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69.結婚式の朝
次の日の朝になってもマリアは戻ってこなかった。
心配になって騎士に見に行ってもらうと、
「もう少しかかりますが、リンネア様の準備が始まるまでには戻ります」
との伝言をもって戻ってきた。
「大丈夫なのでしょうか」
「リンネアの準備が始まるまでには戻ってくると言っているのなら、
今日の結婚式は予定通り執り行うということなんだろう」
「いえ、マリアが大丈夫なのか心配で」
「リンネアの準備が終わったら休むように命じればいい。
おそらく準備が終わるまでは心配で休まないと言い張るだろうから」
「マリアならそうかもしれません」
いくら寝不足であっても、他の者に任せるとは思えない。
昼前から準備を始める予定だったが、
マリアが戻ってきたのはその直前だった。
「お待たせして申し訳ございません」
「まだ時間前だから大丈夫よ。
結婚式のほうは間に合ったのかしら」
「はい。あとは婚約者様の準備だけでしたので、
私は抜けてまいりました」
「そう。何がそんなに大変だったの?」
「王太子の側近が一人もいないのが原因でした。
すべての確認を一人でしていたので、時間がかかっていました」
「あぁ、そういうこと。
まだ側近を決めていなかったのね」
「……決めていないというよりも全員に断られたそうです」
「まぁ……大丈夫なのかしら」
マリアの返事はない。
それもそうかと思う。
マリアは八年間この国に滞在していた。
ナタニエル様は一応は帝国から派遣されたマリアに気をつかって、
目の前で暴言を吐くようなことはなかったけれど、
噂というものはどこからでも耳に入る。
最初にいた側近たちは皆ナタニエル様の暴言に耐えられずに辞めてしまった。
お兄様はそもそも最初から辞退しているし、
他の高位貴族の令息たちも選ばれてもすぐに辞めてしまう。
このまま国王に即位するとしても、
側近がいないのではやっていけないのではないかと思う。
三公爵家はあくまで重要な問題が起きた時に助言する立場であって、
王政を手伝うものたちではない。
通常は公爵領の仕事で手いっぱいだからだ。
どうなるのだろうかと心配しながらも、
マリアとカルラの手を借りて湯あみをしてドレスに着替える。
爪を磨いて化粧を終えた頃、マティアス様が様子を見に来てくれた。
「そろそろ準備は終わりそうか?
もう少ししたら大広間に移動する時間になる」
「はい、もう終わります」
「うん、とても綺麗だ。
このドレスもよく似合っている」
「ありがとうございます」
今着ているのはマティアス様が私のために仕立ててくれたドレスだった。
青い布地に青のレースを重ねたもので、
肩から二の腕まではうっすらと透けている。
「ああ、だが、リンネアの肌は見せたくないな。
俺以外の者は近寄らせないようにしよう」
「ふふふ。お願いします」
マティアス様が本気なのかはわからなかったけれど、
他の者には見せたくないと言われたのがうれしくて、
いつもよりも少しだけマティアス様のそばに寄る。
「では、行こうか」
「はい」
マティアス様の手を取って移動すると、
私たちの後ろにケニー様とお兄様がつく。
その周りを帝国の騎士たちが囲むように護衛し、大広間へと向かう。
大広間にはもうすでにエルドレドの貴族たちが集まっていた。
マティアス様の隣に私がいることに気づいたものたちが、
小声で何か話している。
悪口かもしれないけれど、少しも気にならない。
もう私はエルドレドには関りがない。
今後、エルドレドに来ることもないかもしれない。
二度と会わないだろう相手に何を言われても気にならない。
だが、マティアス様は違った。
私を見下すように笑っていた令嬢たちのところへ騎士を差し向ける。
「くだらない者を黙らせてこい」
「「「はっ!」」」
それを聞いた貴族たちは一斉に黙った。
私の悪口を言っていた者たちは青ざめて震えている。
「帝国の妃を笑うなど、命が惜しいようだな。
何か言いたいことがあるなら前に出ろ。
俺が代わりに聞いてやろう」
低いマティアス様の声が大広間中に響く。
誰が最初だったのか、中央にいた貴族たちが臣下の礼をしだした。
それはあっという間に広がり、大広間にいた全員が頭を下げている。
マティアス様が声をかけると思ったのに、何も言わない。
「マティアス様?」
「リンネアに任せる。許さなくてもいいぞ」
声をかけるかどうかは私次第ということらしい。
このまま何も言わなければ、ずっと頭を下げ続けることになる。
そして、このままなら結婚式は始められない。
貴族たちは私が許さないと思ったのか、
恐れているのが伝わってくる。
ゆっくり深呼吸して、口を開いた。
「頭をあげなさい。
今日はエルドレドの王太子の結婚式を見届けに来たのだから、
今の無礼は見なかったことにするわ」
その言葉に貴族たちはほっとしたように頭を上げた。
「いいのか?」
「ええ。このままでは結婚式が始まりませんから」
「リンネアは優しいな」
優しいのはマティアス様だ。
今のは私のためにわざと怒ったように見せていた。
これまでナタニエル様とアンジェラ様に虐げられてきた結果、
私を見下す者も多かった。
これで私を見下す者はいなくなるに違いない。
貴族たちはマティアス様がよほど恐ろしかったのか黙り込んでいる。
静まり返った中、ナタニエル様とサンドラ様の入場が告げられた。
心配になって騎士に見に行ってもらうと、
「もう少しかかりますが、リンネア様の準備が始まるまでには戻ります」
との伝言をもって戻ってきた。
「大丈夫なのでしょうか」
「リンネアの準備が始まるまでには戻ってくると言っているのなら、
今日の結婚式は予定通り執り行うということなんだろう」
「いえ、マリアが大丈夫なのか心配で」
「リンネアの準備が終わったら休むように命じればいい。
おそらく準備が終わるまでは心配で休まないと言い張るだろうから」
「マリアならそうかもしれません」
いくら寝不足であっても、他の者に任せるとは思えない。
昼前から準備を始める予定だったが、
マリアが戻ってきたのはその直前だった。
「お待たせして申し訳ございません」
「まだ時間前だから大丈夫よ。
結婚式のほうは間に合ったのかしら」
「はい。あとは婚約者様の準備だけでしたので、
私は抜けてまいりました」
「そう。何がそんなに大変だったの?」
「王太子の側近が一人もいないのが原因でした。
すべての確認を一人でしていたので、時間がかかっていました」
「あぁ、そういうこと。
まだ側近を決めていなかったのね」
「……決めていないというよりも全員に断られたそうです」
「まぁ……大丈夫なのかしら」
マリアの返事はない。
それもそうかと思う。
マリアは八年間この国に滞在していた。
ナタニエル様は一応は帝国から派遣されたマリアに気をつかって、
目の前で暴言を吐くようなことはなかったけれど、
噂というものはどこからでも耳に入る。
最初にいた側近たちは皆ナタニエル様の暴言に耐えられずに辞めてしまった。
お兄様はそもそも最初から辞退しているし、
他の高位貴族の令息たちも選ばれてもすぐに辞めてしまう。
このまま国王に即位するとしても、
側近がいないのではやっていけないのではないかと思う。
三公爵家はあくまで重要な問題が起きた時に助言する立場であって、
王政を手伝うものたちではない。
通常は公爵領の仕事で手いっぱいだからだ。
どうなるのだろうかと心配しながらも、
マリアとカルラの手を借りて湯あみをしてドレスに着替える。
爪を磨いて化粧を終えた頃、マティアス様が様子を見に来てくれた。
「そろそろ準備は終わりそうか?
もう少ししたら大広間に移動する時間になる」
「はい、もう終わります」
「うん、とても綺麗だ。
このドレスもよく似合っている」
「ありがとうございます」
今着ているのはマティアス様が私のために仕立ててくれたドレスだった。
青い布地に青のレースを重ねたもので、
肩から二の腕まではうっすらと透けている。
「ああ、だが、リンネアの肌は見せたくないな。
俺以外の者は近寄らせないようにしよう」
「ふふふ。お願いします」
マティアス様が本気なのかはわからなかったけれど、
他の者には見せたくないと言われたのがうれしくて、
いつもよりも少しだけマティアス様のそばに寄る。
「では、行こうか」
「はい」
マティアス様の手を取って移動すると、
私たちの後ろにケニー様とお兄様がつく。
その周りを帝国の騎士たちが囲むように護衛し、大広間へと向かう。
大広間にはもうすでにエルドレドの貴族たちが集まっていた。
マティアス様の隣に私がいることに気づいたものたちが、
小声で何か話している。
悪口かもしれないけれど、少しも気にならない。
もう私はエルドレドには関りがない。
今後、エルドレドに来ることもないかもしれない。
二度と会わないだろう相手に何を言われても気にならない。
だが、マティアス様は違った。
私を見下すように笑っていた令嬢たちのところへ騎士を差し向ける。
「くだらない者を黙らせてこい」
「「「はっ!」」」
それを聞いた貴族たちは一斉に黙った。
私の悪口を言っていた者たちは青ざめて震えている。
「帝国の妃を笑うなど、命が惜しいようだな。
何か言いたいことがあるなら前に出ろ。
俺が代わりに聞いてやろう」
低いマティアス様の声が大広間中に響く。
誰が最初だったのか、中央にいた貴族たちが臣下の礼をしだした。
それはあっという間に広がり、大広間にいた全員が頭を下げている。
マティアス様が声をかけると思ったのに、何も言わない。
「マティアス様?」
「リンネアに任せる。許さなくてもいいぞ」
声をかけるかどうかは私次第ということらしい。
このまま何も言わなければ、ずっと頭を下げ続けることになる。
そして、このままなら結婚式は始められない。
貴族たちは私が許さないと思ったのか、
恐れているのが伝わってくる。
ゆっくり深呼吸して、口を開いた。
「頭をあげなさい。
今日はエルドレドの王太子の結婚式を見届けに来たのだから、
今の無礼は見なかったことにするわ」
その言葉に貴族たちはほっとしたように頭を上げた。
「いいのか?」
「ええ。このままでは結婚式が始まりませんから」
「リンネアは優しいな」
優しいのはマティアス様だ。
今のは私のためにわざと怒ったように見せていた。
これまでナタニエル様とアンジェラ様に虐げられてきた結果、
私を見下す者も多かった。
これで私を見下す者はいなくなるに違いない。
貴族たちはマティアス様がよほど恐ろしかったのか黙り込んでいる。
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