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88.信じられない報告
クララを逃がしてしまった後、覚悟はしていたことだけど、
二人の情報は入らなくなってしまった。
騎士が探しても見つかることはなく、平民からの通報もない。
もしかして二人は帝国からいなくなったのかと思ったけれど、
お兄様の予想は違っていた。
「まだいると思います」
「どうしてそう思うんだ?」
「王都の警吏が報告している亡くなった平民の数を確認しました。
それによると二人が帝国に入ったころから毎日少しずつ増えています。
情報が入らなくなった後もそれは続いています」
「亡くなった平民の数……」
「いなくなったのなら、例年通りの数に戻るはずなんです」
「そういうことか……」
治癒術は相手の魔力を利用して怪我や病気を治療する。
だが、魔力が足りない場合は寿命を消費してしまう。
どうしてクララは治癒術を使い続けるのだろうか。
魔力がない平民相手に治癒術を使えばそうなるとわかっているのに、
二人は治癒術を使うのをやめない。
王族であることを認めさせると言っていたけれど、
それと平民相手に治癒術を使うのはどう結びつくのかわからない。
お兄様の報告を聞いて不愉快に思ったのか、
アラン様が信じられないとつぶやいた。
「あの二人は自分たちが人を殺している自覚があるんですよね?」
「わかってはいると思うが、自覚はしていないかもしれないな」
「どういうことですか?こんなに死んでいるのに自覚がないとは」
「目の前で死んでいないからだ」
「……自分たちが知らないところで死んでいるから、関係ないと?」
理解できないというような表情のアラン様に、
マティアス様は落ち着かせるように説明した。
「事実は理解しているとは思うが、
実際に目の前で人が死んだ時の重みをまだ知らないということだ」
「重みですか?」
「大事な人が亡くなるというのと、小説の中の人物が死ぬのとは感じ方が違う。
どこか他人事に思えているからこそ、こんな真似ができるんだろう」
「……それはありえるかもしれません」
目の前で人が亡くなって、それが自分のせいだとしたら。
その罪の重さを自覚しないわけにはいかない。
だけど、きっとクララたちの前で人が死ぬことはない。
その重みに気がついてくれたらいいのに。
「どうしたらわかってもらえるでしょうか。
捕まえようとしても捕まえられない。
でも、放っておけば平民の犠牲は増えるばかりだわ……」
あの時、もっと真剣に治癒術を止めるべきだった。
王族だとか、マティアス様の婚約者とか、
そういう話をしている場合じゃなかったのに。
一刻も早く対策を取らなくてはいけないと悩んでいると、
お兄様が対策案を出してくれた。
「平民に知らせましょう。
治癒術だと嘘をついている怪しい父娘がいると。
亡くなった平民の数も公表して」
「信じると思うか?被害者の家族が隠しているというのに」
「被害者の家族が何も訴えずに黙っているのは、
王家に知られたらまずいと思っているからでしょう。
だから、王家が追っているのはその二人だけで、
治癒術を受けた家族は騙されただけの被害者だとわかれば、
その者たちは周りに言いまわるでしょう。騙された、と」
「……よし、その方法でいこう。
平民相手に治癒術を使えなくなれば、泊る場所がなくなる。
そうなれば捕まえやすくなるし、他国に逃げるかもしれない」
「では、すぐに手配してきましょう」
これがどのくらい効果があるのかはわからないけれど、
とにかく早く平民に知らせた方がいい。
次の犠牲が出ないうちに、治癒術が危険だと知ってほしい。
お兄様は騎士に命じに行くために部屋から出て行った。
話し合いが終わり、休憩のためにお茶を淹れていると、
部屋のすみに控えていたカルラに声をかけられる。
「リンネア様、そろそろ時間です」
「もうそんな時間?お茶を淹れたら行くわ」
「リンネアも忙しいな。またあとで」
「はい」
今日は仕立て屋が来る予定になっている。
結婚式でマティアス様が着るマントの生地を選ぶためだ。
マントの生地を選んで購入し、仕立ててもらい、
それに刺繍をしていく。
婚約者のお披露目の時にマティアス様が身に着けてくれたマントは、
時間がない中で急いで刺繍したものだった。
それだけじゃなく、アンジェラ様の代わりに刺繍したもの。
今度はきちんと心をこめて刺繍したい。
「楽しそうですね、リンネア様」
「ええ、マティアス様のことを思って刺繍できるんだもの。
こんな幸せなことはないと思うわ」
「ふふふ。今度は寝不足になるのは許されませんよ」
「それは気をつけるわ。マティアス様に注意されそうだもの」
まさかあの頃のことがこんな風に笑い話になるなんて思わなかった。
過ぎてしまえば、すべてが決まっていたことのように思える。
あとはクララたちの問題さえ解決できれば、何も問題はなくなる。
エルドレドのこともユグドレアのことも気にしなくていい。
そんな風に油断していたのが悪かったのか、
三日後にその一報が入った時、何を言われたのかわからなかった。
「……ユーリイスが遺体で見つかったそうです」
「……え?」
二人の情報は入らなくなってしまった。
騎士が探しても見つかることはなく、平民からの通報もない。
もしかして二人は帝国からいなくなったのかと思ったけれど、
お兄様の予想は違っていた。
「まだいると思います」
「どうしてそう思うんだ?」
「王都の警吏が報告している亡くなった平民の数を確認しました。
それによると二人が帝国に入ったころから毎日少しずつ増えています。
情報が入らなくなった後もそれは続いています」
「亡くなった平民の数……」
「いなくなったのなら、例年通りの数に戻るはずなんです」
「そういうことか……」
治癒術は相手の魔力を利用して怪我や病気を治療する。
だが、魔力が足りない場合は寿命を消費してしまう。
どうしてクララは治癒術を使い続けるのだろうか。
魔力がない平民相手に治癒術を使えばそうなるとわかっているのに、
二人は治癒術を使うのをやめない。
王族であることを認めさせると言っていたけれど、
それと平民相手に治癒術を使うのはどう結びつくのかわからない。
お兄様の報告を聞いて不愉快に思ったのか、
アラン様が信じられないとつぶやいた。
「あの二人は自分たちが人を殺している自覚があるんですよね?」
「わかってはいると思うが、自覚はしていないかもしれないな」
「どういうことですか?こんなに死んでいるのに自覚がないとは」
「目の前で死んでいないからだ」
「……自分たちが知らないところで死んでいるから、関係ないと?」
理解できないというような表情のアラン様に、
マティアス様は落ち着かせるように説明した。
「事実は理解しているとは思うが、
実際に目の前で人が死んだ時の重みをまだ知らないということだ」
「重みですか?」
「大事な人が亡くなるというのと、小説の中の人物が死ぬのとは感じ方が違う。
どこか他人事に思えているからこそ、こんな真似ができるんだろう」
「……それはありえるかもしれません」
目の前で人が亡くなって、それが自分のせいだとしたら。
その罪の重さを自覚しないわけにはいかない。
だけど、きっとクララたちの前で人が死ぬことはない。
その重みに気がついてくれたらいいのに。
「どうしたらわかってもらえるでしょうか。
捕まえようとしても捕まえられない。
でも、放っておけば平民の犠牲は増えるばかりだわ……」
あの時、もっと真剣に治癒術を止めるべきだった。
王族だとか、マティアス様の婚約者とか、
そういう話をしている場合じゃなかったのに。
一刻も早く対策を取らなくてはいけないと悩んでいると、
お兄様が対策案を出してくれた。
「平民に知らせましょう。
治癒術だと嘘をついている怪しい父娘がいると。
亡くなった平民の数も公表して」
「信じると思うか?被害者の家族が隠しているというのに」
「被害者の家族が何も訴えずに黙っているのは、
王家に知られたらまずいと思っているからでしょう。
だから、王家が追っているのはその二人だけで、
治癒術を受けた家族は騙されただけの被害者だとわかれば、
その者たちは周りに言いまわるでしょう。騙された、と」
「……よし、その方法でいこう。
平民相手に治癒術を使えなくなれば、泊る場所がなくなる。
そうなれば捕まえやすくなるし、他国に逃げるかもしれない」
「では、すぐに手配してきましょう」
これがどのくらい効果があるのかはわからないけれど、
とにかく早く平民に知らせた方がいい。
次の犠牲が出ないうちに、治癒術が危険だと知ってほしい。
お兄様は騎士に命じに行くために部屋から出て行った。
話し合いが終わり、休憩のためにお茶を淹れていると、
部屋のすみに控えていたカルラに声をかけられる。
「リンネア様、そろそろ時間です」
「もうそんな時間?お茶を淹れたら行くわ」
「リンネアも忙しいな。またあとで」
「はい」
今日は仕立て屋が来る予定になっている。
結婚式でマティアス様が着るマントの生地を選ぶためだ。
マントの生地を選んで購入し、仕立ててもらい、
それに刺繍をしていく。
婚約者のお披露目の時にマティアス様が身に着けてくれたマントは、
時間がない中で急いで刺繍したものだった。
それだけじゃなく、アンジェラ様の代わりに刺繍したもの。
今度はきちんと心をこめて刺繍したい。
「楽しそうですね、リンネア様」
「ええ、マティアス様のことを思って刺繍できるんだもの。
こんな幸せなことはないと思うわ」
「ふふふ。今度は寝不足になるのは許されませんよ」
「それは気をつけるわ。マティアス様に注意されそうだもの」
まさかあの頃のことがこんな風に笑い話になるなんて思わなかった。
過ぎてしまえば、すべてが決まっていたことのように思える。
あとはクララたちの問題さえ解決できれば、何も問題はなくなる。
エルドレドのこともユグドレアのことも気にしなくていい。
そんな風に油断していたのが悪かったのか、
三日後にその一報が入った時、何を言われたのかわからなかった。
「……ユーリイスが遺体で見つかったそうです」
「……え?」
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