妹に悪役令嬢にされて隣国の聖女になりました

りんりん

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29、フラン様との再会

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 フラン様はコツコツと靴音をたてながら、こちらに向かって歩いてくる。

 玄関から私のいるカウンターまでの距離はとても短い。

 けど、私の目にはフラン様の動きがスローモーションになって見えているから、とても長く感じられた。

「あのう君はもしかしたら、僕を助けてくれたハリス君かな」

 フラン様は私の前で立ちどまると、首を傾げる。

 今日のフラン様の髪はなぜか黒い。

 前にあった時は、輝くようなブロンドだったのに。

 前髪をまとめて全部後ろに流して、白いシャツに黒いベストとパンツを着ている。

 まるでちょっとオシャレなレストランで働くボーイさんみたいだ。

 一体どうしたのかな。

 心境の変化によるイメージチェンジってわけ?。

 貴公子風と同じぐらいこの姿も素敵なのだけれど。 

 そう思った瞬間、頬が熱くなったのが自分でもわかる。

 ここにミーナがいなくてよかったわ。

 こんな私を見たら、きっとすごく調子にのってからかうはずだから。

「ハリス君ですか?
 私は男の子の格好をしてないのに、どうしてそう思われるのですか。
 フラン様」

 椅子から立ち上がると、フラン様の透き通った瞳を見据える。

 肩先でクルンとカールした髪。

 白い襟にエンジ色のワンピース。

 今日の私はどこからどう見ても女の子のはずだもの。

「光によって銀色にも金色にもピンク色にも見えるその瞳だよ。
 こんな珍しくて綺麗な瞳を持っているのは、ハリス君しかいないから」

 フラン様はそう言うと、なぜかちょっと頬を赤らめた。

 生まれて初めて瞳をほめられた私は私で、やはり顔を赤くする。 

「そうですか。
 たしかに私があの時のハリスです」

「よかった。やっと見つけた。
 あの時のお礼をしたくて、あちこち探してたんだけどなかなか見つからなくて、実は相当落ち込んでいたんだ」

 そう言ってフラン様は満面の笑顔をみせた。 

 アラン様のつくり笑いと違って、フラン様の純粋な笑顔には心がいやされる。

「お礼なんていいです。
 当たり前の事をしただけですから」

「いや。
 それでは僕の気持ちがすまない。 
 本当は豪華なプレゼントを山ほど贈りたいんだけど、敵に追われる身ではそれはできないんだ。
 今はね。
 平民を装って、レストランでアルバイトをしているんだ。
 だから、こんな格好をしてるんだけど、おかしいかな」

 フラン様はちょっと恥ずかしそうに頭をかく。 

「大丈夫です。
 全然おかしくないです。
 それどころか、すごくお似合いです」

「ありがとう。
 そう言ってもらえると喜しいよ。
 喜しいと言えば、さっき僕を見てすぐにフランだとわかってくれだだろ。
 あの時も喜しかったな。
 けど、どうしてすぐに僕だってわかったの。 
 フランだってわからないように、変装しているつもりなのに」

「そ、それは。
 エメラルドの宝石のような瞳は、私が知ってる中ではフラン様しかいないからです」 

 これってコクっているのも同然かな。

 なんだか恥ずかしくなって、耳たぶまで真っ赤になってゆくのが自分でもわかる。

 ああ、私ってダメだな。

「そんな風に言ってもらえて本当に喜しいよ。
 さっきから僕は君にいっぱい喜しいをもらってるね」

 フラン様は私の様子に気がつかないふりをしてくれて、ただ静かに微笑むだけだ。

 そして、
「僕からのささやかなお礼です。 どうか受け取って下さい」
と言って、胸の中に手をしのばせ中から小さな細工の美しい小瓶をとりだす。

「いえ。けっこうです。
 そんな高価な物は受け取れません」

 なんだかんだ言ってもフラン様は一国の王子なのだ。 

 きっとあの小瓶は高級な香水に違いない。

 私はフラン様の前に両手を広げて辞退する

「悪いけどこれは全然高価じゃないんだ。
 ただの空気だよ」

 フラン様は戸惑ったような声をだす。

「え? ただの空気ですか」

 私は予想外の展開に言葉をつまらせる。
 




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