もう二度と助けを求めないでください

gacchi(がっち)

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77.畑の作物

馬車が最初の領地についたのは一時間後のことだった。
文官と騎士たちが先について領民に説明し終わっているはずだったが、
なんだかもめているようだ。

マティアス様と私はまだ馬車に乗っているように言われ、
お兄様とケニー様がもめているところに仲裁に入る。

「いったい何をもめているんだ」

「あ、申し訳ありません。領民たちが納得しなくて……」

「どういうことだ?」

その言葉に領民の代表だと思われる若い男性が前に出た。

「急に来て、この作物は王都に送るなと言われても、
 これを売らずにどうやって生活しろというんだ!」

どうやら補償の問題でもめていたらしい。
それに答えたのは文官ではなくお兄様だった。

「心配はしなくていい。損害分は国で支払うことになる」

「本当か!」

「ああ。地毒が発生したというのは聞いたな?」

「……それは聞いた。
 領地の作物は食べちゃいけないのか?」

「いや、処分するのは王都に送る分だけだ。
 それ以外の作物を領民が食べるのは問題ない。
 だが、地毒が発生した以上、ここの作物は汚染されている。
 この後、貴族の口に入れるようなことは絶対に避けるように」

「貴族に売らなければいいんだな?」

確認するように聞いた男性にケニー様は念押しするように答えた。

「ああ。もし隠れて売って、その者が地毒になった場合、
 領民のすべてが処罰対象になると覚えておくんだな」

「処罰って」

「地毒になるとわかって作物を売ったのなら、全員処刑になるだろう」

「しょっ!?」

ようやく事の重大さが理解できたのか、領民たちがざわめく。

「作物を処分するのは、ここだけじゃない。
 この国の全土に汚染は広がっている。
 早く対処しなければならないのだから、急いでここから去れ」

「わ、わかった。みんな、家に戻るぞ!」

 「「お、おう」」

ケニー様の警告におびえたのか、領民たちが去っていく。

いなくなったのを見計らって、文官がため息をついた。

「助かりました。話を聞いてもらえなくて」

「作物を処分すると言われたら、そうなるだろうな」

「国が補償するというのは本当ですか?」

「文官なのに知らないのか?」

「……入ったばかりの新人で申し訳ありません」

入ったばかりであっても、文官の試験を受けたのなら知っているはずなのに。
それだけ王宮で働く者の質が落ちているという事か。

お兄様は呆れながらも文官に教えている。

「エルドレド国法に書いてあるだろう。
 地毒の場合、早急に帝国に救助を求め、帝国の指示にすべて従う。
 かかった費用についてはすべてエルドレドが支払う、と」

「そうなのですね……教えていただきありがとうございます」

「処分する畑を確認して書き記しておけ。
 後で補償する時に書面にしないといけないからな」

「はい!

「では、先に次の領地に行って説明しておいてくれ。
 今度はもめないように頼んだ」

「わかりました!」

文官と騎士たちが乗った馬車が出ていく。
ようやくマティアス様の出番が来たようだ。

馬車から降りて、マティアス様の行動を見守る。

「三人とも畑から少し離れていて」

「わかりました」

危険が及ばない場所まで離れると、お兄様とケニー様が前に立った。

「何があるかわからないから、後ろに隠れていて」

「危ないと思ったら、俺を盾にしてくれな!」

「二人とも、ありがとう」

二人の背から顔を出すようにしてみると、マティアス様が畑に入っていく。
広大な畑の真ん中あたりまで行くと、立ち止まる。

そこから光の輪が大きく広がっていく……。
光が畑の隅まで行ったと思ったら、次の瞬間、作物から火が上がった。

「え?」

「うわっ!」

「……作物が発火した?」

お兄様が言うように、作物自体が発火したように見えた。
作物以外は燃えていない。
数百以上の火があちこちから上がっている。

少しして、作物が燃えて灰になったと思ったら、雨が降り始めた。

「この雨は自然のものか?」

「いや、違うな。畑の上にしか降っていない」

「これもマティアス様が……」

マティアス様も雨に打たれ、うなだれているように見える。
秘術を使ったから疲れているのか、それとも……

「お兄様、もう作物は燃え尽きましたよね?」

「ああ、そう見える」

「この領地はこれで終わりですよね?」

「そうだね」

「迎えに行ってきます!」

「え、迎え?」

引き留められるかと思ったけれど、お兄様をケニー様が止めてくれた。

ぬかるんだ畑は走りにくく、滑りそうになりながらマティアス様のもとへ向かう。

「リンネア!?」

「マティアス様、いつまで雨の中にいるのですか!
 このままでは風邪をひいてしまいます!」

「え?風邪?俺が?」

「そうです!この雨は火を消すためなのでしょう?
 だったら、マティアス様まで濡れる必要はないはずです!
 馬車に戻りましょう?」

マティアス様が上を見上げたら、雨はやむ。
あたり一面の畑には点々と黒くなった灰が見える。

これだけたくさんの作物を一気に消したんだ……。

「……リンネアは俺がこわ」

「くないです!さ、行きますよ!」

やっぱり。秘術を使ったことで、私たちが怯えるかもしれないと疑っていた。
たしかに秘術には驚いたけれど、だからといってマティアス様が怖いわけはない。

これはエルドレドを助けるために使われた秘術なのだから。

マティアス様の手を引っ張って馬車まで戻ると、
お兄様とケニー様が布を広げて待っていた。

「ほら、早くこれで拭いて!」

「リンネアまでこんなに濡れて……」

「ああ、すまないな」

「お兄様、ありがとうございます」

ケニー様に頭から布をかけられたマティアス様が笑っている。
それを見て、無理にでもついてきて良かったと思えた。




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