妹に悪役令嬢にされて隣国の聖女になりました

りんりん

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28、私の宝石箱

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「アイリーン。
 今から市場へスイーツ買いに行ってくる。
 悪いけど、留守番を頼んだよ。
 すぐに帰ってくるさ」

 リトルドリームのカウンターに座り作家達に渡すお金を計算していたら、頭上からブランチさんの声がふってきた。

「え、また今日もですか。
 ブランチさん。
 いくらなんでもスイーツ愛過剰じゃないですか」

 私は手を止めて、目をおよがすイケオジ様を見上げる。

「そんなにブランチさんをせめないでよう。
 私達も、おかげで毎日可愛いお菓子にありつけるんだからさ。
 ケチくさいカーラのところにいた時に比べたら、天国じゃん」

「けど、ブランチさんが糖尿病にならないか心配なのよ」

 ブランチさんと暮らしたこの数日は、とても楽しかった。

 自分で料理をしたり、リトルドリームのお店で働いたり、まるで平民の娘のような生活だったけど私の性に合っていたみたい。

 それだけにブランチさんを失うのがとても怖いのだ。

「自分の事を心配してくれる人がいるっていうのは、とてもありがたいね。
 けど、スイーツに関してはナシだよ」

 ブランチさんは指でバッテンをつくってダメだしをすると、勢いよく扉を開いて店から逃げるようにして出て行く。

「ブランチさーん。
 ミーナはマンゴゼリーがいいよ。
 他にも欲しいものがいっぱいあるから、ミーナも一緒に行くよ」

 ミーナはカウンターから床に飛び移ると、ピョコンピョコンとはねながら、ブランチさんの背中に声をはり上げる。

 まったく食いしん坊な魔道具ね。

   リトルドリームではミーナは、猫ぐらいの大きさで暮らしている。

   カーラやマリーンから隠れる必要がなくなったからなんだけど、ミーナののびのびした様子にホッコリするのだ。

「ミーナ。
 外に出たんなら、扉に『オープン』の札をかけてくれない」

「了解、了解。
 他にもすることがあるなら言ってよ」

「ならジョーロに変身して、お店の前にお水をまいてちょうだい」

「わかったよ。
 アイリーンったら、すっかりこのお店の主みたい。
 このさい、ブランチさんからお店をのっとれば。
 じゃあ、ミーナも行ってきまーす」

「私このお店が大好きだから、そうしようかな、なんちゃって」

 道路に水をまくミーナに冗談を言ってから、棚に並んだ本に順番にハタキをかける。
 
 ここにある本は、どれも作者の手書き原稿を二つ折りにして糸でまとめた超簡単なものだ。

 粗末な本だけど、無名の作者達にとっては自分の色々な想いがこもった宝物だと思う。

 マカロン夫人の名前をかりた私がそうだったように。

 読者達は、綺麗に製本された本が買えない貧しい平民がほとんどだ。

 でも、頬を紅潮させ、目をキラキラさせて本を選んでいる姿はとても美しかった。

「リトルドリームは、たくさんの夢がつまった宝石箱みたいね」

 なんて思わず呟いたけど、ちょっとキザだったかしらね。

 恥かしくて、ペロリと舌をだした時だった。 

 カランとベルをならして扉が開く。

「いらっしゃいませ!」

 今日、1番のお客様だ。

 声を弾ませて扉へ視線を移すと、まん丸に目を見開いて驚いた。

 扉から現れたのがフラン様だったからだ。





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