76 / 102
76.事態の解消へ
ケニー様が馬車と旅の準備をしに行く。
エルドレド国内を回ったら、二週間から三週間はかかる。
お兄様は事情を手紙に書き記し、帝国へと送る。
戻るのが遅くなると、帝国に残っているマッケート様に伝えるためだ。
マリアも同じようにディアナへと手紙を書いていた。
「まずはどこから行くか検討しなければいけないな」
「地図を持ってこさせましょう」
どの領地から行ったらいいか、文官が地図を持ってくるのを待っていると、
アンジェラ様の部屋に見に行った近衛騎士が真っ青な顔で戻ってきた。
「確認してまいりました!」
「王女の様子はどうだった?」
「眠っていましたが、左頬と左耳が腐って溶けかけていました……」
「眠っていた?その状態でか?」
「世話をしている侍女に聞いたところ、
ナタニエル様の指示で眠らせているそうです。
食事や飲み物に薬を混ぜたと……」
「なるほどな。
まぁ、王女は眠らせておいたほうがいいか。
そのまま眠らせておくように侍女に指示しておけ」
「はっ!」
近衛騎士が去ると、マティアス様はため息をついた。
「王女も地毒か。起きたら騒がしいだろうな」
「それは……そうですよね」
あれだけ自分の美しさを誇っていたアンジェラ様が、
顔が腐って溶けかけていると知ったら……。
いえ、そもそも今の容姿をわかっていないのだった。
鏡を見せたらどうなることか……。
想像して思わず身震いする。
そこに文官が地図をもって戻ってきた。
広げてみて、マティアス様は文官に問いかける。
「王宮や王都に食料を届けている地域はわかるな?」
「はい」
「そこに印をつけてくれ」
「わかりました」
王宮や王都に届ける作物を作っているところは、
王領や大きな領地の中でも広く畑を作れるところに限られる。
その中でも土がいい場所が選ばれ、毎年同じ地域から出荷される。
「マティアス様、他の場所は行かなくていいのですか?」
「すべての地で魔力を消さなくても大丈夫だ。
一か所で消せば、周りの土地の魔力量も下がる」
「だから大きな畑を中心に回るのですね」
文官が印をつけた地図を受け取り、旅の準備が終わるのを待つ。
それほど待つことなく準備が終わり、一台目の馬車にはマティアス様と私、
二台目の馬車にお兄様とケニー様、クルスとカルラを乗せて出発する。
領民に説明するために、文官と騎士たちが少し先に出発している。
私たちの馬車が着くころには説明が終わっているはずだ。
馬車に乗って二人きりになるとすぐに、
マティアス様は私の隣に座り、両手を包むように握った。
「マティアス様?」
「……体調は問題ないか?どこかおかしいと思うところはないか?」
「え?……特にないと思います」
「念のため、治癒をかけておく」
マティアス様の手から光が見える。
光の輪が私の身体を包むように上下している。
「……もしかして、私も地毒の可能性があるのですか?」
マティアス様の真剣な表情にまさかと思う。
「……地毒は王族や高位貴族がかかるものだ。
それは魔力量が多いものほど汚染されるから。
ダニエルは帝国に留学していたし、国に戻ってからはオードラン公爵領にいた。
だが、リンネアは違う。屋敷での食事はいいとしても、
王宮で食事を取ることもあっただろう」
「そうですね……皇太子妃教育を受けていた間は、
昼食時も作法を学ぶ時間でしたので」
「この病気は一年二年で発症するものではない。
長年にわたり蓄積された結果、発症するものだ。
……今、治癒をかけた。
これで大丈夫だとは思うが、少しでもおかしいと思ったら言ってくれ」
光の輪が消えて、治癒が終わったのがわかる。
「マティアス様は地毒も治せるのですか?」
「発症する前なら治せる。
もしかしたら、症状が出始めの時なら治せるかもしれない。
だが、王太子のように身体が欠損するようになったら無理だ。
国全土の地毒を解消して、薬でゆっくり治すしかない」
「薬を使っても欠損は治せませんよね?」
「今のところ、どの国を探したとしても、
欠損を治すような薬はないだろうな」
「ですよね」
ということは、ナタニエル様もアンジェラ様も、
薬で治せたとしても顔はそのままということだ。
「王女はともかく、王太子は自業自得だ。
リンネアが心配することではない」
「それはわかっているのですが、王宮が大変になるなと。
文官や騎士、侍女たちのことが心配で……」
「それについては、戻ったら三公爵と相談しよう」
「ごめんなさい、マティアス様がどうにかするようなことでもないのに」
「いいんだ。リンネアの叔父上が関係することだからな。
できることはしてから帝国に戻ろう」
「ありがとうございます」
馬車が最初の領地についたのは一時間後のことだった。
文官と騎士たちが先について領民に説明し終わっているはずだったが、
なんだかもめているようだ。
マティアス様と私はまだ馬車に乗っているように言われ、
お兄様とケニー様がもめているところに仲裁に入る。
「いったい何をもめているんだ」
「あ、申し訳ありません。領民たちが納得しなくて……」
エルドレド国内を回ったら、二週間から三週間はかかる。
お兄様は事情を手紙に書き記し、帝国へと送る。
戻るのが遅くなると、帝国に残っているマッケート様に伝えるためだ。
マリアも同じようにディアナへと手紙を書いていた。
「まずはどこから行くか検討しなければいけないな」
「地図を持ってこさせましょう」
どの領地から行ったらいいか、文官が地図を持ってくるのを待っていると、
アンジェラ様の部屋に見に行った近衛騎士が真っ青な顔で戻ってきた。
「確認してまいりました!」
「王女の様子はどうだった?」
「眠っていましたが、左頬と左耳が腐って溶けかけていました……」
「眠っていた?その状態でか?」
「世話をしている侍女に聞いたところ、
ナタニエル様の指示で眠らせているそうです。
食事や飲み物に薬を混ぜたと……」
「なるほどな。
まぁ、王女は眠らせておいたほうがいいか。
そのまま眠らせておくように侍女に指示しておけ」
「はっ!」
近衛騎士が去ると、マティアス様はため息をついた。
「王女も地毒か。起きたら騒がしいだろうな」
「それは……そうですよね」
あれだけ自分の美しさを誇っていたアンジェラ様が、
顔が腐って溶けかけていると知ったら……。
いえ、そもそも今の容姿をわかっていないのだった。
鏡を見せたらどうなることか……。
想像して思わず身震いする。
そこに文官が地図をもって戻ってきた。
広げてみて、マティアス様は文官に問いかける。
「王宮や王都に食料を届けている地域はわかるな?」
「はい」
「そこに印をつけてくれ」
「わかりました」
王宮や王都に届ける作物を作っているところは、
王領や大きな領地の中でも広く畑を作れるところに限られる。
その中でも土がいい場所が選ばれ、毎年同じ地域から出荷される。
「マティアス様、他の場所は行かなくていいのですか?」
「すべての地で魔力を消さなくても大丈夫だ。
一か所で消せば、周りの土地の魔力量も下がる」
「だから大きな畑を中心に回るのですね」
文官が印をつけた地図を受け取り、旅の準備が終わるのを待つ。
それほど待つことなく準備が終わり、一台目の馬車にはマティアス様と私、
二台目の馬車にお兄様とケニー様、クルスとカルラを乗せて出発する。
領民に説明するために、文官と騎士たちが少し先に出発している。
私たちの馬車が着くころには説明が終わっているはずだ。
馬車に乗って二人きりになるとすぐに、
マティアス様は私の隣に座り、両手を包むように握った。
「マティアス様?」
「……体調は問題ないか?どこかおかしいと思うところはないか?」
「え?……特にないと思います」
「念のため、治癒をかけておく」
マティアス様の手から光が見える。
光の輪が私の身体を包むように上下している。
「……もしかして、私も地毒の可能性があるのですか?」
マティアス様の真剣な表情にまさかと思う。
「……地毒は王族や高位貴族がかかるものだ。
それは魔力量が多いものほど汚染されるから。
ダニエルは帝国に留学していたし、国に戻ってからはオードラン公爵領にいた。
だが、リンネアは違う。屋敷での食事はいいとしても、
王宮で食事を取ることもあっただろう」
「そうですね……皇太子妃教育を受けていた間は、
昼食時も作法を学ぶ時間でしたので」
「この病気は一年二年で発症するものではない。
長年にわたり蓄積された結果、発症するものだ。
……今、治癒をかけた。
これで大丈夫だとは思うが、少しでもおかしいと思ったら言ってくれ」
光の輪が消えて、治癒が終わったのがわかる。
「マティアス様は地毒も治せるのですか?」
「発症する前なら治せる。
もしかしたら、症状が出始めの時なら治せるかもしれない。
だが、王太子のように身体が欠損するようになったら無理だ。
国全土の地毒を解消して、薬でゆっくり治すしかない」
「薬を使っても欠損は治せませんよね?」
「今のところ、どの国を探したとしても、
欠損を治すような薬はないだろうな」
「ですよね」
ということは、ナタニエル様もアンジェラ様も、
薬で治せたとしても顔はそのままということだ。
「王女はともかく、王太子は自業自得だ。
リンネアが心配することではない」
「それはわかっているのですが、王宮が大変になるなと。
文官や騎士、侍女たちのことが心配で……」
「それについては、戻ったら三公爵と相談しよう」
「ごめんなさい、マティアス様がどうにかするようなことでもないのに」
「いいんだ。リンネアの叔父上が関係することだからな。
できることはしてから帝国に戻ろう」
「ありがとうございます」
馬車が最初の領地についたのは一時間後のことだった。
文官と騎士たちが先について領民に説明し終わっているはずだったが、
なんだかもめているようだ。
マティアス様と私はまだ馬車に乗っているように言われ、
お兄様とケニー様がもめているところに仲裁に入る。
「いったい何をもめているんだ」
「あ、申し訳ありません。領民たちが納得しなくて……」
あなたにおすすめの小説
えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】すり替えられた公爵令嬢
鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。
しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。
妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。
本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。
完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。
視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。
お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。
ロイズ王国
エレイン・フルール男爵令嬢 15歳
ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳
アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳
マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳
マルゲリーターの母 アマンダ・オルターナ
エレインたちの父親 シルベス・オルターナ
パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト
アルフレッドの側近
カシュー・イーシヤ 18歳
ダニエル・ウイロー 16歳
マシュー・イーシヤ 15歳
帝国
エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(前皇帝の姪)
キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹)
隣国ルタオー王国
バーバラ王女
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
厄介払いされてしまいました
たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。
十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。
しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?