騎士は生粋の帝国育ちだ。
銀色の髪と青い目は王族の証。
偽物だと説明されたとしても、逆らうのは難しい。
実際にユーリイスは王兄であり、
クララも王族の血をひく娘なことには変わらないのだし。
行動を止められなかった気持ちもわかる。
「二人はどの国に行ったのですか?」
「ポスニルア国だ」
「ポスニルア国ですか?」
「ああ、アーロンに連絡をすることにした。
どうしてポスニルア国に行ったのか気になる。
アーロンたちに迷惑をかけないといいのだが……」
ポスニルア国は移民を受け入れないわけではないが、
移民に仕事があるわけでもない。
鉱山の仕事をするとは思えないし、あらたに娼館を経営するのも難しいはずだ。
多額のお金を持っているのなら、働かなくてもいいのかもしれないけれど、
こっそり隠れて暮らせるほど大きな街でもなさそうだけど。
「とにかく報告を待とう」
「はい。マティアス様も少しは休んでください」
「ああ、そうだな」
帝国に戻ってきて二週間。
落ち着いたころ、皇太子の婚約者としてお茶会を開くことになった。
マティアス様は無理しなくていいと言ってくれたけれど、
夫人や令嬢たちと交流するのも皇太子妃の務めの一つ。
今のうちから交流しておかなくては苦労するのが目に見えている。
それでも親しい令嬢が少ない私のために、
使用人としてではなく、友人の王女としてディアナ様も参加してくれることになった。
他にはアラン様の婚約者のアデリナ様。
マッケート様の婚約者のエリーゼ様も参加してくれる。
お茶会を成功させるために三人には手伝いを頼んでいる。
もし反発してくるような令嬢がいたとしても、
やんわりとなだめてくれるようにお願いしていた。
当日、中庭にテーブルと椅子を用意し、
日が当たらないように大きな白い布を日よけに張る。
座った場所から中庭に咲く綺麗な花が見えるように工夫して、
令嬢たちを迎え入れる。
今日の出席者は伯爵家以上の家の令嬢たちで、
ほとんどは学園に通うものたちだ。
最初から仲良くなれるとは思っていないけれど、
これをきっかけに挨拶をかわせるようになればいい。
緊張していた令嬢たちも用意してあった焼き菓子やお茶を楽しむうちに、
少しずつ会話が弾むようになっていく。
「このお茶はとてもいい香りがしますね」
「ありがとう。このお茶はエルドレドから持ってきたものよ。
オードラン領で咲く花を乾燥してお茶に混ぜてあるの」
「まぁ、これは花の香りなのですね。
素敵なお茶ですわ」
「ええ、すごくいい香り……」
お兄様にお願いしてお茶を用意してもらって正解だった。
帝国ではまだ販売されていないお茶にみな興味津々のようだ。
令嬢たちのほとんどはオードラン家の商会を知っていて、
販売されていないことを聞いて残念がっている。
令嬢たちはおしゃれなことや流行りそうな物に敏感だ。
このお茶が人気になれば、お茶会に来たがる者も増えてくれるかもしれない。
「量産できるようになれば商会でも販売できると思うの」
「楽しみにしています」
「ええ、発売されたら絶対に購入しますわ」
この花はお茶だけでなく、香水や香油、せっけんなどにも使っている。
だけど、お茶に混ぜるとなると食用になるので、
より一層栽培するのが難しくなるのだ。
それでも今年はたくさん花が咲いていると報告を受けている。
量産できるようになるのもそう遠くはない。
お茶会も終盤になって、お互いの婚約者のことが話題になる。
そのうち気が緩んだのか、一人の令嬢がこんなことを言い出した。
「エリーゼ様はマッケート様が王族になればいいと思わないのですか?」
「え?マッケート様が王族に?」
「ああ。ユーリイスとクララの報告を聞いていた」
「あの二人の……」
「王都から出る前に、自分たちが住んでいた娼館に寄ったらしい」
「え……?寄った?帝国の馬車でですか?」
「そうだ」
「そんな……」
なんてことを……帝国の馬車で寄り道するなんて……。
自分たちが帝国と関わりがあると教えるようなもの。
特にユーリイス様が王族だったということは、
ユグドレアの者には知られてはいけないのに。
「しかも、あのままの髪色で行ったらしい」
「それでは帝国の王族だと思われてしまうのでは!?」
「……髪色だけでもそうだろうが、クララは自分で帝国の王族だと言ったそうだ」
「なんてことを……」
まさか自分で言うなんて。
めまいがしそうで額に手をあてた。
「娼館の者たちには今まで店を放っておいて何をしていたんだと責められ、
自分たちは帝国の王族だから保護されていたんだと説明したらしい。
しかも、娼館は自分の店だから営業したいのなら営業権を買い取れと言って、
多額の金を奪ってから移動したと」
「お金を奪った……自分たちが見捨てて逃げたのにですか!?」
「一か月の金では足りない、だから調達したんだ、何が悪い、
と騎士たちには言ったらしい」
今まで王宮で豪勢な暮らしをしていたのなら、
一か月暮らせるお金では足りないと思うのは仕方ないけれど、
平民として暮らすのなら多額のお金を持っているのは危険だ。
マティアス様もそう考えて一か月分しか渡さなかったのだと思う。
「騎士たちはどうして言うことを聞いてしまったのでしょうか」
「銀色の髪に逆らうのは難しかったそうだ」
「ああ、そういうことですか……それは責められませんね」
帝国の騎士は生粋の帝国育ちだ。
銀色の髪と青い目は王族の証。
偽物だと説明されたとしても、逆らうのは難しい。
実際にユーリイスは王兄であり、
クララも王族の血をひく娘なことには変わらないのだし。
行動を止められなかった気持ちもわかる。
「二人はどの国に行ったのですか?」
「ポスニルア国だ」
「ポスニルア国ですか?」
「ああ、アーロンに連絡をすることにした。
どうしてポスニルア国に行ったのか気になる。
アーロンたちに迷惑をかけないといいのだが……」
ポスニルア国は移民を受け入れないわけではないが、
移民に仕事があるわけでもない。
鉱山の仕事をするとは思えないし、あらたに娼館を経営するのも難しいはずだ。
多額のお金を持っているのなら、働かなくてもいいのかもしれないけれど、
こっそり隠れて暮らせるほど大きな街でもなさそうだけど。
「とにかく報告を待とう」
「はい。マティアス様も少しは休んでください」
「ああ、そうだな」
帝国に戻ってきて二週間。
落ち着いたころ、皇太子の婚約者としてお茶会を開くことになった。
マティアス様は無理しなくていいと言ってくれたけれど、
夫人や令嬢たちと交流するのも皇太子妃の務めの一つ。
今のうちから交流しておかなくては苦労するのが目に見えている。
それでも親しい令嬢が少ない私のために、
使用人としてではなく、友人の王女としてディアナ様も参加してくれることになった。
他にはアラン様の婚約者のアデリナ様。
マッケート様の婚約者のエリーゼ様も参加してくれる。
お茶会を成功させるために三人には手伝いを頼んでいる。
もし反発してくるような令嬢がいたとしても、
やんわりとなだめてくれるようにお願いしていた。
当日、中庭にテーブルと椅子を用意し、
日が当たらないように大きな白い布を日よけに張る。
座った場所から中庭に咲く綺麗な花が見えるように工夫して、
令嬢たちを迎え入れる。
今日の出席者は伯爵家以上の家の令嬢たちで、
ほとんどは学園に通うものたちだ。
最初から仲良くなれるとは思っていないけれど、
これをきっかけに挨拶をかわせるようになればいい。
緊張していた令嬢たちも用意してあった焼き菓子やお茶を楽しむうちに、
少しずつ会話が弾むようになっていく。
「このお茶はとてもいい香りがしますね」
「ありがとう。このお茶はエルドレドから持ってきたものよ。
オードラン領で咲く花を乾燥してお茶に混ぜてあるの」
「まぁ、これは花の香りなのですね。
素敵なお茶ですわ」
「ええ、すごくいい香り……」
お兄様にお願いしてお茶を用意してもらって正解だった。
帝国ではまだ販売されていないお茶にみな興味津々のようだ。
令嬢たちのほとんどはオードラン家の商会を知っていて、
販売されていないことを聞いて残念がっている。
令嬢たちはおしゃれなことや流行りそうな物に敏感だ。
このお茶が人気になれば、お茶会に来たがる者も増えてくれるかもしれない。
「量産できるようになれば商会でも販売できると思うの」
「楽しみにしています」
「ええ、発売されたら絶対に購入しますわ」
この花はお茶だけでなく、香水や香油、せっけんなどにも使っている。
だけど、お茶に混ぜるとなると食用になるので、
より一層栽培するのが難しくなるのだ。
それでも今年はたくさん花が咲いていると報告を受けている。
量産できるようになるのもそう遠くはない。
お茶会も終盤になって、お互いの婚約者のことが話題になる。
そのうち気が緩んだのか、一人の令嬢がこんなことを言い出した。
「エリーゼ様はマッケート様が王族になればいいと思わないのですか?」
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